第39話 アリア対ランスロット
「ランスロット・ヴァンデラーだ。まぁ、よろしくたのむわ」
「ア、アリア・ファルマシオンですっ。よろしくお願いします……!」
細身で赤髪のイケメンなランスロットだが、今にもあくびでもしそうなほど気だるそうな雰囲気を纏っている。
背中には長槍を二本背負っていることから、槍使いということが分かる。
一方アリアさんは軽装で、腰に革のバッグを装着しているだけであった。
魔導具使いとかだろうか?
「では、試合開始だ!」
「ていっ!!」
ディアッカ教官の掛け声と共に、アリアさんが腰から取り出した何かをランスロットに投げつけた。
ランスロットは飛来する何かを叩き落とそうと素早く槍を一本背中から抜くが、顔色を変えて大きく横に飛び退いた。
――ガシャーンッ
アリアさんが投擲したポーションビンは地面に落ち、砕け散った。
――ジュウウウゥゥ……
中身が飛び散った地面はドロドロに溶け、煙を上げていた。
「こっわ!! 嬢ちゃん、いきなりアシッドポーションを投げつけてくるなんて見た目に反してエグいことしてくるねぇ」
アリアさんはランスロットと距離をとりながら両手にビンを構え、涙目になっていた。
「うぅ…… 速いです……」
「薬術師か。普通の剣士なら迂闊に近づきたくないところだが…… 相手が悪かったな」
ランスロットは太ももから三節棍のような三つ折りにたたまれた槍を取り出し、結合させ長槍を作り上げた。
「槍使いは、遠距離攻撃もできるんだぜ!!」
そう言ってランスロットは思い切り振りかぶって槍を投擲した。
気力を纏った槍は高速でアリアさんに飛来する。
「ッ!? ……『スライムポーション』!」
アリアさんが飛来する槍の目の前に薬を撒いたかと思った瞬間、その薬が槍にまとわりつき、槍の勢いを殺した。
「えいッ!!」
アリアさんは続けざまにいくつかのポーションビンを投擲した。
「もうその手は食わねぇ! 『
ランスロットが槍を横に薙ぎ払うと、気力が刃となり槍から放出されポーションビンを粉々に打ち砕いた。
――チュドォォォンッ!!
ポーションビンが砕けた瞬間、凄まじい爆発を起こし衝撃でランスロットが吹き飛ぶ。
否、既の所で爆発に気づきバックステップで衝撃を軽減していたようだ。
「ゴホッゴホッ…… 今度は爆発かよ……!」
「うぅ…… 『ニトロポーション』まで避けられるなんて…… 強すぎです……」
「仕方ねぇ、またおかしなもの投げつけられる前にさっさとケリをつけてやるぜ」
ランスロットは槍を構えたかと思うと、凄まじい速度でアリアさんに迫っていく。
「ううっ…… こないでくださいっ!」
アリアさんはポーションビンを取り出したが、焦りによるものか手を滑らせて地面に落としてしまった。
「悪いがさっさと終わらせてもらうッ!!」
ランスロットは槍に凄まじい気力を充填させ、アリアさんに突貫した。
しかしアリアさんは先ほどとは打って変わって毅然とした表情で魔力を練り上げていた。
「『
アリアさんの二重詠唱により先程地面に落としたポーションが槍となりランスロットに襲いかかる。
同時にアリアさんの周囲に障壁が形成され、身を守る盾となった。
さっき落としたポーションはわざとか、意外と策士だな。
ランスロットは驚きの表情を作るが完全な攻撃態勢となっており、その勢いを止めて回避行動に移ることは不可能であった。
そのため急所に気力を集中させて防御力を高め、そのまま強行突破の構えを見せる。
槍の射程からはまだ少し遠い位置で『
「はぁぁぁ! 『乱槍』」
ランスロットは目にも留まらぬ速さで同時に複数の突きを放ち、『
『乱槍』により霧散した『アシッドポーション』を浴びたランスロットは片目を潰され肩や腹から出血していたが、構わずそのままアリアさんへ狙いを定める。
「貫け!! 『
ギャリィィィンッ
ランスロットの槍は凄まじい回転とともに『
『障壁』系統魔術は魔術師の最終防衛ラインとも言える重要な魔術であり、最も研究がなされている魔術である。
それ故、他の魔術よりも魔力効率が高く、少ない魔力で大きな攻撃を防ぐことが可能となっている。
連続発動が不可であるという弱点はあるものの、魔術師は自らの『障壁』には大きな信頼を寄せているものだ。
アリアさんも一般の魔術師と同様に自らの『
「チィッ、流石Sクラスの魔術師ってだけはあるな。仕方ねぇ…… 削れ、『
瞬間、回転する槍が魔力を放ち、ビシッと細かい鱗のようなものが立ち上がった。
《
【名前】
【ランク】B
【説明】
火竜の尾骨を芯材とし、表面に竜鱗を纏う魔槍。
その鱗は、魔術をも削り取る。
》
魔具、魔槍か。
魔具、それは自らの意志を持つと言われる道具のことである。
魔具は各々名前を持ち、その真名を唱えることで真の力を引き出すことが可能だと云う。
真の姿を見せた『
「ッ!!??」
「悪いな、嬢ちゃん」
あまりの速さに避けることも出来ずにそのまま貫かれたアリアさんは、闘技場から退場させられていた。
それにしても魔術障壁をも貫く槍を持つ高速アタッカーか…… 魔術師からしたらたまった物じゃない相手だな。
ランスロットは頭をポリポリと書きながらアリアさんの元へ歩み寄っていく。
「痛かったか? すまねぇな、アリアちゃんが強すぎてつい本気を出しちまった」
ランスロットの助力で起き上がりつつ、アリアさんははにかんだ。
「いいえ、試合ですから当然です。ありがとうございました」
◆
「よし、それでは勝ったシリウス、ムスケル、ランスロットで戦ってもらうが…… ぶっちゃけた話、シリウス、お前が入学試験ではトップだ。よって、ムスケルとランスロットで戦い、勝った方とシリウスが戦う形とする」
皆の視線が一斉に僕に集まる。
……正直やめてほしい。
そうやってハードル上げられるのは苦手なんだ。
久々に感じるキリキリとする胃の締め付けに、前世で大きなクライアントにプレゼンしたときを思い出させられる。
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