第11話◆ヒョウトVSチャラ男◇

「バレちまったかぁ! なら仕方ねぇ、堂々と行ってやる。倒しに来たぜぇ! 魔王様よぉ!」


 金髪で耳と鼻にピアスを付けている。完全に日本の渋谷あたりを歩いてるチャラ男だよな? ……渋谷は偏見だな。


「いや、誰だ……?」

「あぁ? 俺様か? 俺様は世界最強の勇者! リュウヤだっ!」


 よし。とりあえず頭はもうダメってのは分かったな。


「で、勇者さん。誰が魔王だって?」

「そこの可愛い娘が魔王なわけないだろ。お前だよ白髪しらが野郎。どーせその子はどこかから連れ去ってきたんだろ? ずっと下向いて悲しそうにしてるからなぁ?」


 見た目で判断すんな。チャラ男め。魔王なんてここにいねぇよ。

 まぁ、俺も見た目でチャラ男と決めつけているが……。


「……誰かに頼まれたのか? 頼んだのは誰だ」

うるわしき女神様だ。お前を殺せたら何でも願いを叶えてくれるんだとよ! これでバラ色ライフだぁ!」


 ……ウゼェ。こいつチャラ男だけどオタク入ってるな。どうせバラ色ってハーレムとかだろ。さっきからいやらしい目でラビィのこと見てるからな。こいつだけには渡したくないな。

それに、女神の条件が殺しとかおかしいだろ。


「お前、ここの魔物はどうした?」

「あ? あぁ、あの変な蜂か? 攻撃されても痛くないし、脳天に一発入れたら死んで消えてったよ。あんなのが門番か? あれだったらお前もどうせ弱いんだろうな!」


 おぉっと……。頭はアレでも強いみたいだ……。

 今のうちにここの地形を見とくか。急に攻撃されたら多分ヤバイ。

 えっと、広さは部屋の中心から大体半径一キロ位か。周りには人サイズの岩がゴロゴロと動きづらいな。俺の後ろは約百メートル。

 あいつの武器は……。左手に盾と聖剣らしき剣。だったら俺は魔法だな。

 感電させてやる。


「俺を殺せるのか?」

「余裕だね」

「ラビィ、よく聞くんだ。今から三カウントで後ろに飛んで後退する。いいな?」


 俺はチャラ男聞こえないように、ラビィに伝える。

 ラビィは喋りはしないが、コクリとうなづいた。返事してくれてよかった。


「三、二、一……。いくぞ」


 そう言うと”俺は飛ばず”にラビィだけ飛ばせた。ラビィは空中で少し驚いていた。

 ぼーっとしてても引っかからないかなと心配だったが上手く飛んでくれてよかった。聖剣はきっと光属性だからな。ラビィが武器化したとしても結構きついだろう。


「ごめんな……。氷結暗黒化。『ノワールィ・クリスタルウォール』」


 いつもの綺麗な魔法陣ではなく、真っ黒な魔法陣を展開して作りあげたのは、黒く透明な厚さ一メートル程の氷の壁で、部屋をラビィ側と俺、チャラ俺側で分けたのだ。

 この魔法は、ラビィには内緒に練習していたものだ。普段の威力の三倍はある。それに光属性以外は大幅に威力を軽減してくれる。

 この『クリスタルウォール』のように暗黒化した魔法は、防御時に光が弱点になるがその他の属性はほぼ効かなくなるようだ。 そして攻撃で使う時では、光に対してはとてつもない威力を発揮する。

 闇がこのような効果ということは、光はこの逆だ。だから、もう一つの魔法を発動する。


「付呪。『イノセンスパージ』」


 これを氷の壁に付呪する。『イノセンスパージ』とは光属性の防御壁だ。もちろんチャラ男が本気になればゴリ押しもできるがそんな事は時間がかかる筈だ。あいつがラビィのとこに行くのはこれで阻止できた。同時にラビィが壁に触ることも阻止できる。

 後は俺が残りの魔力であいつをぶっ飛ばせるかだな。魔力も体力も少しづつ回復はするが、そんなに休んでいられる時間は多く無い。フルで行ったらきっと二十分位で無くなってしまうだろう。それでも今はやらなきゃいけない。

 俺は幾つもの黒い魔法陣を展開する。天雷魔法で思考能力を何倍にも引き上げ、展開と同時に罠を仕掛ける。

 電流で思考を引き上げてるからか、脳が熱い。

 そんなことを気にしていては勝てない。そう思うほど嫌な予感がした。


「最初ッから、本気だ!」


 こいつを殺す。殺されない為に。


「俺に勝てると思ってんのかぁ!? ありえないね! 俺が勝ってその子を俺のハーレムに入れてやるよ!」

「手は出させない!」


 相手は戦い腰なのに剣を抜かない。舐めてるのか? ならこっちから行かせてもらう!

 さっきは準備だったが、今回は攻撃だ。相手は剣だから遠い所から攻めさせてもらうことにする。最初はあいつの攻撃を見せてもらうか。

 オタクの知識でかなりの武器を知っているが飛ばすとしたらアニメとかでもよくある物がいいな。想像がしやすい。

 少し、と言っても思考を加速させてあるので一秒とかからない。五十ほど展開し放つ。


「『ノワールィ・エレキ・パルチザン』!」

「おーなかなか多いな。だけど俺様には届かないぜ!」


 チャラ男の腕がブレた。その瞬間俺の放った魔法が全て弾けた。

 それだけじゃない罠も全部壊されている。

 マジかよ……。これはやばいな。予想よりもずっと強い。

 下手に動いたら何されるかわかんないぞ……。

 こいつ剣じゃないのか? 能力? 魔法? なんだ?


「何したお前……」

「知りたいか?だったら近づいてこいよぉ! アハハハッ!」

「……」


 近づけるわけない。どうすればいい……。とりあえず魔法を撃つしかない。

 今度はさっきの倍だ。撃ったら終わりじゃない。その後も撃ち続けてやる。


「いっけぇぇ!」


 氷の武器が数種類、雷の武器が数種類、闇の武器が数種類。チャラ男を囲むように迫る。

 さぁ、今度こそ見せてみろ。


「さっきより多いか。いいぜ! お披露目だ! うなれ! 悪魔殺しの銃!」


 銃か。リロードをどうやってるか分からないがとりあえず攻撃手段が分かった。

 しかも、今回は撃ち落とし損ねた攻撃が当たってた筈だ。

 この方法が良いのかもしれない。これを続けるのは正直辛いがやれない訳では無い。しかし、用意してる間に撃たれたら死ぬな……。

 本当に攻略が難しい……。異世界来てこれとか本当についてないな。


「お前、剣じゃないのか。それと、俺の魔法を受けたよな? どうだ?」

「剣なんて貰ってから一回も使ったことねぇよ。見えてなかったか? 俺は当たってねぇ。盾で全部受け止めてらぁ! 残念だったな!」

「女神とやらの贈り物か?」

「あぁ、そうだよ。この銃は魔法を消す能力がある。俺の魔力がある限り、リロードは必要なくて楽だぜ。盾は魔法を吸収して俺の魔力に出来る。良いだろ?」


 よくそんな大事な能力話してくれたな。余裕なのか?

 それもそうか……。装備のレベル違う。これは勝てないかもしれないな。……いや、勝つ気で行かないといけない。

 魔法を撃ってもどうせ吸収される。数で押しきれないならいっそ接近するか?

 剣は使った事は無いらしいし、盾を使うのも反射で動く感じでそんなに上手くは無いだろう。

 接近するんだったら魔眼も開眼させよう。なぜ今までしていないかと言うと、情報が多すぎて頭の中が絡まってしまうのだ。

 少しラビィの方を見る。心配そうにこちらを見ながら、壁に触ろうとするが弾かれて触れないようだ。あの様子なら少し供給してる魔力を抑えてもいいかもしれない。

 供給とは、魔力を自分の魔法で作った物に送ることだ。

 俺はピッタリの魔力で作っているため、作り終わると同時に消え始めてしまう。なので魔力糸で繋いで魔力を送っている。

 この供給というのは俺が考えた呼び方だ。それなのに妙に体染み付いているような気がして、考えた瞬間使えたのだ。役に立ってよかった。

 少しずつチャラ男に気づかれないように送っている魔力を減らしていく。

 そして今残っている魔力で身体強化をする。

 これで勝てなかったらもう俺に打つ手が無い。精神や体力的にもそろそろきつくなってきた。

 最後の勝負だ。絶対に勝つ。俺は尖った氷を作り手のひらを切り魔法を唱える


「『ノワールィ・ブラッドアイス』デスサイズへ。……開眼っ!」

「でっけぇ鎌だな。ってか目の色違くなったな! 何それ! 俺も欲しかったわー。けど変化それだけ?」

「銃で接近戦は殺りにくいだろ?」

「来てみればわかんじゃね? アハハッ!」

「なら、行かせてもらう! 神速・(仮)」


 俺は音速と同等の速さで蛇行しながら走る。

 このデスサイズには俺の血が入っている。血は魔力とよく反応するので武器の形を多少変えられるようになるのだ。

 これを使って奇襲したいのだが上手く行くかどうか……。これをやるにはそれなりに近づかなきゃならない。数百メートル程度など、すぐなのだが思考が加速していると、とても長く感じる。

 アイツの魔力が乱れたり、少しでも動いた瞬間に走るスピードを上げたり遅くしたりする。そうすれば弾にも当たらないはずだ。

 もう、残り二十メートルと少しのところまで来た。

 そこで、チャラ男の手が動き始めた。俺の認識能力が何倍にも膨れ上がっているというのにまだ早いと感じる。

 スピードを上げようと思ったその時、チャラ男が目の前に現れた。移動するのが見えなかった。咄嗟とっさに避けようと横に飛ぶ。

 だが飛んだのは横ではなく後ろだった。訳が分からない。なぜ後ろに飛んでいる?

 俺はそのまま空中を飛び氷の壁に鈍い音と共にぶつかる。

 倒れ込んだ時に氷に映った自分の身体が見えた。同時になぜ後ろへ飛んだのかを理解した。

 撃たれて吹き飛ばされたのだ。両足に穴が空いていて腹と胸のあたりにも空いていた。

どこかでこの光景を見たことがある。……夢だ。あの夢が正夢になってしまった。


「がはっ……っ!!」


ーー痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!


 遅れて痛みが全身を走った。痛い。それしか考えられない。それから徐々に痛みが収まっていき、状況が理解出来るようになってくる。

 肺がやられたのか声が出ない。血が流れ出る。武器にも血を使ってしまって完全に血が足りない。

 死ぬな……。何でこうなったんだ? ラビィを置いて逃げれば俺は助かったかもしれない。元はと言えば青葉のクソが俺をここに転移させなければよかったんだ。絶対に青葉とチャラ男は許さない。

 もしも、転移されずに地球にいたら平和に暮らしていただろうか?

 もしも、迷宮に行かなかったら、こんな事にはならなかったのか?

 死ぬのが怖い。体がだんだんと冷たくなっていく。意識が遠退き、猛烈に眠い。

 嫌だ。死にたくない。そう思っても血は止まらない。

 その時、何か温かいものに包まれた。俺は今の時間で回復した全魔力を使い傷の手当をして、聴力を強化する。すると、なんとか、微かにだが聞こえるようにはなった。


「……うぅ。……ヒョート。ねぇ……」


 ラビィの泣いている声だった。

 なぜラビィがここにいる? そうだ、俺はラビィを守るために……。

 壁は? 相手の狙いはまだ俺だ。早く俺を置いて逃げれば良いのに何をしている。

 色んな疑問が頭の中で混ざり合う。


「……ヒョート……。やっぱり一緒に居たい……。置いていかないで……」

「あぁ~? 何? もう死んだのか~? じゃあ、そこの子こっち来なよ」


 チャラ男はラビィの様子を無視して話しかける。

 駄目だ。これ以上は死ぬことが異常に怖くて話が頭に入ってこない。

 こんなにも怖いことだったのか。だが、また出来る限り集中して耳と傷に魔力を集める。


「……ヒョートが私を余り信じていないのは気付いてた……。でも初めてヒョートが優しく私と対等に話してくれた。ほんの少しの時間だけど私はヒョートと居るだけで心地よかった……。笑われるかもしれない。……けど、運命の人だと思った……。ヒョートの為なら……。なんでもできるから……。だから……。だから戻ってきて……」


 初めて聞く、ラビィの荒げた声。その声は震えていて辛そうな声だった。

 ……俺は自分の事ばっかで駄目だな。ちゃんと信じなかったこと気付いてたのか。どうするか……。もうそろそろ意識も持たなさそうなんだけどな……。

 その時、時間が止まるような感覚があった後に、脳に直接響くような感じで声がした。


《おーい。まだ生きてるかい?》


 なんだ? 誰だ? あーいよいよ幻聴か……。そろそろ死ぬのが俺。

 ナツ達ごめんな……。戻れなかった。


《幻聴じゃない。私はうーん、そうだなぁ……。副神とも言うけど、君達の世界では一般的に死神様って呼ばれてる存在だ》


 死神……。やっば俺は死ぬのか。

 次は安全にだらけられて、モテる人生がいいです。お願いします。


《君は死なないし、願望ただ漏れ……。軽く説明するから聞くんだ。いいかい? それと、考えるだけで話せるから余計なこと考えないようにね》


 まだ俺死なないのか。そう言えば、痛みやその他の感覚も感じないし、ラビィ達の声も聞こえない?


《そうそう、私と意識だけを繋いでるからね。だけどこのまま何もしないと君は死ぬ。ってことで私が意思確認しに来たわけだよ》


 意思確認? 何の?


《この世界の副神。死と生を司る神……。死神になる事だよ。

私はこの世界ができた時からずっとやってるからね。そろそろ面倒くさくなってきたから後継者探しをしてて、君を見つけたんだ。技神が君を使って何かしようか企んでいたけど少し強引に私が貰ったんだ》


 俺の知らないところで話が進んでたんだな。あの女……。許さん。

 さっきから副神って言ってるけどなんだ?


《副神って言うのは、創造神が一番上の位でその下に上位神、でそのさらに下が副神って感じだね。頑張れば副神だって上位神になれるよ。

 因みにこの世界に創造神や上位神はいないんだ。だから奇跡なんてのはほとんど起こらない。奇跡はそれぞれの持つ運によって起きるかどうか決まるんだ。で、死神になるの? ならないの?》


 なる。なって、ラビィを今から助ける。

 俺はラビィの思いに答えなきゃならない。


《ふーん、分かった。じゃあ死神がどんな存在か説明をするよ。それを聞いた後でまた、意思確認するから。

 まずは、さっき体験した恐怖。あれは通常の人間の物じゃない。死神って言うのは死の恐怖に敏感でなきゃならない。だから人の何十倍も怖く感じるんだ。

 死の恐怖を感じた人がそばにいると自分も分かるようになっていて、助けるか助けないか選べる。でも、勝手に助けたりすると運命神がうるさいから、正直な所やめた方がいいよ》


 運命神? いろんな神がいるんだな。


《神はたくさんいるよ。続きを話すね。その人がその時に恐怖を感じていなくても死神は、未来の恐怖を感じることができるんだ》


 未来予知みたいな感じか?


《近いね。でも違う。わかるのは死ぬという事だけ。

 死神は副神でも力的に上位神を超える程の力を鍛え方しだいで持てることになる。だから、煙たがられて他の副神や別世界の上位神からも狙われることになるんだ。

 それから、私情だけど、まともに力を扱えないようなくずは後継者にしたくないんだ。この後少しの間は、私の力を使えるようにしておく。その力を完璧に使えたら認めるよ》


 ああ。絶対使いこなしてみせる。


《よく言ったね。後は何かあったかな……。あ、神はそれぞれ罪を持ってるんだ。

 神だっていいことばかりしている訳じゃないからね。その罪を一生背負うんだ。まぁ、枷って言うよりはステータスを強化しているから罪なのかわからないけど》


 それ、罪じゃないよな? 優遇されてるよな?


《まあ、私にそんな事言われても困るね。

 他にも色々あるけどどう?やる?あ、そうだアイテムボックスの容量は無限に入るよ。これ大事だよね》


 一つ聞きたいんだが、力が使えなかったらどうなる?


《悪魔化する。悪魔化と言うのは魔力の暴走。簡単に言うと死ぬし人に迷惑をかけるってこと。そうなったら面倒だけど私が殺しに行くよ》


 マジか……。いや、やらなくてもどうせ死ぬんだ。なら受ける。

やらせてくれ。


《わかった。君の事をとても愛している人も動きそうだから急いであげるよ。

 一つ忠告しておこう。あの子も神の素質がある。だから、チャラ男君を倒して奥にある魔法陣に乗ったら、誰かの力を受け継ぐかもしれない。もちろん君も生きていたら魔法陣に乗るんだよ?

 それとさー、人の事だからどーだっていいんだけど、ちゃんと見てあげなよ? こっちは見ててイライラするんだ》


 あー……。もう迷ったりはしないよ。死神なのにアドバイスなんて優しいな。

 それと魔法陣か。分かった。


《死神が全員残酷なわけじゃない。

 さぁ、用意ができた。今から言うことは何があっても忘れちゃいけないよ? いい?

 恐怖を理解すること。

 死に物狂いで生きて、生きることの辛さを理解すること。

 自分の力に溺れることなく、無駄に力を使わないこと。

 この三つだ。じゃあ行ってらっしゃい。あーやっと隠居できるかな》


 この死神の言葉を最後に意識が一気に戻ってくる。そして、技神に力を受け取った時よりも強大な力が流れ込んで来る。気を張り詰めていなければ魔力が一瞬で爆発して暴走してしまいそうだ。

 体から痛みが消え感触が戻り始める。耳も聴こえるようになった。

 次第に流れが収まり、全ての感覚が戻った。

 すぐにラビィの声が聞こえてきた。


「……ヒョートはまだ死んてないっ!」

「だーかーらー! そんだけ血が出てたら死ぬだろって言ってんだよ! いいからこっちに来いよ!」

「……お前と行くならヒョートと死んだほうがいい!」

「あー! もうめんどくせぇ! 一人減っても別にいいか。じゃあそいつと死にな!」


 準備完了だ。体に力が入る。俺の意思ではないが『開眼』しろと”力が”言っている。行こう。

 バンッと銃を撃つ破裂音が聞こえる。ラビィを狙ったものだ。殺らせはしない。

 俺は起き上がり銃の弾を……。握り潰した。


「……ヒョートっ!?」

「はぁ!? こいつ目を瞑ったまま……」


 チャラ男はひとまず放っておくか。まずラビィに言わなきゃいけないことがある。


「ラビィ……。ずっと信じていなくてごめんな。俺とずっと一緒に居てほしい。それとも俺じゃもう駄目か?」


 ラビィは今まで見たことない笑顔で、目からはボロボロと涙を流しながら言った。


「……駄目じゃない。一緒に居たい……」

「ははっ。ありがとな」

「おい! 何で俺を置いておいて告ってんだよ! お前らは死ぬんだよ!」

「俺らに死の恐怖はもう感じない。感じるのはお前だ。さぁファイナルラウンドだ。『開眼』」

「……左の眼が黒く光って……。魔眼は右だけじゃ……?」


 死神から貰った力はこれか。いや、貰ってないんだっけ?

 まぁ、いいや。左眼から見える世界は暗く、人が浮き上がって見える。

 そして、チャラ男の胸の周りに輪状の魔法式に似ている線が漂っている。何故かは知らないが、アレを切るのだと本能的に察する。


「魔眼が増えただけで一緒だろ! さっさと死ね! 俺は早く元の世界に戻りたいんだよ! 悪魔の王よ。断末魔の叫びをあげよ!『セイント・サウザンドバレット』!」

「言われた言葉そのまま返してやるよ。俺達には届かない。『トゥルーダーク』」


 これは虚無魔法と闇魔法を合成した魔法だ。どうやら今まで使えなかった虚無属性は神の力を使う時に必要になるらしい。

 俺を中心に黒い波紋が起こり、弾丸を飲み込む。すると弾丸の一つ一つが黒くなり始め、最後には灰となって消えていった。


「は、はぁ?! ありえねぇって! たかが魔王如きに俺が負けるはず……!」

「残念だったな。魔王じゃなくて今は魔神の方が近い」

「うるせぇ! 神だろうが何だろうが全部ぶっ殺して、ハーレム作るんだよ!」

「今度はこっちから行くぞ?」

「こっちに来るなぁァァ! 魔を断て『ディスペル・バレット』!」


 俺は氷でデスサイズを作り上げ走った。チャラ男は俺を撃とうと何百回も引き金を引くか当たらない。恐怖だけではないだろう。焦って当たらないんだろうな。

 その焦りに加えて、俺には弾が見えるようになったのだ。全て避けきった頃には、俺はチャラ男のほんの数メートル先にいた。


「近くに来たぞ?」

「何でだ……。俺は女神様から貰ったチートがあるんだぞ!? アァァァァッ! 最後だっ! 切り裂け! 吹きとばせ! 穿て! 『ラスト・バレット』!!」

「そうだな最後にしよう。恐怖を知りしものよ。新たな原点からやり直せ。鎌江流大鎌術『心羅しんら一閃いっせん』」


 その瞬間俺は空中の式を切り、『ラスト・バレット』は発動されず終わった。ちょっと見てみたかったかもな。

 俺自身が、なぜ知っているのか分からないがあの式は体と魂を繋げておくもので、死神にはそれを切れる力があるようだ。

 魂と体が離れれば、それは死を意味する。だから外傷はないが死んでいるのだ。

外傷がないと言うのは、この眼を開眼しているうちは、人が切れないという事だ。つまり、物理的な攻撃が不可能という事だな。

 人を殺した。だが、アニメで殺してしまって、よく『うわぁああ!』とか言ったりするのを見るがそんな事にはならなかった。殺したことよりもラビィを守れたことが嬉しかったのかもしれない。

 ラビィが駆け寄って抱きついてきた。


「……ヒョート!」

「ぐふっ……」


 想像してみてくれ一般人がラグビー選手にタックルされるというのを……。

 それに俺は流した血で血まみれなわけで抱きつくと……。


「……ヒョートォ……」

「顔に血! 怖いからっ! 感動する場面だけど、俺の血で感動できなくなってるから! えっと……。血を落とすのは……『クリア』」


 水魔法の簡単な下位魔法だ。これのおかげで風呂に入らなくても清潔でいられるのだ。魔法超便利だわ。


「……よかった。死んじゃうと思った…」

「俺は死なないか……ら。……うっ、何で傷が開いて……」

「……ヒョートーー」


 意識が遠のいていく中で《おめでとう合格だ。それと時間切れ。私は早く休みたいから頑張って生きてくれ》と死神の声が聞こえた。

 俺から死神の力が消えた事が分かり、そのまま深い眠りに落ちた。



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