第69話 最優秀者

「それでは続きまして、一学年予選ニ回戦……開始!!」


 ユリアさんがハイテンションに二回戦の開始を告げる。


 僕らのクラスからはロゼさんが出ていた。

 ロゼさんは身の丈ほどの長杖を持ち、何の気負いもないように立っていた。


 周囲の剣士達がそんなロゼさんに斬りかかる。


「お嬢ちゃん、悪いが詠唱前に退場してもらうっ!!」


 ロゼさんはそんな剣士達を興味なさげに一瞥し、小さな声で魔術名を紡ぐ。


「『反炎爆カウンターブレイズ』」


 一瞬でロゼさんの周囲に火炎球が生成され、剣士達の剣が触れた瞬間大爆発を起こした。


「「「ぐはぁぁっ!!」」」


 剣士達は爆発によって消し飛ばされ、一瞬で退場させられていた。

 剣士達の末路を確認もせず、ロゼさんは続いて魔術を唱える。


「『炎槍雨フレイムレイン』」


 ロゼさんの上空に炎の槍が生成され、雨のように他の生徒に襲いかかった。

 数人はなんとか魔術障壁や盾で身を守ったが、この二度の攻防で半数の生徒が退場した。


「す、すごい! すごいです!! えーと、一学年Sクラスのロゼ選手! 怒涛の火魔術で他選手を蹂躙しています!」


「く、くそおお!! 僕だって詠唱短縮くらいできるぞ! 『水槍アクアランス』!!」


 一人の男子生徒が『水槍アクアランス』をロゼさんに放つ。

 左右から剣士が同時に斬りかかっており、左右への回避は難しそうだ。


「『炎障壁フレイムバリア』『炎円衝サークルフレイム』」


 ロゼさんは『炎障壁フレイムバリア』で 『水槍アクアランス』と二人の剣撃を軽々と防ぎ、その障壁の炎を放射状に放ち三人を焼いた。

 本来火属性は水属性に弱いのだが、精神力の差があまりにあるため属性の不利が覆されていた。

 正直、勝負になっていない。


「『炎槍雨フレイムレイン』」


 残っている生徒達に再度ロゼさんが魔術を放ち、残りの生徒達を片付けた。


「勝者、ロゼ選手!!」


 控え席の面々は騒然としていた。


「あ、あんな小さい子があんなに強いなんて……」

「Sクラスの強さ段違いすぎるだろ」

「ロゼちゃーん! かわいいよー!」


 そしてチラチラと生徒達の視線を感じはじめた。

 ちょうどランスロットがトイレ行ってくるわと席を立った直後くらいからだ。

 彼の危機回避能力を分けて欲しい。


「なぁ、あいつらもSクラスだよな?」

「おい、あいつらから片付けないか?」

「後ろから殺れば或いは……」


 よく聞こえないが、あまり心地の良い視線ではない。

 隣のエアさんも若干萎縮していた。



 その後、三回戦ではランスロットはSクラスであるということを意識されないようにのらりくらりと立ち回り、実力を隠して地味に勝っていた。要領が良い男だ。


 そして四回戦ではAクラスの武闘家の女の子が勝ち抜いていた。

 中国拳法のような動きをしており、剣も魔術も使わずに勝っていた。ムスケルタイプだなとちょっと思ったが、失礼だったので考えるのをやめた。


 そして遂に五回戦、エアさんと僕が出場する試合となった。


「エアさん、お互い頑張りましょう」

「え、えぇ……ところでシリウス、周りから凄い殺気を感じるんだけど……」

「そうですね。僕らがSクラスということはバレているので、最初に一斉にかかってくるつもりなんでしょう」

「やっぱりそうよね……」


 エアさんはげんなりとしていたが、僕は都合がいいなと考えていた。


「それでは一学年ラスト、予選五回戦……開始ッ!!」


 ユリアさんがそう宣言した瞬間、周囲の殺気が膨れ上がり、剣士達は一斉に僕とエアさんに飛びかかってきた。

 とりあえずはまずこの飛びかかって人達を威嚇しよう。

 僕は夜一の柄を軽く握り、一振りした。


――キィンッ


 夜一が鞘を滑る音が響き、それに一拍遅れて生徒達が闘技場の障壁に叩きつけられた音が轟きわたる。


 僕はであったのだが、ただ一人宙に体を躍らせたエアさん以外の生徒は闘技場からいなくなっていた。


 ……マジ? ……運が良かったみたいだ。


 エアさんが地上に降りたスタッという着地音が、静寂に包まれた会場に響く。


「「「う、うおおおおぉぉぉ!?」」」


 やがて観客席から驚愕の声が聞こえてきた。


「な、な、な、何でしょうか今のは!? 私にはよく見えなかったのですが、一学年Sクラスのシリウス選手が剣を抜いた瞬間に一人を残して全ての選手がやられてしまいました!! こ、これが一学年の最優秀者の力だとでも言うのでしょうかっ!?」


 気も魔術も使わずただ一回転しながら剣を振っただけなのに大げさである。

 確かに物凄く上手く行ったが、恐らく皆油断していたからであろう。


「そしてただ一人残ったのは同じくSクラスのエア選手! 今のを回避するとは流石Sクラスです! さぁ面白い展開になってきました!」


 ユリアさん大興奮だ。解説席から身を乗り出して手をぶんぶんと振り回している。


「あんなの見切れるわけないじゃない……嫌な予感がしてジャンプしたらたまたま避けれただけなのに……」


 エアさんは苦笑しながらユリアさんを見上げ、こちらまでは聞こえないが何やらぶつぶつと小さな声で呟いていた。


「全く、なんでこんなクラスに私が入っちゃったのかしら……もうっ! やってやるわよ! 『風纏ウィンディア』『疾風連斬』!!」


 エアさんはキッと鋭い視線をこちらに飛ばし、後ろに跳躍しながら風の刃を連続で飛ばしてきた。

 『雷光付与ライトニングオーラ』で雷を身に纏い、風の刃の間を縫いながらエアさんに接近する。


「早っ! 『突風ブラスト』『風槍連突ランスフォレスト』ッ!」


 エアさんから凄まじい突風が叩きつけられ、後ろに吹き飛ばされそうになる。

 そしてその突風と共に空気の槍が無数に飛来してくる。

 突風で動きが鈍っているところに無数の槍とは、かなりエグい組み合わせだ。


 僕は突風に逆らわず後ろに下がり、風の槍を夜一で捌きはじめる。

 後退する僕を見て、エアさんが不敵に笑った。


「はああぁぁぁ!」


 エアさんの周りに凄まじい勢いで風が吹き荒れる。

 その嵐のような風がエアさんの剣に集まり凝縮されたかと思った瞬間に、エアさんが剣を振り下ろした。


「『嵐風斬閃』!!」


 荒れ狂う風が刃の形を成して、一直線に飛んでくる。

 凄まじい速さで飛来する刃を、『瞬雷ブリッツアクセル』を発動し感覚を加速させて視認する。

 闘技場の床を砕きながら飛来する刃は、もう目前まで迫っていた。


 このタイミングではもう避けきれない……!

 僕は即座に雷薙の柄を握り、居合抜きを放つ。


 『磁力マグネティック』の魔術を付与エンチャントした鞘を通り、刃が超加速する。

 そしてその居合に合わせ、『雷光付与ライトニングオーラ』と『瞬雷ブリッツアクセル』を『開放リベレイト』して斬撃の威力に追加した。


 居合抜きと共に放たれた雷光は、風の刃と共に前方にいたエアさんを飲み込んだ。



 パッカリと闘技場の床に溝が作られ、熱により溶けた床材が溝の中で赤く光り煙を燻らせている。

 静寂の中、僕は闘技場に一人佇んでいた。


「「「わあああああぁぁ!!」」」


「し、し、勝者!! シリウス選手!! す、凄まじい! 凄まじい威力の攻撃でした!! 闘技場が完全に使い物にならなくなっています!!」


「な、なんだあいつ!? なんだあいつ!?」

「あいつが、一学年の最優秀者……バケモノすぎる……」

「あれは魔術か? 剣か? わけわかんねぇぞ!?」


 ……完全にやっちまった。

 強そうな攻撃がきたから返したけど、完全にオーバーキルだったっぽい。


 闘技場の外でエアさんが「やっぱりとんでもないわね」とでも言わんばかりの表情を浮かべていた。


「えーっと……只今の戦闘で闘技場が破損してしまったため修理作業に入ります。次の二学年の予選は一時間後に再開いたします」


 ユリアさんの声を聞きつつ申し訳無さで一杯になる。

 そんな僕をクラスメイト達は苦笑しながら見ていた。


「お前……流石にあれはやりすぎじゃね?」

「流石シリウス殿の筋肉ですな。素晴らしい!」


 ごめんなさいごめんなさい。



 修理作業をしようと集まってきた係員さん達に話をし、代わりに修理をさせてもらった。

 水魔術で冷却し、土魔術で亀裂を埋めて生成して硬質化する。

 僕以上に激しい戦いをする人も絶対いると思うと話し、以前の闘技場より強固になるように修理させてもらった。

 係員さん達が呆れた目でこちらを見ていたような気がするが、きっと気のせいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます