第40話 筋肉と槍の激突

「むふぅぅん…… 一日にこれだけの強者と戦えるなんて、興奮しますな!! ランスロット殿、全力で楽しもうではないか!」

「あー…… まぁ、ほどほどで頼むわ……」


 スーパーハイテンションのムスケルと今にも帰りたそうな表情のランスロットが握手を交わし、構えを取る。


 凄まじいパワーとスピードを兼ね備えているムスケル。

 ビジュアル的にもずっと見ていると辛いものがあり、正直あまり戦いたくない相手である。


 一方ランスロットもパワーが無いわけではないが、ムスケルと比べてしまうと見劣りしてしまう。

 しかしムスケルが素手なのに対して、ランスロットには魔槍竜尾ドラゴンテイルがある。

 防御系のスキルや魔術を削り貫く竜尾ドラゴンテイルは非常に脅威であり、ムスケルの鋼の肉体であっても直撃すればただでは済まないだろう。


「それでは、試合開始!」

「さっきのエアちゃんとの試合を見てて下手な牽制はムスケルには通じなさそうだからな、はじめから全力で行くぜ。『竜尾ドラゴンテイル』」


 ランスロットの『竜尾ドラゴンテイル』が魔力を放ちはじめ、竜鱗が立ち上がっていく。


「ほほぅ…… 流石魔槍、目の前に立つとやはりプレッシャーが違いますな。では、我から攻めさせていただきますぞ! 『筋肉波動マッスルインパクト』ォォッ!! フンッフンッフンッフンヌゥゥッ!!」


「ッ!! マジかよ!?」


 ムスケルが放った連続で右ストレートから大量の凄まじい気の塊が放たれる。

 ランスロットは信じられないという表情で全力で回避行動に移ったが、『筋肉波動マッスルインパクト』の余波に煽られ体勢を崩す。

 また凄まじいラッシュにより回避先が限定されており、ランスロットは上手くムスケルに誘導されてしまっていた。


「『筋肉激突マッスルクラッシュ』!!!」

「ガハッ……!」


 凄まじい質量の筋肉の塊ムスケルが凄まじい勢いでタックルを放ち、ランスロットが吹っ飛んでいく。


「ゲホッゴホォッ…… 勢いを殺してこのダメージとか化け物かよ……」


 ムスケルの攻撃を槍でガードし、後ろに跳んで衝撃を逃そうとしたランスロットであったが、衝撃を防ぎきれなかったようで吐血している。


「まだまだイきますぞ!!!『筋肉波動マッスルインパクト』ォォッ!!」


―――ズガァァァンッ!!


 今までで一番の威力の『筋肉波動マッスルインパクト』が炸裂し、爆風が闘技場に吹き荒れる。


「『影狼かげろう』」


 爆風に紛れ、気配を消したランスロットがムスケルの死角から突きを放つ。

 ランスロットの突きはムスケルの脇腹を貫…… けておらず、紙一重で回避されていた。


「甘いですぞ!!! 『ダブルラリアット』ォッ!!!」


 まさか回避されるとは思っておらず驚愕するランスロットの顔面に、ムスケル渾身の『ダブルラリアット』が炸裂し、血しぶきを上げながらランスロットが受身も取れず吹き飛んでいく。

 しかしそれでも退場させられていない所を見ると、ギリギリでインパクトをずらしてなんとか意識を保っているのかもしれない。


「からの…… 『筋肉激突マッスルクラッシュ』!!」


 地面に叩きつけられ体勢を整える時間も与えられず、ムスケルの追撃がランスロットに直撃する。

 為す術もなくムスケルの『筋肉激突マッスルクラッシュ』を受けたランスロットは、闘技場から退場させられていた。


「ハァ…… ハァ…… んな化け物と真っ向から戦うとか、自殺行為でしかねぇ……」


 よほどムスケルとの戦いが堪えたのか、ぐったりとするランスロット。


「むふぅぅ…… 足りませんぞ…… 筋肉が!!」


 やはり筋肉を強調するポーズを取りながら、なぜか倒置法で筋肉の不足を指摘するムスケル。

 ランスロットだけでなく観戦者達の目からも光が消えている気がするが、気のせいだろう。


「しかしムスケル、よく俺の奇襲に気づいたな。完全に気配を絶っていたと思ったんだが……」

「ふむ。ランスロット殿の『隠気』は完璧で、全く感知できなかったですぞ!」

「あ? ならどうして……」

「開放された魔槍から凄まじい魔力がダダ漏れでしたからな。それでバレバレでしたぞ!」

「あー…… なるほど…… 今まで『竜尾ドラゴンテイル』を開放して戦う相手なんてほとんどいなかったから、完全に頭から吹っ飛んでたな…… いい勉強になったわ、ありがとなムスケル」

「うむ、我も楽しかったですぞ! 今度、もっと筋肉がついたランスロット殿と戦えることを楽しみにしていますぞ!」

「そ、それはどうかな……」


 清々しい笑顔のムスケルと、苦々しい表情のランスロットが固く握手を交わした。

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