第6話 魔術行使

 父さんの部屋に忍び込み、本棚を見回す。

 背表紙が読めないものも結構あるな…… まだ完全に言語をマスターしたわけではないから仕方ないが。


 ふと、一番下の段にある背表紙がボロボロな本を手に取る。


『初級魔術教本』


 うん、これから読んでみよう。


…………


 三十分ほど読み進めたが、やはり魔術に関する基礎的な内容が記された本だった。


 曰く、魔術は行使難易度から、一般的には初級、中級、上級、特級と分類される。

 曰く、魔術は多くの属性に分類されており、人それぞれ得意な属性、不得意な属性がある。

 曰く、魔術行使には、対象となる現象に対する深い理解や具体的な想像力が必要である。

 曰く、魔術行使の補助を行い、理解の浅い者でも魔術行使を可能とするために、詠唱や魔術陣が開発された。

 曰く、現代では魔術が広く普及するに伴い、口語伝承が容易である詠唱を用いた魔術行使が主となっている。


 つまり、僕は魔術に関する理解が足りなかったから、魔術を行使することが出来なかったのだろう。

 詠唱の補助があれば魔術行使ができるかもしれない。

 あまり長時間姿を消すとバレるかもしれないため、僕はいくつかの詠唱を記憶し父さんの部屋を後にした。


 そしてベッドに上がり、先程詠唱を暗記した『光明トーチ』という光を灯す魔術を試してみる。

 なぜベッドの上かというと、今までの経験上、魔力を使いすぎて意識を失う可能性があるからだ。

 また本当はもっと派手な魔術を使ってみたかったのだが、室内での行使のため安全性を重視し、また証拠が残らない魔術ということで『光明トーチ』を選んだ。


 よし、いくぞ……!


ひありお、わあみちをてあえ光よ、我が道を照らせ光明トーチ』」


カッッ!!!


「めがぁッ!!?」


 凄まじい閃光に瞳を焼かれつつ急速に魔力を失い、ベッドに倒れこむ。


 嘔吐感と虚脱感がすごいが、なんとか意識は失わなかった。

 目は死んだ。


 本来は生活魔術と言われる、殺傷力がなく暗闇を照らす程度の魔法である『光明トーチ』が、これでは閃光弾だ。


 原因は自覚している。

 まず、魔力を込めすぎた。本気で指先に凝縮していた。

 そして、全力で光るイメージをしてしまった。

 ……本当に発動するか不安だったから、と言い訳をしておく。


 半分くらい魔力が回復してきたところで再チャレンジ。今度は、指先に少しだけ魔力をまとわせ、ランタン程度の光量をイメージ。


ひありお、わあみちをてあえ光よ、我が道を照らせ光明トーチ』」


――ボワッ


《スキル『初級光魔術』を獲得しました》


 ぼんやりと指先が光り出した…… 成功だ……!!

 きちんと成功したからか、スキルとして認められたようだ。


 その後何度か『光明トーチ』を使い、魔術行使の魔力量とイメージのコツを大体掴んだ。


 しかしこの魔術…… 光魔術と称されているが、指先に空気の層を作り、燃焼させることで光源を作っているんだな。

 そしてそれらを行使する術式は、意外と単純なようだ。

 この程度の術式なら詠唱はいらないんじゃないか?

 よし、試してみよう。


(『光明トーチ』)


――ボワッ


《スキル『詠唱破棄』を獲得しました》


 意外とすんなりできたな……

 教本によると元々詠唱とは補助輪のような物みたいだし、何度か使って術式や魔術理論を理解すれば『詠唱破棄』自体は簡単なようだ。


 この後、僕は片っ端から生活魔術を試してみたが、やはりそれらの単純な魔術は、全て詠唱が不要であった。

 ただし魔術名称は発音した方が魔術の威力は上がるようなので、威力の高い魔術を行使したい時と『詠唱破棄』する時とで使い分けた方がよさそうだ。

 ……まぁ、現段階ではむしろ手加減しないと大変なことになるので、基本的には『詠唱破棄』で問題なさそうだ。

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