第38話 エア対ムスケル

 エアさんとムスケルが対峙すると、その体格差が如実に見えた。

 エアさんは線が細くスラッとしているのに対して、ムスケルは巨大であった。

 二メートル以上の身長に身体中に盛り上がる筋肉、パンチ一発でエアさんを吹き飛ばしてしまいそうな程だ。


「エア殿、でしたな。我が名はムスケル・アブドミナルである。互いに正々堂々、よろしく頼み申す」


 そのいかつい容姿とは対局な笑顔で右手を差し出すムスケル。


「私はエア・シルフィードよ。よろしく、ムスケル」


 全く気負いがなく、凛とした表情で差し出された右手に握手で返すエアさん。


 そして互いに離れ、開始位置に付く。


「両者準備はいいな。では、始めろ!」


「『風纏ウィンディア』 『疾風連斬』!!」


 エアさんが開始と同時に風を纏い、風の刃を無数に飛ばす。


「ふんんぬッ!! 『ダブルラリアット』ォッ!!」


 珍妙な掛け声と共に両手を広げ回転するムスケル。

 高密度の気を放出しながら巨体が回転したことで暴風が吹き荒れ、風の刃が弾かれる。


「嘘ッ!?」


 気をまとって回転した風圧だけで風の刃を破られ、驚愕するエアさん。


「中々素晴らしい魔術であるな! 今度はこちらから遠距離攻撃をさせていただきますぞ!!『筋肉波動マッスルインパクト』ォッ!」


 叫びながらその場で身体を弓の様にしならせ、右ストレートを放つムスケル。

 右ストレートと同時に凄まじい気力の塊がエアさんに向け放出される。

 エアさんは気力の塊をヒラリと躱すも余波によって吹き飛ばされ、闘技場の結界に叩きつけられた。


「かはッ!?」


 叩きつけられた衝撃で肺の中身が吐き出され、片膝を付きながら苦悶の表情を浮かべる。


「なんていう気力の密度なの……」

「むふぅん! 筋肉のなせる技である!」


 上腕二頭筋を強調するポーズでドヤ顔を決めるムスケル。

 それをゲンナリした顔で見ながらエアさんは体勢を整える。


 エアさんは速さで翻弄しながら隙を窺う作戦に切り替え、『疾風剣』を飛ばしたり避け際に斬りつけたりと回避に専念していた。

 一方ムスケルは積極的に攻撃を行い、エアさんの牽制攻撃は「ふんッ!」だとか「ふんぬッ!」だとか珍妙な掛け声を出しながら拳で弾き飛ばしており、互いにほぼノーダメージと膠着状態が続いていた。


「ふぬぅ……エア殿は非常に素早いですな、拳が全くあたらぬ! もう少し楽しみたい気もしますが、そろそろ攻めさせていただきますぞ!」

「い、今まで十分攻めてたわよね!?」


 今まで積極的に攻めていたのにこれ以上どうするのかと皆が首をひねる中、ムスケルは構わず更に気力を練り上げていく。


「はぁぁぁぁぁッ!! 『筋肉強化・速マッスルブースト・スピードタイプ』!!」


 ムスケルが叫んだ途端、筋肉が引き締められていきゴリマッチョから細マッチョへと肉体が変貌した。

 技名とその身体の変化から、明らかに速度を増すスキルであると推察される。

 漲る気力と筋肉の密度にエアさんが息を飲む。


「参りますぞ!!」


 地を蹴る威力のあまりの高さに地面が爆発したかのように土が舞い上がる。

 そしてその派手な爆発に気を取られた一瞬にムスケルの拳がエアさんの鳩尾にめり込み、エアさんは闘技場から退場させられていた。


「ふぅぅ…… いい勝負でありましたな。エア殿がもう少し筋肉を付ければ、負けていたのは我であったかもしれませんな」


 細マッチョ形態からゴリマッチョ形態に身体を戻しながら、筋肉をやたらと主張するムスケル。

 こいつは筋肉教でも布教するために学校にきたのであろうか?


「そ、それはどうかしらね…… それにしても凄まじいパワーに加えて強固な防御力、更に躱せないほどスピードも出せるなんて正直ビックリだったわ。完敗だわ」

「お互い、これからも精進していきましょうな!」

「えぇ、次は負けないわ」


 そう言ってムスケルとエアさんは固く握手を交わした。



「二人とも、いい戦いだったぞ! では次、アリアとランスロットだ」


「ういー」

「は、はいっ!」


 気だるそうなランスロットと、ガチガチに緊張したアリアさんが闘技場に上がっていく。

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