第35話 虹
闘技内に入るとベアトリーチェの濃密な魔力が満ちており、冷や汗が頬を伝う。
あの母さんを超えた威圧感を放っている。
無駄かもしれないと思いつつ、『洞察』によりベアトリーチェの能力を確認しようとするが。
《
【名前】ベアトリーチェ・ウィザードリィ
妨害により『洞察』に失敗
》
……名前しか分からないとか……
「ふむ、乙女の秘密が簡単に分かると思わないことじゃな」
しかもバレてるし。一体何者だよ。
「……失礼しました」
「よい。では、これから試験を開始するぞ。遠慮せず
「……はい」
まずは『
そして牽制に、思い切り魔力を込めた『
「ほぅ、『
ベアトリーチェは勿論詠唱せずに片手間に発動した『
「ふむ、『
そう的確に分析したベアトリーチェは手を前に出し、二十程の極小の『
「これをこうして、こうじゃな」
そしてそれらを高速で回転させ、射出してくる。
そう、『
「初めて見た魔術を瞬時に再現…… だと……!?」
自らに迫る『
いくら簡単な魔術とは言え、その特徴や術式を一度見ただけで捉え、それを再現するなんて尋常ではない技量だ。
お返しに今度は中級魔術である『
術式にはかなりの魔力を込めており、中級魔術とは言え相当な威力が見込まれた。
相手は魔術師のようなので、まずは弾幕により隙を作り、そこを刀で切り込んで接近戦に持ち込みたいと思うのだが、この程度で隙が出来る相手ではなかった。
ベアトリーチェは少し退屈そうな顔をし、一歩も動かずに『
「確かにお主の魔力、精神力、共に凄まじいものじゃ。しかしその程度の魔術が妾に通るとでも思っておるのか?」
もとより魔術戦では敵わないと分かっているので、接近戦に持ち込むための牽制のつもりだったが…… この程度では牽制にもならないということだろう。
「お主の攻撃はちと直線的すぎる。牽制するならこれぐらいはやらないとな」
そう言うとベアトリーチェは複数の『
貫通力が高いため障壁や刀での防御は危険だと判断し回避すると『
「な!?」
よく見ると、『
この数の『
しかしそれなら、対策が可能だ。
『
加速した思考の中、『
「そこだ!」
刀を一閃させ反射壁を全て切断する。
反射壁を失った『
後方の憂いを断ち、そのまま加速した状態でベアトリーチェに迫る。
あまりの速さに視認できていないのか、驚きの表情を浮かべはじめたベアトリーチェを一刀で切り伏せる。
しかし振るった刀に手応えはなく、ベアトリーチェが霧散した。
……『
気付いた瞬間に足下に魔術発動を感じて咄嗟に飛び退くと、大量の『
空間全体に濃密な魔力が充満しているせいでほとんど機能していない魔力感知に神経を集中させると、ベアトリーチェはかなり離れた上空に立っていた。
「ほう、今のを躱すか…… くっくっくっ、中々面白い小僧じゃ……」
とことん中~遠距離を維持する戦い方、やはり魔術主体の使い手だ。
この人に勝つためには距離を詰め、しつこく接近戦を仕掛けるしかない。
再び地を蹴りベアトリーチェに接近しようとするが、様々な魔術による弾幕に妨害され、中々距離を詰めることができない。
「ははははは! ほら! ほらほら! こっちじゃぞ!」
ベアトリーチェは空を駆ける手段を持っているようで、上下左右を舞うように回避していく。
このままだと埒が明かない、まずは回避方向を限定させる!
本来は単体の敵に使う魔術ではないのだが、彼女に避けさせるにはこれくらいしないとダメだ!
『
上級広域戦術魔術である『
この雷の嵐の中上空へ飛び立つのは自殺行為であり、地を這うように回避するしかあるまい。
そして回避方向が絞られている相手の動きを読むのは容易なことであった。
ひょいひょいと雷を躱すベアトリーチェに高速で迫り、刀を振るう。
ベアトリーチェはバックステップで距離を取りつつ、いつの間にかその手に纏っていた鉤爪のような魔術で刀を往なす。
―――ギィンッ
バックステップで雷を避けつつ距離を取ろうとするベアトリーチェに追いすがるように連続で剣撃を叩き込む。
速さに関してはほぼ互角、ならば。
『
実技試験と同じように付与魔法を『
ベアトリーチェの左側に潜り込んでの一閃は、右手の鉤爪での防御は間に合わない。
―――パキンッ パキンッ パキンッ ギャリィィィンッ
しかしその致命傷を確信して放った一撃は、見えない壁によって防がれていた。
三枚ほど薄い板のような物を切り裂いた刀だったが、ベアトリーチェの目前でその勢いは完全に止められていた。
「「な!?」」
僕とベアトリーチェが共に驚愕の声を上げた。
魔力による障壁……!? しかし、何の属性魔力も感じなかったぞ!? もしかして、属性を介さない魔術か……?
必殺の一撃を何のモーションもなしに防がれ驚愕した一瞬を付き、ベアトリーチェが反撃の爪を振るう。
咄嗟に後ろに回避した瞬間、鉤爪が急に巨大化して射程が伸びた。
「うぉぉぉっ!」
魔力で出来た鉤爪だ、伸びたり縮んだりしてもおかしくなかった。
本来は想定できたはずのそれは、咄嗟の回避で考慮できていなかった。
胸に鉤爪が食い込む感触を感じつつ、『
胸から流れ落ちる血と熱から時間がないことを悟り、必死に思考を巡らす。
先ほどの魔術障壁は恐らく、予め張っておいたものだろう。
何層かは不明だが、先ほどの一撃で三層は突破している。
しかし、恐らくそれは直ぐに修復されるだろう。
そしてこの傷ではもう、先ほどの一撃以上の攻撃を放つことは不可能だし、そんな隙を作るのも難しい。
今、この瞬間しか無い。
障壁が破られて、咄嗟に放った反撃が当たり、気が緩んでいる可能性がある今しか。
瞬きの思考の中で決断し、追撃のため残りの全魔力を絞り出す。
そして放つ、自身の持つ単体攻撃最強の魔術を。
「『
前に突き出した両の手から、眩い光が放たれる。
その光は一瞬でベアトリーチェを包み込む。
光に包まれる瞬間、ベアトリーチェの口角が釣り上がったように見えた。
「ハッ……ハァ……」
三十秒程経ち、ベアトリーチェに叩きつけられていた光の奔流が霧散する。
地に膝をつき、霧散していく魔力を見つめる。
胸の傷口からは多くの血が流れ、魔力のほとんどを使い切り、もはや動ける状態ではなかった。
「ふ…… ふふふ…… ふはははははは! よもやこんなヒヨッコがここまでやろうとはな! くふふふ…… 面白い、面白いぞシリウス!」
そこには虹色の光を纏い、汚れ一つなく笑うベアトリーチェが立っていた。
「誇るが良い。我が『虹』をその身に受けることを」
次の瞬間には虹色の光りに包まれており、為す術なく闘技場から退場させられていた。
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