第8話 自己紹介

 朝食を食べ、家の前でララちゃんと待ち合わせをして二人で教会に向かう。

 子ども二人とは危ないだろうとも思うのだが、 村の中にはほとんど魔物は出ないし辺鄙な村なので変質者などもおらず、平和そのものなので問題はないようだ。

 また両親が僕を信用してくれているということもある。


「シリウスくんとおでかけー、ふんふん♪」


 鼻歌を歌いながら楽しげにあるくララちゃん。

 微笑ましい。


「あ! シリウスくん! 『ネココのおうち』読んだ?」


「読んだよー! ネココがすごい可愛かった!」


「ネココ可愛いよね!! わたしはモココも好きなのー!」


 ネココは猫のような魔物で、モココは羊のような魔物だ。どちらも戦闘力はほぼ皆無で、主にペットや家畜として飼われている。



 そんな話をしているうちに教会に到着すると神父様に連れられ、教会の一室の教室に連れていかれた。


 連れて行かれた教室には、6〜10歳程度の子供たちが20人ほどいた。学年ごとに机をくっつけてグループ分けをしているようだ。

 僕達が誰もいない島に着席し他の子達を待っていると、ポツポツと子どもが集まって席が埋まった。


「さて皆さん、今日から教会に通い始める新しいお友達が来ました。仲良くしてあげてくださいね。それでは新しい子たちから、自己紹介をお願いします。ルーク君からどうぞ」


「ルークです! 将来の夢は冒険者です、よろしくお願いします!」


 金髪のイケメンである。

 笑顔が眩しい。


「グレースです。私も冒険者になりたいと思ってます、よろしく!」


 赤髪の気が強そうな女の子だ。

 ていうか、冒険者ってそんな人気な職業(?)なのか。


「ローガンだ。将来は…… 多分、うちの牧場を継ぐと思う。よろしく」


 濃紺の髪で無表情の筋肉だ。

 家の牧場を手伝ってるからだろうか、かなり引き締まった肉体だ。


「クロエ。魔術師。よろしく」


 薄紫の髪で猫背の女の子だ。

 すごい眠そう、ていうか自己紹介終わって席着いた瞬間から寝てるんですけど。


「シリウスです。将来のことはまだ考えてませんが、早く両親の狩りの手伝いができるようになりたいと思ってます。よろしくお願いします」


 なんで将来の話をする流れになってるお陰で、先のことなんて全然考えてなかった僕がちょっと恥ずかしい。そもそも、この年齢でみんな将来のことを考えてるとか偉すぎない?


「あっ、ララです…… えーと、将来は療術師になりたいです! よろしくお願いします!」


 ララちゃんは療術師になりたかったのか…… 優しい子なんだな。

 療術は魔術と異なって療術局が術式を独占しており、習得には療術局の許可が必要となる。許可を貰うためにかなりの勉強や修行が必要になるため、需要は多いのに人が足りていないらしい。


 上級生たちも簡単な自己紹介を行い、その後各グループごとにシスターたちがお話を始めた。シスターは現代で言う担任のようなものみたいだ。

 僕達のグループに来たシスターは10代後半くらいの青髪の女性であった。


「わたしはリアーヌです。よろしくお願いしますね。まず皆さんでお話して、このグループの委員長を決めてください。委員長になった人は今年の間、グループを代表しての報告や、グループの皆さんへの連絡などをしてもらいます。誰かに押し付けるのではなく、皆さんで相談して決めてくださいね」


 委員長というよりも連絡係みたいなものかな。

 責任感や連帯感を育むためのものなのかもしれない。


「えーと、どうしようか、まず誰かやりたい人とかいる? あとごめんグレースさん、クロエさんを起こしてくれない?」


 イケメンが場をまとめ始める。

 もうこのイケメンが委員長でいいんじゃないか?


「ん…… 私は私以外なら誰でもいい……」


 眠そうなクロエさんは明らかにやる気がない。


「俺は口下手だから、あまりやりたいとは思えない。押し付けたいわけでは無いが、ルークはそういうのに向いていると感じる」


「わ、わたしは…… シリウスくんがいいと思いなぁ……」


 ファッ!? ララちゃん何言ってんの!?

 こういうのは中身大人の僕がやるのは違うと思うんだよね。

 ということで、イケメンにそれとなく水を向けた。


「あー…… 僕もルーク君が向いてると思います。人の意見を引き出したり、まとめたりするのが得意そうですし」


「うーん、わたしも正直誰でもいいかなー」


「俺はあまり人をまとめるのに向いてないぞ? 個人的にはシリウスの方が向いてるんじゃないかと思うんだけど?」


 イケメンはニヤニヤしながらそんなことを言い出した。

 こいつ、面白がってるな。


「……将来、冒険者になってパーティを組む時のために、人をまとめる経験をしておくと役に立つんじゃないかと思うんですが、どうですか?」


「確かに!! そう言われるとやりたくなってきた……!」


「じゃあ、委員長はルーク君ということで、皆さんいいですよね?」


「あぁ、いいぞ」

「いいんじゃない?」

「構わない」


「ね?」


 ララちゃんに念を押しておく。


「はぅ…… わたしもいいと思います……」


「決まったようですね。それでは今日はちょっとだけ聖書を読んで、終わりにしましょうか」


 聖書は、主に女神アルテミシアに関する話であった。

 アルテミシアが光の眷属ルミエラと炎の眷属イグニアスを生み出し、世界に光を齎したという。

 魔力の源はアルテミシアにあると言われており、この世界では非常にメジャーな神話である。魔術教本の冒頭にそのようなことが書いてあった。


 一時間ほどリアーヌさんに聖書を読んでもらい、初日であると言うこともあり、僕たちは昼前には家に帰った。

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