第4話
「ただいま~」
奥の部屋に向かって投げやりに言う。
「おかえり~」
母さんの明るい声が返ってくる。奥の部屋から出てきた母さんは少し疲れているようだった。
「ねぇ、愛輝。学校は楽しい?」
突然の質問に俺は少し驚く。いや、別に変な意味ではないんだけど。俺もしかしてにやついてた?
「楽しいけど、なんで?」
カウンセラーの母さんが聞いてくるのだ。なにかあったのだろう。
「今日ね、中学生の女の子が来たの。自分で自分を傷つけてしまった女の子。」
本を出版するほど人気な母さんのとこには、毎日色んな人が来る。そんな母さんの話を聞くのが、俺の日課だった。
「傷つけるって・・・」
どうして、どうやって。次元の違う話に声がかすれる。
「リストカットよ。自分の手首を自分で切ってしまっていたの。」
その言葉を聞いた瞬間、新原さんの顔が浮かんだ。いやらしい意味ではない。彼女の手首を見てしまっていたからだ。俺にとって、次元の違う話ではなかったのだ。
その日の夜、俺はリストカットについて調べていた。傷ついた腕の画像がたくさんある。どれも傷は細い線のようなものばかりだ。間違いない。新原さんのあの傷は、リストカットによるものだ。
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