第13話 終結

 やっと終わった……


 気力も魔力も枯渇寸前まで使い切った僕はその場に倒れ込んだ。


「シリウスくんっ!!」


 ララちゃんが駆け寄ってきた。

 他の皆は魔力枯渇寸前でへたりこんでいるクロエさんとジャンヌさんを支えていた。


 なんとか付近のゴブリンは殲滅したけど、いつまた先ほどみたいに急に湧くかも知れない。

 今の状態じゃ戦いなんて無理だし早く安全な場所に避難しなければ。


 そう思って身を起こそうと思った矢先……


「キャッ!!」


 悲鳴をあげたララちゃんの視線の先を見ると、這いずりながら切断されたロングソードの剣先に手を伸ばしているゴブリンリーダーがいた。倒しきれていなかったのか!?


 剣先を掴んだゴブリンリーダーが腕を振りかぶって投擲体制に入っている。

 まずい、ゴブリンリーダーは『投擲』スキル持ちだ。あの体勢でも油断できない。


「ハァッ!!」


 ゴブリンリーダーがクロエさん達へ向かって剣先を投擲する。

 僕は残った気力を全て身体強化に回し、最悪身体で受け止める覚悟で軌道上へ一瞬で移動した。


 投擲速度が速すぎる。

 冷静に見切れる時間もなく、僕は一か八か剣の腹方向へ手刀を放つ。

 軌道が変わった剣先は僕の頬を掠め、明後日の方向へ飛んでいった。

 なんとか助かった……


 ゴブリンリーダーが次の投擲のために拳大の石へ向かって這いずっている。

 早く止めを刺さなければ。

 しかし、その思いとは裏腹に今度こそ本当に気力と魔力の枯渇により視界がボヤけて平衡感覚が保てなくなってきた。足も動かない。

 動け!! 動いてよ!! あと少しなのに……!!


 僕は地面へ倒れながら"何か"がゴブリンリーダーの頭を消し飛ばした瞬間が見え、そのまま意識を手放した。



「皆!! 大丈夫!??」


 シリウス君のお母さんのミラさんが駆け寄って来ました。

 シリウス君のお父さんのレグルスさんもこちらへ向かって来ています。

 さっきゴブリンリーダーに止めを刺したのはレグルスさんの魔法だったみたいです。


「ミラさん、レグルスさん、私たちは大丈夫です。でも、シリウス君が!!」


 シリウス君はゴブリンリーダーの投げた剣から皆を守ってくれて、そのまま倒れてしまいました。

 シリウス君が死んじゃったらどうしよう……心配すぎて目に涙が溜まってきました。


「ララちゃん、シリウスを心配してくれてありがとう。怪我は頬の切り傷くらいだから大丈夫そうね。それよりも気力と魔力が尽きて気絶しているみたいだけど、ここまで気力と魔力を使い切るなんて一体何したらこんなことに……」


「ゴブリンの死体が大量にあるが、これは…… ゴブリンリーダーも瀕死だったようだし、ララちゃん、何が起こったんだい?」


 ミラさんとレグルスさんはシリウス君がこんなに強いことを知らないみたいです。

 裏山に行ってたことも秘密にしてるみたいだし、シリウス君は隠しておきたいんだろうな……

 でも、この状況でなんて言い訳すれば……


「えーっと…… そのぉ……」


「お父様!! お母様!! わたくしのこの命は、シリウス様に救われたのですわ!! 自らの身を盾に、私を守ってくださるあの勇姿に、心を打たれましたわ!! シリウス様には是非私の婿になっていただき、将来はこの村の長となっていただきたいのです!!」


「「「ファッ!?」」」


「ちょっちょちょちょっとまってくださいジャンヌさん!! シリウス君の意志を無視して何言ってるんですか!?? それに私たちの歳でけ、けけけっこんなんて早すぎます!!」


 ジャンヌさんは一体何を言っているんでしょう!?

 シリウス君がジャンヌさんと結婚するなんてありえないです!!


「ジャンヌ…… 確かにシリウス君は格好良かったけど、いきなりそれはないんじゃない?」

「ジャンヌ、流石に暴走しすぎだぞ」


 アネットさん、ジェイムズさん頑張って止めて下さい!!

 ……ん? アネットさんが何か口走っていたような……


「ちょ、ちょっとまってくれ…… ジョシュアの娘さんの、ジャンヌちゃんだったか、そういう話は本人と話し合ってくれ。俺らは口出ししないから。ってそれは置いておいてだな…… 話の流れからすると、まさかシリウスがゴブリンを倒したのか……?」


「シリウスとジャンヌさん、あとクロエが倒しました。……ほとんどシリウスですけどね。ゴブリンリーダーを瀕死まで追い込んだのもシリウスでした。お二人はご存知じゃなかったんですか?」


 あぁぁローガン君…… でももうここまできたら隠せないよね……

 私は諦めて口を閉ざすことにしました。


「ゴブリンリーダーもシリウスが倒したですって……?」


「ふむ、見る限りほとんど魔術によって倒されているようだな。いつの間に覚えたのか知らないが、やはり魔術の素養があったんだな。これは将来は大魔術師かな?」


 レグルスさんがすごく嬉しそうにしています。

 シリウス君が自分と同じ魔術師になるのが嬉しいのでしょうか?


「で、でも剣によって倒されているゴブリンも何匹かはいるわよ? ゴブリンリーダーにだって大きな切創があるし。それに剣術を教えてほしいって言っていたし、本人は剣士になりたいんじゃないかしら?」


 ミラさんはシリウス君を剣士にしたいみたいです。

 シリウス君は剣も魔術もどっちも凄かったので、どちらにもなれるんじゃないでしょうか。


「むぅ…… 魔術は教えてほしいなんて言われたことないな…… 一体どうやって身につけたんだか。っと、とりあえずシリウスの話は置いておいて、まず皆を安全な場所に避難させよう」


「そうね、急に村の中に湧いてきたこともあるし、まずは皆の安全を確保しましょう」


 レグルスさんとミラさんに連れられ、私たちは無事に村の集会所まで避難することができました。

 他の場所にも急にゴブリンが出てきたみたいでしたが、死んだ人はいないみたいで安心しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る