第70話 再開
学園祭二日目、本日は武道祭にて本戦トーナメントが行われる。
本戦では、予選突破者十五人が学年関係なくランダムで戦いが組まれる。
ちなみに前回優勝者のシオン先輩はシード枠であり、二回戦目からの参戦となっている。
闘技場の外では本戦の賭けが行われていた。ちなみに僕の倍率は二十五倍と、かなりの倍率であった。ちなみにシオン先輩は一.二倍だ。今まで一学年が優勝したことはなかったので、賭ける人もいないのだろう。
願掛けとして十万ゴールドほど自分に賭けておいた。
本日もクラスメイトと共に歩き食いをしつつ闘技場に向かっていると、突然後ろから誰かに抱きつかれた。
「シリウスゥゥゥゥ!!」
突然の出来事にびっくりしたが、視界に入った白銀の髪と聞き覚えのある声で相手が分かった。
「マイルさん、お久しぶりです」
そう、ウルフファングの魔術師、マイルさんだ。
以前迷宮で一緒にボス部屋に入った時に命を助けてからやたらと懐かれてしまっている。
「よぉ、シリウス! 俺らもいるぜ!」
「久しぶり!」
「久しぶりね、ほらマイル、そろそろ離れなさい!」
「やだぁぁぁ」
後ろからウルフファングの皆が遅れてやってきた。
「皆さん、お久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「あぁ、冒険者学校の武道祭っつーと俺ら冒険者の中でも結構見ものだって見に来る奴も多いんだ。俺らはシリウスなら出てるだろうなと思って見に来たわけだ」
「そうだったんですね、久しぶりに皆さんに会えて僕も嬉しいです」
「シリウスゥゥ……スゥハァ……」
マイルさんは僕の髪に頬ずりして深呼吸している。
何か前より悪化している気がするんだが……
正直マイルさんはかなり可愛い人なので、こんなにくっつかれるとどうすればいいのか分からない。
どうしようかと苦笑いしていると、後ろから鋭い視線を感じた。
後ろを振り向くとクラスメイト達がにこにこと笑みをたたえている。
鋭い視線……というか殺意を感じた気がしたんだが、気のせいだったようだ。
「……ねぇ、シリウス。その人達、誰? 私達にも紹介してよ、ねぇ?」
「シ、シシシリウス君……誰かな? その女の人、誰かな?」
「……女たらし」
何故か責められているようなニュアンスに聞こえる気がするが、恐らく気のせいだろう。怒る理由がないしな。
「こちらは冒険者パーティのウルフファングの方達です。以前迷宮でお世話になったことがありまして」
「いやいや、世話になったのはこっちのほうだ。シリウスが居なかったらマイルを失っていたかも知れない、本当に感謝している」
「そう。シリウスのお陰で私は生きている。すなわち私はシリウスの物」
それは違うと思う。
「へ、へぇー……まぁ私もシリウスと出会った時は助けられたわねぇ……ってことは私も――」
「わ、わわたしもシリウス君が居なかったら貴族に奴隷にされていたかも……つまり私はシリウス君の奴隷ってことでいいよね? そうだよね?」
よく聞こえないが、エアさんとアリアさんが途中からぶつぶつと小声で呟きはじめた。
「たまたまですよ。さて時間も迫ってますし、そろそろ闘技場に行きましょうか」
「シリウス殿は時折、非常にクールであるなぁ」
何の話だ?
「さぁマイル、私達は観客席に行くわよ! ほら、離れなさい!」
「ううぅぅ……シリウス、頑張ってね……」
「シリウス、頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます!」
ウルフファングの皆さんと分かれ、闘技場に入っていく。闘技場の入口にはトーナメント表が張り出されていた。
クラスメイト内では、僕とランスロット、ロゼさんとムスケルが同グループとなっていた。
前年度優勝者のシオン先輩は僕とは別グループなので、決勝戦まで当たることはない。
◆
「それでは武道祭本戦、開催します!! 本日はなんとぉ! 特別ゲストがいらっしゃってます! アルトリア国王エドワード・エル・アルトリア様、王妃レイルロッテ・エル・アルトリア様、第三王女シャーロット・エル・アルトリア様です!」
「エドワード・エル・アルトリアだ。アルトリア王国を将来支えてくれるであろう未来の英雄達よ。諸君らの奮闘を楽しみにしている」
国王陛下はこちらを見てニヤッと笑い、奥に立っているシャーロットさんがウインクしてきた。
あの人達、まさか僕を見に来たとかじゃないよね? 流石にそれは自意識過剰だよね?
顔が引き攣るのをなんとか耐えると、近くの男子達が興奮した様子ではしゃいでいた。
「おい、今シャーロット王女俺にウインクしなかったか!?」
「ばっか! 俺に決まってんだろ!!」
「はぁ、分かってねぇなぁ……俺に決まってんだろ?」
そうか、彼らの言う通りやはり僕に向かってではなかったんだろうな。うん、きっとそうだ。冒険者学校の生徒達の活躍を見に来ただけなのだろうきっと。
◆
ハプニングもあったが、まずはロゼさんとムスケルのグループから試合開始である。
ロゼさんは二学年の魔術師の先輩と当たったが、正面から上級魔術で打ち破った。
ロゼさんの魔力は相当なものだとは思っていたが、まさか上級生を正面からねじ伏せるとは流石にびっくりした。
実はロゼさんのクリムゾン家は代々高名な魔術師を輩出している、魔術師の中でもエリートの家系であるとムスケルに教えてもらった。
次にムスケルだが……こちらも魔術師の先輩との勝負であったが、魔術を喰らうことを全く厭わずにその肉体を盾にして突っ込むムスケルに先輩が半泣きしていた。
結局先輩はそのままムスケルに追いつかれて轢かれていた。
……トラウマにならないといいけど……
次に僕らのグループの戦いとなり、ランスロットが二学年の先輩に負けてしまった。
氷魔術で接近を許してもらえず、
先輩の素早く正確無比な魔術行使は見惚れてしまう程だった。あれは相手が悪かったな。
そして遂に僕の番が来た。
「次の試合はー……シリウス選手対マオ選手です!! 一学年同士の戦いですね! Sクラスで最優秀者のシリウス選手を相手に、Aクラスのマオ選手がどう戦うのか、非常に楽しみな一戦です!」
「シリウス君と戦えるなんて、楽しみッス。よろしくお願いするッス」
「僕のことを……? こちらこそよろしくお願いします」
マオさんは小柄な女の子で、黒いジャージのようなものを着ている。全く装飾はなく、動きやすさ重視のようだ。
拳の部分のみ金属性になっている、軽量型のナックルガードを装備しているため、武闘家タイプなのだろう。
マオさんは右手を前に出して半身になって構えている。僕は夜一に手を添えた。
「では、試合開始!!」
マオさんは瞬時に気力を身に纏い、距離を詰めてきた。
凄まじい速度で繰り出される蹴りを、『
まるで躱されることを分かっていたかのように、マオさんは流れるようにコンボを繋いでくる。
その連撃もこちらが回避する方向を先読みして放ってくるため、物凄くやり辛い。
この子、異様に対人戦慣れしているな。
放ってくる蹴りを受け止めて直接『
「危なかったッス……あたしの攻撃が掠りもしないなんて、流石シリウス君ッス」
「まるで僕が何をしようとしていたか分かっているかのような動きでしたね?」
マオさんはカラカラと笑った。
「勿論ッス! 【雷帝】の逆鱗に触れたら雷が落ちるってのは今やセントラルの冒険者の常識ッス!」
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