第71話 雷帝

 ……は?

 空いた口が塞がらずに呆けてしまう。


「……なんですか、それは?」

「え? 皆そう言ってるッスよ?」


 一体何故そんな根も葉もない噂が……

 確かに、子どもだと舐めて絡んでくるならず者を何回か『雷撃スタンボルト』で黙らせたことはあったが……いつの間にそんな酷い噂と厨二臭い二つ名が……許せん……


「……僕は【雷帝】なんて二つ名を名乗った覚えはありませんし、無闇矢鱈に人に雷を落とすこともありませんよ?」

「えっ!? そうなんスか!?」

「そうです。今は試合ですから、雷の一つや二つは落としますけど……ね!」


雷矢雨サンダーレイン


「うわわわわ! やっぱり本当じゃないッスか!!」


 マオさんは走りながら雷矢の雨を躱していく。


 ほう、中々すばしっこいな。


墜雷雨サンダーボルトレイン


「ひぎゃあああ!! まっ! やめっ!!」


 雷矢の雨が止む間もなく、今度は雷を落としまくる。

 マオさんは半泣きで転がりながらそれらを回避する。


 あ、掠って服が焦げてる。


「さ、流石【雷帝】だぜ……女の子にも容赦ねぇ……」

「【雷帝】の逆鱗に触れてはいけないんだ」


 外野から【雷帝】という恥ずかしい単語がちょいちょい聞こえてくる。止めてくれ。


「くっ!? 本気で行くッス! 『跳脚』!」


 マオさんは足に気力を集中させ、目にも見えないほどの速さで跳躍してきた。


 勢いそのままで放たれた蹴りを、夜一で弾き飛ばす。

 自らの高速の蹴りを軽々と弾き飛ばされ、マオさんの顔が驚愕で染まる。


「まだまだッス! 奥義『爆勁掌』!!」


 マオさんの掌底が僕の鳩尾に向けて放たれる。

 その掌に集中した気力の流れに危険を察知し、手首を掴んで地面へ叩きつけた。


――バガゴォッ!!


 マオさんの掌が触れた部分から闘技場の床が砕き割れ、破片が飛び散った。

 あまりの威力に背に伝う冷や汗を感じつつ距離を取る。


「な、なんとぉ! マオ選手の奥義、凄い威力です! 床が粉々になっております! そしてそれを難なく躱したシリウス選手、流石です!」


 恐らく今の技は、浸透勁と呼ばれる物の一種だろう。気力を浸透させて内部から破壊させる技だ。

 障壁や武器で受け止めていたら内部から破壊されていたかも知れない。

 これは手加減とかしている場合ではなさそうだ。


「初見で『爆勁掌』を躱されるなんて……流石ッス……!」

「恐ろしい技ですね。気力を浸透させて内部から破壊させるとは」

「ッ!? まさか一回でそこまでバレるとは思わなかったッスね……」

「たまたま似たような技を見たことがあったので……では、そろそろ決めさせてもらいます」


 そう言って僕が構えると、マオさんも起き上がって構えを取る。


『縮地』


 母さんから教わった最上級歩法『縮地』。

 マオさんが使った『跳脚』の上位技術だ。


「え――」


 一瞬でマオさんの目の前に接近し、その移動速度を夜一に乗せてマオさんに叩きつける。

 マオさんは、僕に気づいた瞬間には既に闘技場の障壁に叩きつけられて退場させられていた。


「し、勝者、シリウス選手!! 最後、一体何が起こったのでしょう!? 気づいたらマオ選手が障壁に叩きつけられておりました!」


「い、今のは……もしかして……」


 退場し呆然としているマオさんに手を差し伸べる。


「お疲れ様です、いい勝負でした」

「お、お疲れ様ッス……最後のはもしかして『縮地』……?」

「そうですよ」

「マジッスか!? まさか同学年に『縮地』を使える人がいるなんて思わなかったッス」

「たまたま教えてくれる人がいたので」

「教わって出来るような物じゃないッスけどねぇ……」


 マオさんがジト目で見つめてくる。マオさんならすぐ出来るようになりそうだけどなぁ。


「良かったら今度教えて貰えないッスか?」

「勿論、いいですよ」

「やったッス!」


 マオさんはピョンピョン跳ねて喜んでいた。



 一回戦が終わり、休憩時間に闘技場の修理をまた手伝った。

 マオさんの攻撃で砕け散った床を土魔術で埋め戻して締め固める。

 前回も相当固めていたのだが、マオさんの『爆勁掌』は内部から破壊するため表面の硬さは関係なかった。

 ああいう技は仕方ないと割り切って、とりあえずまた表面だけガチガチにしておいた。


 二回戦は、いきなりロゼさんとムスケルの戦いであった。


「はっはっは! ロゼ殿との勝負であるか! 燃えてくるであるな!」

「ほんとに燃やしてあげる」

「はっはっは!」


 腰に手を当てて高笑いするムスケルと、真顔で杖を持つロゼさん。対象的な二人だ。


「さぁ、二回戦! 最初は一学年同士の戦いです! 全てを燃やし尽くす灼熱少女、ロゼ選手! 対するは筋肉の化身、ムスケル選手です! 炎対肉体、どちらが勝つのでしょうか!! それでは試合……開始!!」


「『爆炎弾ブレイズランチャー』」

「『筋肉波動マッスルインパクト』ォッ!!」


――ズガァァァンッ!!


 二人が放った攻撃が闘技場の中心でぶつかり合い、爆発を起こす。


「むぉぉっ!!『筋肉強化・速マッスルブースト・スピードタイプ』ゥ!『筋肉加速マッスルダッシュ』!!」


 ムスケルは腕をクロスして爆炎の中を突っ切りロゼさんに向かって駆け抜ける。


「ッ!? 『反炎爆カウンターブレイズ』」


 炎に包まれたロゼさんにムスケルがそのまま体当たりをかます。

 ムスケルが炎に触れた瞬間に爆発を起こしムスケルが仰け反る。

 しかしムスケルの攻撃を全て止めきれなかったようでロゼさんも吹っ飛ばされていた。


「くっ! 筋肉馬鹿……」

「ぶっふぁ! 熱い! 熱いですぞ!!」


 あの爆炎を食らってただ熱いってだけで済むのはムスケルくらいではなかろうか。


「『爆炎ブレイズボム』」

「『筋肉強化・力マッスルブースト・パワータイプ』!!」


 ロゼさんの追撃を、ムスケルは筋肉を肥大化させて受けきった。


「筋肉の前では! 全て無力!! 『筋肉激突マッスルクラッシュ』!」


 体の所々が焦げ、煙を発したままムスケルがロゼさんに突っ込む。


「『炎障壁フレイムバリア』『炎刃バーンエッジ』」


 ロゼさんは障壁を張りつつ炎の刃を突き出す。

 ムスケルはそれを見て目を見張り、腕を刃に当てて防ごうとする。


「ッ!?」

「ぬぐはぁっ!」


 ムスケルの凄まじい勢いの突進力により刃はムスケルの喉に深々と突き刺さり、ムスケルは退場させられた。

 ロゼさんも衝撃で闘技場の障壁まで吹き飛ばされていたが、『炎障壁フレイムバリア』でなんとか衝撃を軽減できていたようだ。


「勝者、ロゼ選手!! 強靭な筋肉をも貫く炎の刃が決め手でした! なんと、一学年にして準決勝進出です!」


「むぅ……まさかロゼ殿が近距離魔術を行使するとは……」

「油断大敵」

「そのとおりであるな! 楽しかったである、感謝である!」

「こちらこそ」


 ロゼさんとムスケルが控室へ帰ってきた。


「ロゼさん、準決勝進出おめでとうございます。ムスケル、お疲れ様です」

「ありがとう。シリウス、決勝で戦おう」

「そうですね、頑張ります!」


 ロゼさんの燃えるような真紅の瞳を受け止め、この二回戦も絶対勝つぞと改めて気合を入れた。

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