第76話 決勝戦
「それではセントラル冒険者学校武道祭、決勝戦を行います!! まずはこの人、前年度武道祭を二学年にして優勝。今年も余裕の表情で決勝戦の舞台に現れました。学園最強の称号を護り切ることはできるのか!? シオン・エフォート選手!!」
「「「「うおおおおぉぉぉ!!」」」」
決勝戦により会場のテンションはピークに達し、嵐のような歓声に空気が震えている。
シオン先輩はニコニコと微笑みながら観客に手を降った。
「対するは、まさかの一学年、十二歳の若さにして決勝戦進出。魔術と剣術の両方を駆使する天才児!! 最年少優勝記録を塗り替えてしまうのか!? シリウス・アステール選手!!」
「「「「うわああぁぁぁぁぁ!!」」」」
歓声を一身に浴びつつ、努めて笑顔を作って観客席に手を振る。
きちんと笑えているだろうか、不安である。
「うん、こうして向かい合うと分かるね。君の強さが」
シオン先輩が手を差し出してきたので、握手をした。
僕の手を握りつつシオン先輩が目を細めた。
「光栄ですが……殺気を放つのが早くないですか?」
「ふふ、動じない……か。楽しみになってきたね」
「こちらこそ楽しみです。胸を借りるつもりで頑張ります」
笑顔で答えて、シオン先輩の手を握り返す。
先輩も無言で笑みを深め、背を向けて去っていった。もう言葉はいらないということだろう。
先輩の背から迸る気力をピリピリと感じる。
互いに開始位置に付き、武器に手を添える。
先輩の両脇にはチャクラムがぶら下がっていた。チャクラムの刃は鋸のようにギザギザになっている。
今までの試合で一度も使わなかったチャクラムであるが、この試合では使うつもりのようだ。
「それでは決勝戦を始めます。……開始!!!」
先輩は素早くチャクラムを引き抜き、指を輪に通してクルクルと回しはじめた。
いや、クルクルと回すというレベルではない。凄まじい速度で回転している。
――シャイィィィィィン
回転したチャクラムを手放したかと思うと、回転したまま先輩の手甲に吸い付くように固定された。手の甲側に固定されており、まるで腕に電ノコを固定しているかのようだ。
チャクラムには気力が纏われているようだが、それとは別に手甲から雷系統の魔力を感じる。チャクラムを保持するために『
先輩がチャクラムを装備している間に、こちらは『
大体予想はついているが、先輩の能力をもう少しきちんと把握しておきたい。ちょっと小手調べをしよう。
『
周囲に無数の雷の弾丸を生み出し、マシンガンの如く射出する。
シオン先輩は右手を前に翳して弾丸の軌道を逸らせた。
しかし暫く経っても止むこと無く雨あられのように降り注ぐ弾丸に先輩は顔を引き攣らせ、左右にジグザグと動きながら接近してくる。
やはりな、とひとりごちる。
今までの試合を見てきてシオン先輩の攻撃や防御に共通点がある。それは、全てにおいて回転運動を利用しているということだ。
例えば今も弾丸を逸しているが、ただ逸しているだけではなく螺旋を描くように弾が逸れている。
回転力場を生成する闘気で十中八九間違いないだろう。
今なお手の甲で高速回転しているチャクラムもその闘気を利用していると考えれば腑に落ちる。
ただしチャクラムの回転と防御を同時に行っている当たり、相当洗練されている闘気であることが窺える。
接近してきた先輩は『
高速回転しつつ凄まじい速さで飛来するチャクラムは『
咄嗟に叩き落とそうとチャクラムを夜一で斬りつけると、予想外の凄まじい力で夜一が弾き飛ばされそうになり、体ごと思い切り引っ張られて上体が仰け反る。
ギザギザの刃に武器を引っ掛けて回転力で相手の武器を弾き飛ばす仕組みか!
「隙あり!」
そこへ先輩がチャクラムを装着したままの右拳を放ってきた。
弾き飛ばされる力に逆らわずに体を一回転させて、そのまま夜一を横っ面から先輩の拳に叩きつけた。
チャクラムと夜一がぶつかり合い、互いに弾かれるように後ろに跳躍する。
着地した先輩の元へ、投擲したチャクラムが放物線を描き戻っていく。
手甲を凹ませる位できるかと思ったが、やはり回転力場で運動エネルギーのベクトルを逸らされており、傷一つ付いていないようだ。
「その黒い刀、重いね。細さとは相反して暴力的な威力だ」
「先輩の回転力を生み出す闘気に簡単に逸らされちゃいましたけどね」
シオン先輩は僕の言葉にピクリと反応を示し、小さく嘆息した。
「流石にもうバレてるか。そう、僕の闘気は『
堂々と自らの闘気を教えてくれるシオン先輩。
回転力を生み出すという単純な闘気である分、知ったところで対策をとることが難しい技だ。
隠しもせずに教えてくれるのは、知ったところでどうしようもないという自信からだろう。
実際、物理攻撃も魔術攻撃も簡単に防がれるというのは相当厳しい。
「シリウス君
そう言うとシオン先輩は今までの試合とは桁違いの密度の気を練り上げていく。
相当な気力量をきっちりと操り、高密度に圧縮している。
それに無駄に漏れ出したりもしていない、美しい程の気力の操作だ。
で気力を高めたシオン先輩は下半身に気力を集中し、一足飛びに接近してくる。
それと同時に両手のチャクラムを死角から攻めるように射出していた。
まずは夜一で先輩を迎撃する。
先輩は打撃系の武術の使い手のようで、滑らかな動きで拳や蹴りを放ってくる。
夜一でそれを往なすが、一々攻撃に回転力をかけてくるため刀を引き戻して次の攻撃を受けるのに精一杯となり、中々こちらから攻めることができない。
重量のある夜一だからまだ完全に弾き飛ばされていないが、軽い武器であれば簡単に弾き飛ばされていただろう。
一合、二合、三合と瞬く間に放たれる攻撃を往なしていると、背後の二方向からチャクラムが飛来してきた。
位置は『物理探知』により視認せずとも把握できている。
チャクラムが目前に迫った瞬間、『
僕に迫ろうとする回転力と『
そしてその僕の目の前には、蹴りを夜一により受けられたシオン先輩がいた。
「先輩、お返しします!」
「うおっ!?」
先輩はすかさずバックステップを踏みながら両手を前に出して、回転したままのチャクラムを手甲に収めた。
先輩がチャクラムに意識が行った隙に、すかさず『
先輩に直撃するかと思われた居合いであったが、またもや見えない力場に逸らされて地を穿つ。
しかし先輩も完全に力を逸らせたわけではないようで、軽く吹き飛ばされて受け身を取っていた。
「隙をついたと思ったのですが……全方向に発動しているとは思いませんでした」
「君の速さは侮れないからね。それでもまさかここまで速さと攻撃力を兼ね備えているとは、まだまだ侮っていたということかな」
先輩は苦笑しつつ軽くストレッチをし、笑顔を消して構えを取った。
その真剣な様子にこちらも軽く腰を落とす。
「正直、君の底が分からない……早めに奥の手を使わせてもらうよ」
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