第36話 入寮

「「「うおおおおぉぉぉぉ!!」」」


 闘技場からはじき出されると、外は歓声に満ちていた。


「凄かったぞ!!」

「いい戦いだった!」

「こんな戦い見れるなんて俺、それだけで満足だ」

「ロリババァハァハァ」

「シリウスー! よくやったー!」


 試験官、受験生が共に二人の大規模な魔術戦に見入っており、試験会場内は白熱していた。

 そんな大歓声が耳に入るが、それよりも傷一つつけられず負けたことの悔しさ、そして魔力の枯渇により大の字に横たわって動けないでいた。


「一丁前に悔しそうな顔しとるのう。勿論妾には敵うはずもないが、まぁそれなりではあったぞ。そんなに落ち込むことはないのじゃ」

「……それでも、悔しいですよ。傷一つつけられないなんて」

「ふっ、男の子じゃの。まぁ試験結果を楽しみにしとるんじゃな」


 ベアトリーチェはポンポンと頭を叩いて去っていった。

 それと入れ替わりにエアさんがやってきて、手を差し伸べてくれた。


「いつまで寝てるつもり? ほら、立たせてあげるから」

「……エアさん、ありがとう」

「あんな凄い戦いしてそんな辛気臭い顔してんじゃないわよ。か、かっこよかったわよ」


 そう言って顔を赤らめるエアさん。

 慰めるために無理してお世辞を言ってくれているんだろう。


「はは、そうですね、ありがとうございます。もう大丈夫です、行きましょうか」

「な、なによその反応!」

「え? 何がですか?」

「な、なんでもないわよ! ほら、先に行くわよ!」


 それを見ている会場の男たちの心は一つになっていた。


(((リア充爆発しろ)))



 数日後、エアさんと一緒に試験結果発表を見に来ていた。


「はぁ……受かってるかしら……」

「エアさんは余裕で受かってると思うけどなぁ」

「それを言うならシリウスなんて絶対受かってるじゃない。気楽なものよね」

「そうならいいんですけどね……」


 二人とも受かっているだろうと思いつつも、やはり不安になってしまうのは仕方ないだろう。


「986……987……あった! あったわよ!!」

「やりましたね!」


 やはり二人とも受かっており、ハイタッチをする。


「クラスは…… Sクラスね。シリウスは分かるけど、まさか私がSクラスになるなんて……」

「Sクラスかぁ…… 実感ないですね。それに六人しかいないんですね」


 エアさんと同じクラスになれたのは幸運だな。

 クラスの人数が少ないから、友達を作りそこねると地獄だからな……


「さて、ネココ亭に帰って移動の準備をしましょ。今日から寮に移動しなくちゃいけないし」

「そうですね」


 そう、セントラル冒険者学校は完全寮制なのだ。

 ちなみにSクラスとAクラスのみ個室となっており、それ以下はルームシェアと中々シビアだ。

 Aクラス以上は人数が少なく、それ以下のクラスは人数が多いためらしい。

 ちなみに今年のSクラスは六人、Aクラスは十人であった。


 エアさんとネココ亭に帰り、荷物をまとめて寮へ移動する。

 寮母さんに案内された部屋は、高級ホテルの一室のようであった。

 風呂トイレが部屋に付属しているのは勿論、キッチン・ダイニング、リビング、寝室、そしてトレーニング室と凄まじい充実っぷりであった。


「これが国内トップの冒険者学校の設備か……」


 あまりの部屋の広さにひとりごちる。

 正直、一人でこれだけの広さを与えられても…… と感じなくもない。

 トレーニング室があるのは嬉しいが、ネココ亭くらいの広さがちょうどよかったなと思う。


 一人部屋にいても退屈なので学内を探索してみようと部屋を出ると、廊下で見たことある女性と遭遇した。


「あっ! あなたは……!」

「アリア…… さん?」


 そう、入学試験で高慢な貴族に絡まれていた水色のサラサラヘアーの女の子、アリアさんであった。


「入学試験合格おめでとうございます。と、この階にいるということはもしかしてアリアさんも?」

「シリウス様、先日はありがとうございました。はい、シリウス様と同じくSクラスに入ることが出来ました!」

「そうですか! これからよろしくお願いしますね」

「……はいっ!!」


 アリアさんは花が咲くようにパッと笑顔になった。


「シリウス様の実技試験と実戦試験、拝見しました。あの…… とてもかっこよかったです……!」


 頬を赤らめながらお世辞を言ってくれるアリアさん。

 お世辞とは分かっていても可愛い女の子に直球で褒められると照れてしまい、なんとも言えず頬を掻きながら無言で笑う。


「あっごめんなさい、今荷運び屋の方をお待たせしているんでした……! シリウス様、明日からよろしくお願いします」


 最後まで笑顔を咲かせたまま、アリアさんは去っていった。

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