第23話 事後報告

 俺達が村へ着くと、シリウスが何かを燃やしている所だった。


「……何をしている?」


「父さん、母さんお帰りなさい! 無事に帰ってこれて安心しました。実は風魔術で一部のゴブリンが村に飛んで来たので、処理したところです」


 なんだと!? 取り逃がしたゴブリンが村へ来ていたというのか!?

 この間も急に現れたのは風魔術で上空から落ちてきたということか。


 今のシリウスの腕なら確かにある程度のゴブリン相手なら難なく倒せるだろうことは分かっていた。

 しかしそこには百個近くの魔核が置いてあり、その中でも一際大きく魔力が高い魔核がどうしても目に入る。


「……誰か、報告を」


「はっ! 私がさせていただきます! 裏山にレグルスさんの魔術が見えはじめて暫くして、急に空からゴブリン達が落ちてきました。その数は百匹を超えていたかと。そしてその中には、ゴブリンジェネラルやゴブリンロードが混ざっておりました」


「……ゴブリンロード…… で、その後は?」


「はっ! シリウス君が土檻を作り魔術の雨を降らし、ゴブリン達を殲滅しました。そして残ったゴブリンジェネラルは私たちが、ゴブリンロードはシリウス君が討伐し、今に至ります」


 いくらシリウスが成長しているからといって、ゴブリンロードを一人で倒しただと?

 確かにあいつの魔力、精神力は凄まじい物がある。

 しかし、ゴブリンロードにそれを直撃させられる技量はなかったはずだ。


 ミラを見ると、同じことを考えているような顔をしていた。


「シリウス、話は家に帰ってから聞かせてくれ」


 色々と聞きたいことはあったが、まずは事態を収拾させることを優先しよう。


「うん、分かった」


 そんな俺達を他所に、暢気な返事を返すシリウス。

 此奴は本当に大物になりそうだな……



 事態を収拾し、家に帰り父さんと母さんに事情を簡単に説明し、詳しくは明日話すということですぐに休まされた。

 肉体的疲労や皆を守らなければいけなかったという精神的疲労もあり、寝床に入るとすぐに意識を失い、次の日は昼前まで寝過ごしてしまった。


 そして昼食をとり、三人で裏山の鍛錬場を訪れていた。


「さてシリウス、ゴブリンロードを倒したというオリジナル魔術を見せてみろ」


「私を倒すつもりで、剣も魔術も合わせて使っていいわ。本気できなさい」


 目の前では母さんが殺気と言えるほど気を滾らせ、刃引きした剣を構えている。

 正直、怖い。


 ……どうしてこうなった。


 元来、剣術と魔術は修めるのにそれぞれ大きな労力を要すため、強くなるためにはどちらか一つを選び、鍛えていくのが一般的であった。

 そのため剣術での鍛錬では剣術のみ、魔術の鍛錬では魔術しか使っておらず、父さんも母さんも剣術と魔術を合わせて戦うとは思っていなかったらしい。


 それぞれ単体の能力では倒せなかったであろうゴブリンロードを剣術と魔術を合わせて倒したことから、僕の本当の力を見るためとこうして二人監修の元に模擬戦が行われることになったのだ。


 僕が構えるのを待つ母さんは、楽しそうな笑みを浮かべており、いつ痺れを切らして斬り掛かってくるか分からない状態であった。


「……分かりました…… 行きます!」


 牽制に無数の『雷弾サンダーバレット』を放ち、『雷光付与ライトニングオーラ』で身体と剣に雷属性の強化を施しながら駆け出す。

 そして『雷弾サンダーバレット』を剣で往なし躱している母に肉薄する。


 予想以上の速さだったのか一瞬目を見張った母であったが、直ぐに気を纏わせた剣撃を放ってくる。

 僕の実力ではなんとか往なすか躱すしかない、そんな速さの剣撃だったが更に一歩踏み込み勝負に出る。


 オリジナル魔術『瞬雷ブリッツアクセル』を発動させると、瞬間的に肉体と思考が超加速した僕の視界に、母から放たれた剣撃がスローモーションに映る。

 そしてスローモーションな攻撃を躱し、側面に回り込み剣を振るう。


 すると先ほどまでスローモーションだった剣撃がいきなり速度を増し、僕の剣撃と身体の間に剣が割り込ませられた。

 雷を纏い通常の数倍の速度で放たれた剣撃を受け、母の身体が後ろへ飛ぶ。


 虚を突いた『瞬雷ブリッツアクセル』の攻撃速度についてこれるのか……!?

 不意打ちでしか一本入れることはできないと思っていたけど、不意打ちですら防がれるのか。


 呆然としているとすぐに体勢を整えた母が剣を構え、僕へ鋭い視線を向けてきた。

 ……来る!


 カウンターを狙い『瞬雷ブリッツアクセル』をかけ直す。


 瞬間、母が目の前で剣を振り下ろしはじめていた。

 思考も超加速させているのに関わらず、それを凌駕する速度で肉薄され、驚きの感情が思考を占める。

 凄まじい速度で振り下ろされる剣撃に命の危険を感じ、無意識に剣で受け止めていた。


 身に纏う気のほとんどを防御に回したお陰で剣ごと両断されることはなかったが、あまりの衝撃に踏ん張りが効かず凄まじい勢いで吹っ飛ばされる。


 ……これはヤバイ!


 背後の樹木に叩きつけられる瞬間、咄嗟に背中に気を集中させ防御力を高めるも激しい衝撃に肺から空気が吐き出させられる。

 あまりのダメージに身動きができず蹲った僕の後ろから、樹木が折れて倒れる音が聞こえた。


「不意をついた一撃は本当に危なかった…… 確かにゴブリンロードくらいなら倒せる攻撃だったわ。ただ、それを防がれた後も手を休めず追撃をすべきだったわね」


「今の加速が例の魔術か?」


「うん。瞬間的に加速させる魔術『瞬雷ブリッツアクセル』だよ。ただし今のところ魔力効率が悪いから一回の発動時間が1秒くらいとかなり短いんだよね……」


「なるほど。最後の一撃を受け止めたのも『瞬雷ブリッツアクセル』?」


「うん、思考も加速させてギリギリ認識できたって感じだけどね…… 母さん強すぎでしょ……」


「最後のは『縮地』よ。高速で移動できる体術の一種ね。シリウスに教えるのはまだ早いと思っていたけど、そろそろ教えてもいいかも知れないわね。『瞬雷ブリッツアクセル』と組み合わせれば変幻自在に高速の剣撃を叩き込むこともできると思うわ」


 『縮地』か…… 魔術でのブースト抜きであの速さで移動できるとしたら、非常に強力な武器になる。


「まさか雷魔術で思考まで加速させられるとは…… 間違いなく上級以上には分類できる魔術だな。そろそろ上級魔術を教え始めるか」


「私は、これからは魔術との組み合わせを考慮した剣術を教えていこうと思うわ」


「あぁ、魔術もシリウスの戦い方に合わせた魔術を教えていこう」


「お願いします!!」


 ゴブリンキング討伐に連れて行ってもらえなかった自らの弱さへの悔しさを胸に、もっと強くなろうと決意を強くした。

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