第34話 幼女登場

「それでは実戦試験、開始!!」


 開始の号令と共に、エアさんと試験官が『練気』により気力を高める。


「『風纏ウィンディア』」


 精霊が風となりエアさんの周囲に纏われる。

 風魔術により加速したエアさんはまるで風のように軽やかに地を蹴り、一瞬で試験官に迫る。


 接近と同時に強風を叩きつけられた試験官は目を開けていられず、思わず目を閉じる。

 その隙を逃さず一瞬で背後に回り込み、剣を叩き込む。


 剣と剣のぶつかり合う、甲高い金属音が響き渡る。

 気配により位置を把握していたのか、試験官はエアさんの攻撃に剣を滑り込ませ、攻撃を防いだ。

 それのみならず、エアさんの剣を上方に弾き、開いた胴に強烈な蹴りを放つ。

 精霊が風の防御を展開していたが、威力を殺しきれなかったのか苦しそうにうめきながら後方に弾き飛ばされる。


「ぐっ……!」


 すかさず地を蹴り、その着地に合わせて剣を振る試験官。

 エアさんは速さで若干上回っており、剣を躱し死角に回り込みながら剣撃を放つ。


―――ガンッ ギンッ ギンギィンッ!


 幾度も交わる剣。

 防ぎ、返し、躱し、返し。


 力で勝る試験官、速さで勝るエアさん、互いに決定打が入れられずにいた。


―――ッギィンッ


 幾度目の剣の交わりかで、エアさんが大きく距離を取る。


「ハァッ! 『疾風連斬』!!」


 エアさんは実技試験で放った風の刃を大量に放ち、それらの刃に紛れて接敵する。


「くっ…… やるな! 『ラウンドスラッシュ』!」


 試験官が剣を円形に振るうとその円の内側に気力の膜が張られ、無数の風の刃を防ぐ。

 しかし試験官が前面から放たれる風の刃を気を取られていた隙に、エアさんは空に舞い上がっていた。


「『疾風剣』!」


 試験官の頭上でエアさんが特大の風の刃を放つ。


「何ッ……!? くッ!! 『ギガスラッシュ』!!」


 風の刃が試験官に直撃するかと思われた瞬間、試験官が極大の気力を剣に込めて頭上に放った。


「ウィン……!!」


 エアさんが防御魔術が発動する前に、凄まじい気力を纏い長大となった剣によって、風の刃諸共かき消された。

 闘技場内で命を落としたのだろう。強制退場させられたエアさんは、地面に蹲って息を整えていた。


「ハァ…… ハァ……」


 やはり現実で死なないとは言え、臨死体験は結構精神的に辛いのだろう……


「エア・シルフィード、試験は終了だ。まさか入学前のヒヨッコに『ギガスラッシュ』まで使わされるとは思わなかった。最後の攻撃は素晴らしかったぞ」

「ありがとう、ございます」

「試験結果は楽しみにしていて良いぞ」


 確かに、素晴らしい戦いだった。

 風魔術による身体強化と、その攻撃速度の速さ。

 そして戦闘の中で正確にあの風の刃を放つ技量。

 若干のパワー不足と剣技自体の練度不足は否めないが、それを補って余りある攻撃の多彩さと素早さは、他の受験者より抜きん出ているように見えた。


 試験官が全力を出していなかったとはいえ、入学前の若者が試験官をあそこまで追い込んだということは凄いことだと思う。

 最後に試験官が放った『ギガスラッシュ』は、内包している気力の半分近くが放出されており、必殺技クラスのスキルだったと思う。

 危険を感じ、本当に咄嗟に放ったのだろう。


 エアさんはそれでも納得いかなかったのか、足取り重く帰ってきた。


「エアさん、お疲れ様です。大丈夫ですか?」

「……あの試験官、本当に強かった。もっとやれると思ったんだけどな」

「志が高いのは良いことだと思いますが、試験官相手にあそこまで立ち回れたのは凄いと思います! 絶対合格ですよ!」

「シリウス…… ありがとう。シリウスは心配ないと思うけど、頑張ってね」

「はい、全力で頑張ります!」

「……試験官が可哀想になってきた」

「え、今何か言いました?」

「プッ……なんでもないなんでもない。気にしないで」

「気になるなぁ……」


 よく分からないけどエアさんに笑顔が戻ってよかったとほっとしていると、背後から凄まじい魔力を感知し、即座に振り返る。


「!?」


 エアさんも気づいたようで、あまりの魔力の大きさに少し震えている。


 その凄まじい魔力の発生源には、一人の幼女が佇んでいた。

 幼女は金髪ロングヘアーをたなびかせ、不敵な笑みを浮かべていた。


「ふふん。お主がシリウス・アステールじゃな。確かに、魔力の質が雷小僧と似ているの」


 雷小僧…… 父さんのことか……?

 幼女に自分の父親が小僧と呼ばれることに違和感を覚えつつも、そうであろうと変な確信があった。


「……あなたは、どなたですか? 父のお知り合いですか?」


 そう尋ねると、幼女は意外そうに片眉を上げ、楽しそうに笑った。


「ふははっ。雷小僧の息子にしては随分と礼儀正しい子じゃな。『解析球』を二つも壊したと言うからもっとヤンチャ坊主だと想像しておったが…… よい。妾はベアトリーチェ・ウィザードリィ。お主の父親の試験官をした者じゃ。そして、お主の試験官でもある」


 この幼女が、父さんの試験官だった……?

 父さんもセントラル冒険者学校の卒業生だったのか。

 そして何よりこの幼女、一体何歳なんだ?


 様々な疑問が渦巻く中、幼女は不敵に宣言する。


「さぁ、シリウス・アステールよ、闘技場に上がるのじゃ。試験をしてやろうやりあおう

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