第75話 氷の女王

 闘技場に上がると、クリステル先輩が堂々としたオーラを放ち待ち構えていた。


「お待ちしておりましたわ」

「クリステル先輩。すいません、お待たせしました」

「いいえ構いませんわ。シリウスさん、お手柔らかにお願いいたしますわ」


 クリステルさんはふわりと優雅に一礼し、不敵に笑った。


 言葉と表情が一致してないんだよなぁ……負けないですわって顔に書いてあるぞ。


「準決勝二戦目!! 一戦目と同じく一学年、雷帝シリウス選手対二学年、氷の女王クリステル選手です!」


 ユリア先輩の雷帝という言葉に思わず苦笑いが漏れる。

 そんな僕をみてクリステル先輩は微笑んでいた。


「ふふっ」

「……なんですか?」

「いえ……すいませんわ。こうして見ていると本当にただの子どもにしか見えませんのに……と思いまして」


 確かに学年入学可能な最低年齢である自分は他の人からしたら子どもにしか見えないのかも知れないが……複雑な心境である。


「ただの子どもなので手加減してくれたりしませんか?」

「ただの子どもであればこんな場所にはいらっしゃいませんわ」

「違いないですね」


 ハハハ、フフフと互いを探り合つつ表面のみの笑顔で笑い合う。


「それではそろそろ行きますよ! 準決勝二戦目……開始!!」


「『氷結界アイスバーン』『氷槍雨アイシクルレイン』」


 試合開始と共にクリステル先輩は地面を凍結させ、複数の氷の槍を放ってきた。

 クリステル先輩の『氷槍雨アイシクルレイン』に合わせて『雷槍雨ライトニングレイン』を放つ。

 先輩の込めた魔力量を『解析』し、若干上回る威力で放った『雷槍雨ライトニングレイン』は先輩の魔術を全て撃ち落としつつ、そのまま先輩に飛来した。


「『詠唱破棄』でその威力……規格外ですわね……! 『氷華グラスフィオーレ』」


 クリステル先輩の周囲に五輪の氷の華が浮かび上がり、雷の槍から身を護る盾となった。

 氷の槍に威力の大半を削られていた雷の槍は氷の華によって簡単に防がれる。

 しかしそれを抜きにしても、上級魔術クラスの力を秘めていると見受けられる。


 そして試合開始と共に創られた氷のフィールド。スケートリンクのような地面は酷く滑りやすく、近接戦闘の要である機動力を奪い去る。身体能力で劣る魔術師である相手を接近させないことを徹底している。

 この氷のフィールドで戦うためにはいくつかの対策が思いつくが……


「『細氷ダイヤモンドダスト』」


 どう戦うか数秒脳内でシミュレーションしていると、クリステル先輩に機先を制された。

 瞬く間に闘技場の気温が低下し、細かい氷の結晶が漂いはじめた。

 大気中に漂う氷晶は光をキラキラと反射し、輝いている。


「ふふふ……シリウスさん、貴方は相手の動きを観察することを重視しているようですわね。しかし私相手に限っては、その時間が命取りわね」


 不敵に笑いながら語るクリステル先輩の言に眉をひそめる。

 闘技場を満たすクリステル先輩の魔力をピリピリと肌に感じ、それを証明するように『魔力感知』が乱されている。

 ……この氷晶全てがクリステル先輩の魔力の結晶なのか……?

 嫌な予感を感じ、背筋に冷や汗が伝う。


「もうこのフィールドは、私が支配しましたわ!」


 背後に魔力の高まりを感知し、即座にクリステル先輩に向けて翔けた。

 滑らないように氷を叩き割る程の力を脚に込めて地を蹴る。

 背後から迫る氷の槍を『物理探知』で確認し、振り返らずに夜一で迎撃する。

 『詠唱破棄』……いや、『細氷ダイヤモンドダスト』で散らした氷と魔力を使っているのか?


「貴方の脚力はどうなっていますの!? 『氷柱アイスピラー』!!」


 凄まじい勢いで氷を割りながら接近してくる僕にクリステル先輩は顔を青ざめさせ、即座に『氷柱アイスピラー』で宙空に退避した。


「雷魔術師を相手に高い場所へ逃げるのは下策ですよ、先輩!」


 即座に『墜雷サンダーボルト』を放つ。魔術により生み出された雷はまるで避雷針に吸い寄せられるかのようにクリステル先輩に直撃した。


「くぅっ! やりますわねッ……!」


 それを障壁で防いだクリステル先輩は低空機動に切り替え、地を跳ねるように『氷柱アイスピラー』で距離を取りはじめた。

 そして距離を取りつつも様々な角度からノンアクションで『氷槍アイシクルジャベリン』を放ち続けてくる。


 通常、術者から射出されるはずの『氷槍アイシクルジャベリン』が死角から、しかも『詠唱破棄』で次々と襲いかかってくるのを夜一で往なしていく。

 『細氷ダイヤモンドダスト』により『魔力感知』を乱されているため、僅かな魔力の高まりの感知と『物理探知』の併用でギリギリ迎撃できている状態だ。


 またクリステル先輩の低空機動も普段の僕であれば余裕で追いつく速度であったが、氷の槍を迎撃しながら強く踏み込んで氷を割りながら移動せねばならず、全く距離が縮まらない。


「す、凄まじい攻防です!! クリステル選手、怒涛の魔術の嵐をシリウス選手に浴びせています! シリウス選手、中々クリステル選手に近づくことができません!!」


 このままでは埒が明かないな。とにかく氷のフィールドが鬱陶しい。

 これをどうにかするには……


 脳内で高速で術式と魔術イメージを固めていく。

 試合中だ、簡易的な物でいい。単純にこのフィールドをどうにかできさえすれば。


 粗だらけであるがこの状況に対応するには必要十分であろう魔術を脳内で構築し終える。

 ぶっつけ本番であるため、少しでも安定性と効果を高めるために魔術名を紡ぐ。


「『伏雷フシイカヅチ』」


 発語と共に右脚を踏み抜く。


――バチチチチィィィッ!!


 すると踏み抜いた箇所から放射状に雷が地を這い、闘技場を眩い光で照らした。

 地を走る電流によって、氷のフィールドがひび割れ、所々溶解した。


「きゃぁっ!?」


 低空を移動していたクリステル先輩は直撃しなかったものの、突然の放電音と舞い上がる氷の破片に驚き腕で顔を覆っていた。


 すかさず『雷光付与ライトニングオーラ』で敏捷性を強化し、ひび割れにより摩擦が生じた氷の上を駆け抜ける。

 クリステル先輩が顔を覆った腕を解きこちらを振り向いた時には、手が触れる距離まで接近していた。


「――ッ!? 『氷華乱舞ダンス・フィオーレ』!!」


 クリステル先輩へ夜一を振り抜いたが、先輩の周囲に浮遊していた氷華の花びらが舞い、攻撃に割り込んできた。

 五輪の華の五枚の花びら、合計二十五枚の氷の刃が四方八方から襲いかかってくる。


瞬雷ブリッツアクセル


 雷を身に纏い、振るう刀が残像を残す。

 超加速した夜一の威力は跳ね上がり、まるで薄ガラスを割っていくかの如く一瞬で二十五の花びらが氷の結晶となり舞い散った。


「うそ……」


 信じられない物を見たかの様に目を見開いたクリステル先輩に、容赦なく夜一を叩き込む。

 その黒い刀身により意識を手放した先輩は、闘技場の外へ退場させられた。


「な、な、なんとぉぉぉ!!! ま、まさか勝ってしまいました!! シリウス選手、なんと一学年にして決勝戦進出決定です!! 本大会初の一学年選手の決勝戦進出です!!」


 ユリア先輩の宣言の後、一拍遅れて会場は大歓声に包まれた。

 何かを叫び手を振っているシャーロットさんとクラスメイトを見て、笑顔を向け手を振りかえした。

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