第22話 天剣

 本当に、なまったわね。

 ゴブリンキングと剣を交わせながら、自らの身体の重さに嘆息する。

 こちらの攻撃は相手の高密度な魔力に遮られ、相手の攻撃はこちらの皮膚を容赦なく裂いてくる。


 落ち着きなさいミラ、焦ってはダメよ。


 自分に言い聞かせながら、時間を稼いでいると、幾筋もの光線がゴブリンキングを襲った。

 ゴブリンキングは忌々しげに光線を剣でなぎ払う。

 流石レグルス、ゴブリンロードは三匹もいたのにもう援護に回ってくれるなんて。


「ミラ、援護は任せろ! 作戦通りに行くぞ!」


「頼むわ!」


 私の剣撃に加え、ゴブリンキングが剣を振りかぶる瞬間を狙いすました『雷光ライトニングレイ』がゴブリンキングに突き刺さる。


 やはり高密度な魔力に遮られ致命傷を与えることができないが、確実にダメージは蓄積されていく。


「コロス! コロスコロスコロス! 『ゴブロニア・オーラ』 」


 ゴブリンキングが体内の残魔力を一気に絞り出し、強烈な魔力を放つ。

 短時間だが身体能力を倍増させる、まさしくゴブリンキングの必殺技である。


―――スッ


 ゴブリンキングが私と同時に剣を振り上げる。

 もともと力で勝っているゴブリンキングが力を高め剣を振り下ろした時どうなるかは明白であり、ゴブリンキングは勝利を確信して笑みを深めていた。


「シネェェッ!!」


 ゴブリンキングが剣を振り下ろす、瞬間、眩い光が当たり一面を照らす。


「『天剣』」


 眩い光を纏いし一撃は、ゴブリンキングを剣ごと切断した。



「はぁっ…… はぁっ……」


「ゴ…… ゴブァ……」


 『雷神纏衣』の全魔力、そして自身の全ての気力を込めて放った必殺の『天剣』を受けたにも関わらず、驚くことにゴブリンキングは剣を盾にして身体が完全に両断されることを防いでいた。

 ぼとんど皮一枚でつながっているようなギリギリの状態であったが。


「これで終わりだ。『雷刃ライトニングエッジ』」


「ゲギャギャッ!!」


 レグルスが放った止めの『雷刃ライトニングエッジ』を、陰に隠れていたゴブリンマジシャンが障壁を纏った自らの身体で受け止めた。


「なんだと!? クソッ!『雷刃ライトニングエッジ』 」


 しかしその隙にゴブリンキングは懐から黒い水晶を取り出し、握りつぶしていた。


「ニンゲンヨ…… イツカネダヤシニシテヤル…… タノシミニシテイロ……」


 ゴブリンキングは水晶と共に黒い霧となって、消えていった。



 『瞬雷ブリッツアクセル』でゴブリンロードを両断したが、魔力が枯渇寸前でその場で膝を付いた。


 構想は固まって術式は組んでたんだけど、ぶっつけ本番できちんと使えて良かった……

 魔力効率度外視で術式を組んでいたから消費魔力は半端ないけど、魔力枯渇で倒れる程ではないしもうちょっと改善すれば十分に実用的だ。


「シリウス様ァァァァ!!!」

「シリウス君っ!!」

「シリウス!!」

「大丈夫ですか!?」


 ララちゃんとグレースさん、ジャンヌさん、そして狩人衆の方々が駆け寄ってきた。


「……心配お掛けしてすいません。ちょっと魔力が枯渇しかけただけなので、少し休めば大丈夫です」


「シリウス様ッ!! 格好よすぎですわ!!!」

「小僧! ゴブリンロードを一人でやっちまうなんて、一体何者なんだ!?」

「おま、馬鹿野郎! ミラさんの息子のシリウス君だ!」

「あの噂の!? ミラさんとレグルスさんの息子なら…… いや、それでも流石に強すぎだろうがよ!!」


「シリウス君…… 本当に無事で良かったよぉ……」

「シリウス…… 確かにあんたはおかしいくらい強いけど、一人で無理しすぎ!! バカじゃないの!!」


「ははは、すいません。でも、少しくらい褒めてくれたっていいんですよ?」


 ふざけてそう言うと、グレースさんは少し申し訳無さそうな顔をした。


「わ、悪かったわね…… 私だって感謝くらいしてるんだから」

「グレースちゃんは素直じゃないよねー」


 顔を赤らめて感謝の気持ちを伝えてくれたグーレスさんにララちゃんが笑顔?で詰め寄っていた。


「シリウス君! ありがとう!!」

「小僧ー! かっこ良かったぞ―!」


 村の皆も広場に戻ってきて、口々に労りの言葉をかけてくれる。

 皆を守りきれて、本当に良かった。



―――ブワッッ


 ゴブリンロードが降りてきたせいで忘れかけていた裏山から、何かの余波が降り注ぐと同時に眩い光が天を貫き、雲を散らしていた。


「キレイ……」


 曇っていた空から光が刺し、気づくと裏山から放たれていた禍々しい魔力がなくなっていた。


「父さん、母さん、やったんだね……」


 先ほどまで騒がしかった皆は静まり返り、空を見上げていた。

 そこへ、裏山から一人の狩人が走ってやってきた。


「勝った、勝ったぞぉぉぉ!! ゴブリンキングをやっつけたぞぉぉ!!」


「「「「ウォォォォォ!!」」」」


 狩人の勝利の雄叫びを聞き、村民達から歓声が上がる。


 それにしてもあれだけの魔力を放っていたゴブリンキングを倒すなんて…… 父さんも母さんも凄すぎでしょ……

 最後の技なんて雲を散らす程の威力だったし、一体どれだけの力を秘めているのか想像もつかない。

 やっぱり二人は、僕の永遠の目標だな。



「今のは一体……?」


「恐らく、転移系の魔道具だ…… 逃げられた……」


「……あのダメージなら、逃げても死んでるかもしれないわ。とりあえず、この山から撤退させられたことを喜びましょう」


「……そうだな」


 あそこまで追い詰めて逃げられたのは悔しいが、生きてゴブリンキングを撤退させられたのだから十分だろう。


「ミラさん! レグルスさん! ……もしかして?」


「あぁ、ゴブリンキングはもうこの山にいない。ゴブリンの巣はなくなった」


「や、やりましたね!! おい、村に伝令だ!!」


 恐らくゴブリンキングは転移して生きているかもしれないが、今は不安を煽らないほうがいいだろう。

 しかし、これは国に報告しなければならないな……


「よし、皆! ゴブリンから魔核だけ取り出して一箇所に集めてくれ!」


 ゴブリン達の死体を処理し、俺達は村へ帰還した。

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