第74話 灼熱の挑戦

 シャーロットさんとの学園祭巡りは目の保養というか幸せと言っても過言ではない時間であったが、その分精神的な疲労を伴うものであった。


 その疲れをやや引きずりつつ学園祭最終日、闘技場にやってきた。

 闘技場に来るなり王女様に呼び出され「頑張ってくださいね!」との檄を受けてやる気が漲ってきたのは男の性だろう。



「さて!! 準決勝は……炎の化身、灼熱少女こと一学年ロゼ選手対前回優勝者、三学年シオン選手の対決です!! 一学年にして準決勝まで進出してきた鬼才は前回優勝者を打ち破ることが出来るのでしょうか!?」


 闘技場には身の丈以上の長杖を持ったロゼさんと涼しい顔をしてにこにことしているシオン先輩が向かい合っている。

 ロゼさんは気合十分といった様相で、既に体から放たれている魔力により陽炎を発生させ周囲の空気を歪ませている。

 そんな鋭い空気を感じさせない軽薄さでシオン先輩は手足をぷらぷらと揺らし軽い柔軟を行っていた。


「それでは準決勝戦……開始!!」


「『炎槍雨フレイムレイン』」


 試合開始と共に、ロゼさんが無数の炎の槍を射出した。

 高速で飛来する槍をシオン先輩は軽快なステップでそれらを躱していく。


「『爆炎ブレイズボム』」


 ロゼさんはシオン先輩に攻撃を躱されても眉一つ動かさずに炎の槍に小さな火の玉を混ぜていく。

 そして火の玉はシオン先輩が避けた瞬間に爆裂した。


―――ズガァァンッ ズガァァンッ ズドォォンッ


 シオン先輩がいた場所でいくつもの爆炎が迸った。

 完全に直撃したというタイミングであったが……シオン先輩は羽虫を払うかの如く手を払い、爆炎を霧散させた。


「ふぅん、なるほどね」


 シオン先輩が事もなげに『爆炎ブレイズボム』を防いだことでロゼさんの眉が寄る。


「『爆炎弾ブレイズランチャー』」


 ロゼさんは手を休めずに即座に、炎の尾を引く弾丸を放った。

 それも同じくシオン先輩が軽く手を振ることで爆炎は散ってしまう。


「熱い、ね。余波だけでこれとは相当な熱量だ。君はだね。でも、一対一の勝負には向いていないタイプだ」


 シオン先輩による評価にロゼさんは顔を顰める。

 先輩はそんなロゼさんを見てフッと爽やかに笑った。


「行くよ?」


 シオン先輩は軽い足取りで地を蹴り、ロゼさんに急接近した。


「くっ!? 『炎槍雨フレイムレイン』!」


 ロゼさんは背後に下がりつつ、迫り来るシオン先輩に向かって炎の槍を射出する。

 シオン先輩が手で軽く払うと、炎の槍が螺旋を描き先輩の体を自ら避けていく。

 それを目撃し、今までなんとか冷静を保っていたロゼさんの目が見開かれた。


「――ッ!? 物理的干渉!?」

「どうかなッ!?」


 ロゼさんの魔術を全て無効化したシオン先輩は瞬く間にロゼさんに接近していた。


「『炎障壁フレイムバリア』『炎刃バーンエッジ』!」


 シオン先輩の放った拳がロゼさんの障壁がぶつかり、火花を散らす。

 障壁に拒まれたシオン先輩にロゼさんが炎の刃を振り下ろした。


 しかしシオン先輩にとって魔術師であるロゼさんの振るう刃はあまりに単純で遅緩なものであった。

 余裕を持って回避しつつロゼさんの後ろに回り込み、障壁に掌底を叩き込む。

 まるでガラスが割れるかのような甲高い音を立て、ロゼさんの障壁が砕け散った。


「『反炎爆カウンターブレイズ』ッ!」


 障壁が砕けると同時にロゼさんが炎に包まれ、自動反射の防御壁が構築される。

 しかしシオン先輩はロゼさんを包み込む炎に目もくれず、そのまま拳を叩き込んだ。


「な――ガッ!?」


 『反炎爆カウンターブレイズ』による爆炎は先輩に一切の熱傷を与えることなく拳から放射状に霧散し、先輩の拳は何の障害も無く真っ直ぐにロゼさんを貫いていた。


「勝者、シオン選手! 決勝進出です! 優秀な後輩に前回優勝者の威厳を見せつける形となりました!」


 大歓声の中、観客に手を振り笑顔で応えるシオン先輩。


 闘技場から退場させられていたロゼさんは杖をついて立ち上がり、控室へ戻ってきた。


「…………負けた」


 俯き、いつも以上に小さな声でロゼさんは僕に一言告げた。


 そんなロゼさんを見ていられず、思わず頭をぽんぽんと撫でた。


「ロゼさんは頑張りましたよ。かたきは僕がきっちり取ります」


 黙って頷くロゼさんをもう一度軽く撫で、闘技場に足を向けた。

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