第6話◆不思議な少女◇

 寝ている所が固く、頬骨が痛くて冷たい。

 起きてみると俺が絶対転移を使った部屋。休憩地点の部屋に似ていた。

 だが、二つだけ周りを見ると違う所があった。一つは、どう見ても封印された感が半端ない一人の少女だ。

 暗くてよく見えないが、赤黒いつるが体中に巻き付いてるって普通に考えたら封印だろ? いや、呪いってこともありえるか。どっちにしろあれは危険物だ。

 寝息が聞こえる、どうやら寝ているようだ。凄いなこの状況で寝るって……。

 二つ目は、壁側に俺の三倍位ある人型なのかよくわからない銅像で敷き詰められていることだ。……不気味だな。


「っと、そういやステータス変わってるんだっけ?」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


カマエ ヒョウト 人族……?

職業……勇者 Lv.1

・スキル

全耐性Lv.MAX ステータス偽装Lv.-

鎌江流武術Lv.- 超鑑定Lv.4

・魔法……闇Lv.-、光Lv.3、虚無Lv.-

・固有能力……スキル創造

・加護

女神&技神の加護……自身に掛かっている呪いを全て払う

龍神の加護(魔力が見えるようになる。魔眼として身につく『アウルム・アイ』)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ビフォーアフターが激しいな! 何か知らないけど龍神さんも協力してくれた? みたいだ。面識ないんだけど……。

 早速、超鑑定を少女の方へ向けてやったのだか何も見えなかった。あの蔓だろうか。さっさとやろう次だ。


「えっと、『スキル創造』はスキルの欄に技を追加に出来るのか。試しに幾つか作ってみるか? ……『アウルム・アイ』開眼」


 そう言って俺は魔法を構築した。この魔眼のおかげでよく進んだ。と言っても発動までのプロセスを何回も考えただけで、よく分からないまま作れたんだけどな。

 魔眼で見た世界は少し変だった。魔素や魔力に色がついて見えるというのが簡単な説明だな。俺の魔力の色は黒銀だった。人によって違うのだろうか?

しばらくして勉強した幾つかのスキルを作り終わることが出来た。早速ステータスを開き説明を見てみた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・自動昇化魔法(自動で魔法を一段階昇化される)

・氷結魔法(氷魔法の上位互換)

天雷てんらい魔法(雷魔法の上位互換)

・魔法暗黒化(闇魔法×闇以外の魔法を合わせられる)

・魔法光明化(光魔法×光魔法以外の魔法を合わせられる)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ……作りすぎた……か?

 ってか昇化されてるし。……昇化魔法は偶然の産物で遊んでたら出来てしまった。よく分からないんだよな。まるで俺の意志とは関係の無いかの様にどんどんと魔法が出来上がっていくからな。……固有のスキルはこういうもんなのか?

 まぁ、とりあえずは作れたので警戒しながら少女へと近づいてみる。

 それに気付いたのか少女も起きて俺の方を見た。

 その瞬間俺の頭の中に雷が落ちた。さっきまでは薄暗くて良く見えなかったが、近くに来た今はよく見える。

 俺の前には今! 超絶美少女がいる!!

 髪は暗いこの空間で白銀に輝いていて、前髪の右端……。触角って言うんだったか? その部分が黒い。

 そして、顔は日本人寄りで雪のように白い肌をしていた。それに大きな目がクリッとしている。もしも日本にいたら一万年に一人の美少女と言われているだろう。いやそれ以上!

 身長は捕まっているので何とも言えないが恐らく、俺の肩くらいで百六十より小さい感じだろう。

 そんな、彼女は元々大きい目をもっと大きく開いて驚いていた。


「……誰? ここには入れない筈。どうやってきた……?」


 声は綺麗だが少しやつれていた。可哀想に……。封印されて間もないのだろうか? 誰だ! この子を封印したのは!

 話しかけられたのはいいがあまり、日本で家族やナツ以外の女の子と話す機会が無いから少し遅れて声が出た。


「ここは入れないのか?」

「……その筈。封印されて以来あなたとしか会ってないから」

「どれくらい封印されていたんだ?」

「……知らない。だって日が見えない……」

「ここから出たいのか?」

「……私は。……出ない方がいい」


 急に落ち込んだように目を逸らす。

 まあ、封印されてるんだから何か訳ありなんだろうな。


「なんでだ?」

「……あなた私を知らない? 知っててここに来たんじゃない?」

「いや、全くの偶然だな。因みに転移で来た」

「……転移。じゃあ私が何か知らない?」

「よくわかんないんだけど、お前は出たくないのか?」

「……私はこの世界にいたら駄目。私がいたから家族は殺されて……。私の種族もきっと全滅してる。……私はもう、道具として扱われるのは嫌……」


 表情が硬い子だな。悲しんでるように見えなくもないが、分かりづらい。


「そっか。……種族? もしかしてだけど魂族か?」

「……そう」

「だったら、今外に出てもお前の事を知ってる人なんて殆どいないぞ?」

「……なんで言い切れる?」

「だって、今話してたことから封印されたのが三百年以上前だって分かったからだよ。三百年なんて生きてるやつはエルフ位だろ。ってか魂族ってそんなに長生きするのな」

「……私が特別。魂族は魂そのものが強ければ強いほど生きていられる。体は子孫を増やすための物」

「ふーん……その体制キツくないのか? 腕とか吊りそう」

「……魂族は物理的な力は効かないから大丈夫。それと、さっきからずっと質問してズルイ……」


 ほんとに物理的な攻撃効かないのかよ……。存在自体がチートだろ。


「あ、ごめん何か聞きたい事あった?」

「じゃあ……」


 それから少女は、俺の名前。何故ここにいるのか。などを聞いてきた。聞かれたことには勿論全て答えた。他にもこの世界の住人ではない事、バカでアホなゴミイケメンの事などを話した。あー! イライラする! あいつ絶対戻ったら潰してやる!


「……ヒョートって結構ハードな人生」


 ふむ、”ウ”の発音がイマイチだけど、呼び捨てか。……悪くない! むしろ感謝すべきか!!


「同情してる目を俺に向けてるけど、お前程じゃないと思うぞ。他には何かあるか?」

「……じゃあ、恋人いる?」

「え? 好きな人? いないいない。リア充は爆発すればいいんだよ」

「……りあ? そっかいない……」

「喜んでるのか?」

「……喜んでない……この状態で喜んでたら変態」

「まぁ、そうだけど……」


 一瞬口元が笑ったように見えたが気のせいだったか?

 笑ったら可愛いと思うんだがなあ。どうも感情が薄い。


「……ねぇ、私と話をしてて楽しい?」

「楽しいに決まってんだろ。こんな可愛い子と喋れて今死んでも悔いはないね」

「……そこまで?」


 すいません死にたくは無いです。


「えーと……まぁ、この時間は凄い楽しいよ。でも、もうそろそろ皆の所戻んないと」

「……え。あ……」

「どうした?」

「……ヒョート……私って居てもいい?」


 困った表情でこちらに聞いてくる。


「それは自分で決めることだと思うんだが、どうだ?」

「……じゃあ、ヒョートが……。存在する理由って言ったら?」

「え?」


 存在する理由……。と来たらお決まりのあの流れでは!?


「えっと……今まで会った人と全然違くて、優しくて……何か同じような異常な力を持ってるみたいで……つまり」


 も、もしかしてこれは……彼女いない歴=年齢の俺に彼女がっ!?


「つ、つまり?」

「……私と」

「ゴクリ……」

「……ふ」


 ん? なんか違うこと言おうとしてる? なんだ彼女じゃないのか。残念だ。そりゃそうか、こんな短時間で女の子を落とすほどの話術は持ち合わせていないからな。


「……夫婦になって……下さい」

「はいはい」


 え? あ……。ん? ふ、夫婦? ソレってあの夫婦? 彼女飛び越した? 勢いで”はい”って言ってしまった……!


「……ほんとに? もっと考えなくていいの……!?」


 そうだよな? 嘘だよな? お前も思ってるなら言うなよ。嘘でも嬉しいからいいけどね?


「ってかそろそろ名前教えてくれない? 最初から名乗ってないぞ?」

「……名前忘れた。ヒョート……付けて?」

「俺が? そうだなぁ……。ラビィってのはどうだ? 嫌なら変えるけど」


 雪みたいに白い肌と髪。目も大きいしパッと見でうさぎに似てるからラビィなんだよな。俺とも少しお揃いだしな……。

 おおっとキモイなんて言うなよ? 頼んできたのはあっちだ。


「……ん、嫌じゃない。夫がつけてくれた名前……大切にする」

「ん? 夫って嘘じゃなかったのか?」

「……嘘であんな事言わない……本気だから皆が私を狙う理由教える。もちろん、他の私の事も全部……」

「狙う? 道具としてってやつか?」


 最後の部分は目が少しだけとろんとしていて、直感的に危ないと感じたのであえてスルーしておく。

 話よ。先に進め。


「……そう、私がまだ、捕まってない頃……。三百年前は、私だけが加護の力で武器になれた」

「だから狙われたと? だったら今は他にも武器化出来る人がいるみたいだぞ? 《スミス》って言うんだよ」

「……《スミス》。私と同じ……」

「あぁ、だから安心だな。それで何の武器になれるんだ?」

「……何の? 私を使う人が思い浮かべる武器全て?」


 わー。まさかの加護チートだった! そりゃ狙われるな。


「前言撤回、ここから出るなら俺から離れるなよ? その能力は確かに異常だよ……」

「……他の人たちは?」

「全員は分かんないけど俺が見たのは一種類しかできないみたいだった」

「……そう。私と一緒に居てくれる?」

「夫婦なら当たり前だろ?」

「……売ったりしない?」

「こんな可愛い子を独り占め出来て、売る要素がないな」

「……ん。お願い。私をここから出して」

「わかった。ちょっと待ってろ。今からスキルを作る。『開眼』」

「……あ、魔眼。それに魔法陣?……見たことない文字……」


 俺が魔法を作ってる間ラビィはまじまじと作業を見ていた。ちょっと恥ずかしいな。

 またすぐに、考えるだけで、複雑なはずの式が組み合わさって、出来上がった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・封印解除(神が施した封印以外は大体解けるかも?)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 何だこの説明は! やっぱり考えるだけってこんなものなのだろうか。解けるかもって……まぁいいか。それよりラビィは回復できた方がいいよな? でも体はあんまり関係ないって言ってたし大丈夫なのか?


「なぁラビィ、魂族って回復魔法って効くのか?」

「……私に使う? 止めてほしい。 光属性の回復は回復じゃなくて、体が維持出来なくて溶ける」


 溶けるのは……見たくないな。多分、闇属性が強いから光に弱いのだろう。となると光属性を扱う相手は俺がやることになるのか。


「そっか、封印解いたらどうやって回復するんだ?」

「……普通にご飯食べて回復する。でも、魔力そのままの方が効率は良い」

「じゃあ今は魔力渡すけど、どうやって渡すんだ?」

「……キス」

「ん? 今、何て?」

「……キ・ス」


 また、キスデスカ……嬉しいからオールOKだ!

 何時間でもしてやるぜぇぇ! ……はい、すいません調子に乗りました。

 魔力渡すってことは俺の魔力が足りなくなりそうだな。そんな時はチートか。よし作ろう!

 作るっていう感じがしないのが、この固有魔法の悪いところだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・自動魔力変換(空気中に漂う魔素を自分に合った属性に変換し、自然と取り込む。オーバーチャージはしない)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 このオーバーチャージは、魔力にも上限があるのか。

 魔力に上限があるってことは体力も上限があって、それは数値化されているのか?

 前は名前、レベル、種族、スキルぐらいしか見えなかったが……。

 ……考えるのは後にして今はラビィを優先させよう。


「待たせて悪いな」

「……ん、気をつけて。外したら、壁にいるのが動くかも」

「そうか……じゃあ幾つか魔法待機させといた方がいいか?……いや、無詠唱でいけるな」


 俺はよくわからない自信を持ったまま、つるに向かって封印解除を使った。

 蔦は案外簡単に外れて、二人で少し驚いた。ラビィは裸だったので俺が着てるローブを着させた。少し大きいかな?

 そして壁の奴らだが……動かなかった。


「動かないぞ? 故障か?」

「……故障はないと思う……」

「まぁ、いいじゃないか今の内に魔力を回復させようか」

「……ん。優しく……」


 上目遣い。可愛すぎんだろぉぉぉ……。これは、後で感情操作魔法も作らなければ……。そう思いながら俺はラビィの唇と自分の唇を重ねた。


「……んっ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 途中からラビィの方から来てビックりした。

 そして現在進行形で舌まで使ってグイグイきている。凄いほおが緩んでるし……。そしてさっきまで俺の魔力はゴリゴリ削られていたのだが、今は全く吸われてない。つまり今は素のキスってことだ。

 さっきまで吸っていたのにコイツは……。


「……ふぅ……。ごちそうさま……」


 結局何分やったのかは分からない。体感している時間の流れがキスしている時と通常で違いすぎる。だが、時間はかかっていても後悔しない。なぜなら、肌に潤いが戻ったラビィがそこにいるからだ。

 勿論キス前よりも可愛さアップである。


「ラビィ、途中から魔力吸ってないだろ」

「……ギクッ……何のこと?」


 ギクッって口で言っちゃってるし! 可愛いなぁもう!

 こう言うのは異世界少女の特権だな。向こうのが頬を膨らませてもブリっ子って叩かれるからな。技神のキスよりも全然甘く感じたし、何より求められているのが少し嬉しかったから許そう。


「まぁ、いいよ。歩けるか?」

「……ん、運んで?」

「歩きなさい」

「……はい」


 俺達が立ち上がり、移動しようと振り返るとそこにはさっきまで、壁にいたはずの銅像が魔物化して目の前の空間を埋めていた。


「え? 何こいつら、終わるまで待ってたの?」

「……覗き見るなんて……えっち……」


 ラビィさんこれは覗きじゃないと思う……。

 とりあえずいい試験体だ。勝てるかどうか調べよう。


「ラビィ、待っててくれるか? あいつらぶっ壊すから」

「……ん、でも一人で大丈夫? 私もヒョートと契約したい……」


契約というのは確か《スミス》を武器化させるために契約者にならないといけないんだったけか。


「そっか、じゃあ頼めるか?」

「……ん、じゃあキスはさっきしたから……イメージしながら手を繋いで……」


 俺が思い浮かべるのは、黒い刀身の大鎌……『デスサイズ』だ。

 あれを一回振り回してみたい。


「……我が魂よ。新たな契約者の想像せし形を成せ……」


 城で初めて見たものとは少し違った。足元ではなく胸元で魔法陣が輝いている。目を開眼させて見ると、ラビィの魔力は紫で胸を中心に渦ができていた。発動して直ぐに胸元から柄の部分が出てきてラビィの体が淡く光り始める。


「……優しく使って?」

「あぁ、傷も血も付けずに終わらせる」


 どうやら成功のようだ。思い通りの大鎌だ。


《……ヒョート……凄い。こんなにしっかりと武器化出来たことない……。変な感じしない。気持ちいい》

「ん?武器でも意思疎通ができるのか」

《……これも初めて》

「そりゃ良かった。じゃあ、さっさと片付けて、早くラビィと結婚する事を報告しないとなっ!」

《……頑張る……》


 結果……圧勝だった。

 身体強化を体全身にフルに使い戦った。最初は軽く振ったつもりなのだが、十体くらいまとめて体が真っ二つになっていた。

 その後は、凍らせたり、雷を落としたりとバリエーション豊かに蹂躙じゅうりんしていった。そう言えば武器の能力とかは、どうなっているんだろうか?

まあ、この時点でチートなので気にしないようにする。


「俺ら最強タッグじゃね?」

《……誰が見ても否定出来ない》


ここに勇者(仮)と武器少女の最強タッグが完成した。


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