第5話◆転移と技神◇

 王国騎士団数名と共に、俺達は王国からすぐの所にある森に来ている。この森の中に迷宮への入口があるらしい。

 迷宮の入り口は色々な形をしていて、木のみきに空いた奥が見えない穴、土が盛り上がっていて空洞になっている所なんかもある。

 何故迷宮ができるかは分からないのだそうだ。迷宮をクリアすると最後に魔法陣があり、それを使うことによりステータスが上がったり、スキルを獲得できるようだ。そのステータス上昇やスキルは迷宮が難しくなればなる程珍しく、特殊な物になるという事だ。

 だったら弱くてもステータスを強化する為に何回も簡単な所に潜り続ければいいと思ったのだが、魔法陣は一回使うとその人には反応しなくなるみたいだ。ここまで調べて王様の考えてることが分かってきた。

 ここをクリアして学園に行かせ、通いながら俺達に幾つか迷宮をクリアさせるつもりだろう。

 強くならないと武器化した魔物となんか戦えないもんな。俺は戦わないけど……。

 森に入って少し進むと大きな木があり幹の真ん中がパッカリと空いていた。周りには道具屋や冒険者らしき人がいて、こちらを見ている。


「では、これから迷宮攻略を始める!準備はいいか!」


 やっぱり騎士団長さんは声がでかかった。耳に響くし痛い。そういえばこの人の名前はバリドさんと言うらしい。ここまで来る途中に青葉と何かを話していて偶然耳に入った。


「ねぇ、うーちゃん。私から離れないでね?」

「ん? そうだな、離れたら一般人の俺は死にかねないからな。ごめんな?」

「ううん、いいの。涼ちゃん達も近くに居てくれるみたいだから」

「そうよ? 感謝しなさいね」

「そりゃ、安心だな」

「あ、入るみたいだよ?」


 そう言われて迷宮を見てみると、何人か既に入っているようだ。


「よし、じゃ行くか」


 迷宮に入ると少し大きな部屋になっていて、壁は木の中という感じだ。この壁は、魔法があたって壊れたとしてもすぐに再生するらしい。

 迷宮自体が一種の魔物という考えを持った方がいいようだ。


「全員来たな! 前衛職の奴らは何回か戦ったら後ろにいるやつと変わるように! 後衛職は魔物を魔法で全滅させない様に! では、行くぞ!」


 成程、ローテーションするのか。それなら経験値も均等に入るからいいな。

 そう言えば、別に俺は戦わなくても良いらしい。それだと経験値が無いじゃないかと思った。だが、ギルドで仮パーティーを組んで、パーティにいる誰かが魔物を倒せば俺に経験値が入るみたいだ。スゲェ、俺VIPだな。


「あ、涼叶と翔海」

「呼んだか?」

「何?」

「この迷宮についてどの程度知ってる?」

「そうね……全部で十層しかない小さい迷宮で、名前がオルドス小迷宮だったかしら?そんな感じよ」

「そうだったのか?」

「昨日、練習終わりに、バリドさんが言ってたじゃない。……人の話は聞く物よ?」


 呆れ気味に、涼叶が翔海を注意する。

 涼叶を軽くなだめて、話を続ける。


「まぁ、馬鹿は置いといて……この迷宮に出る魔物を調べたんだ。聞くか?」

「そうね、お願いできるかしら?」

「わかった。この迷宮には六種類しかいないんだ。一階はキャタピラーって言う芋虫で弱点は火、二階と三階はレッドキャタピラーでさっきの奴の少し強くなった感じだな。両方攻撃は糸と体当たりだ。四階からはゴブリンで攻撃は棍棒で来ると思う。六階からは、オークとソードオークだ。こいつらも持ってる武器で来ると思う。最後はボスでグリフォンだ。

コイツは厄介で飛んだり噛み付いてきたり、爪で攻撃してくる。しかも魔法も打ってくる。気を付けてくれ。以上がこの迷宮だ」

「それ、昨日だけで調べたの? よく覚えたわね」

「俺はオタクで予備知識があるからな。それに、涼叶だってすぐに覚えるだろ?」

「そう上手くはいかないわ」

「うーちゃん凄いね〜」

「あ、俺の番が来たみたいだから行ってくるぜ! おりゃぁぁぁ!」


 相変わらず脳筋は、戦うことしか考えてないようだ。

 見ているだけだが、皆はそんなに苦戦はしておらずに、警戒はあまりしていなかった。

 一階は既にクリアして、今は六階の少し開けた所で休息を取っていた。此処は安全地帯で魔物は生成されず、侵入もできないらしい。


「うーちゃん、みんな強いね〜私が回復する必要も無いよ〜」

「そうだな、その中でも青葉、涼叶、翔海は異常だな」

「そうだね!」

「相手が弱いんだから当たり前じゃない……」

「そうだぜ、もっと強くないとやる気でねぇよ」

「まぁ、肩慣らしくらいでいいんじゃないか?」


 そんな話をしていると……。


「全員!戦闘姿勢になれぇぇ!」

『え……?』


 ソレは降ってきた。


「ゴーレムだ! それも武器化している! あれは……モデル︰ハンマーだ!」

「おっしゃぁぁ! 強いのきたぜ! 鎌江行ってくる!」

「ちょっと待て! あんなヤツいるはずないだろ!!」


 ここは休憩地点普段なら魔物は出現しないはずだ。するとすればそれは……そんな事より、まずは翔海を止めなくては!

 だが、もう自分の二倍以上あるゴーレムに走っていき、持ってる大剣を叩きつけていた。だが……ガンっと言う音と共に防がれてしまった。そして翔海が吹き飛ばされた。


「……翔海!」

「辻都くんっ!」


 俺とナツは急いで駆け寄る。……良かった息がある……死んでなかった。

 しかしあれだけ派手にぶっ飛ばされてよく死なないな。さすが脳の中身まで硬いだけの事はある。


「どうだ?ナツ?」

「うん、骨が何本か、折れてるけど死ぬことは無いよ。私の回復で完治出来る!」

「良かった……全くこの馬鹿は……」


 そこに団長の声が響いた。


「迷宮攻略は中止だ! 死にたくなかったら急げ! 魔法を打てるものはやつの足を止めるんだ!」


 さっきよりも大声だったので焦っているのがよく分かる、

 だがそれもあまり皆は聞いていなかった。何人か負傷したせいか全員顔が青かった。足もまともに動いていない。


「なぁ、ナツ先行っていてくれないか」

「え? 何で……あんなのうーちゃんじゃ何もできないよっ!」

「出来る。奴を転移させる。倒れるから運んでくれよ?」

「どうするの? 近づけないよ? 皆の魔法が当たっちゃうよ? 止めようよ……」

「大丈夫、必ず転移させるから。頼む」

「……死んだら蘇生してまた、殺すからねっ!」

「怖ぇよ……、異世界だからほんとにやりそうだな……。じゃあ行ってくる」


 俺は団長に走り寄って転移させることを告げる。

 眉間にシワがよって、怖い顔がより、怖くなった。駄目か……?


「出来るのか? あの大きさを」

「はい、絶対転移なので……恐らく」

「いいのか? 近づいたら死ぬかもしれないんだぞ?」

「死にませんよ。死んだら殺されますからね。それにこれしかありません」

「すまんな……今の我々では、守りながらアイツを倒すことは出来なくてな……」


 死ぬわけにはいかない。ナツ達が待っててくれるんだからな。


「では、発動したら気を失いますので運んでもらっていいですか?」

「ああ、任された。我々も援護しよう……皆! カマエ殿が相手を転移させる! 彼を狙わないようにアイツの動きを止めろ!」


 さぁ、行こう。……俺は思いっきり走った。走りながら魔法を構築させる。まずは、転移する物を指定して、次に転移する場所を何百メートルも地下に指定する。

 そして俺はクラスメイトに触れないように魔法陣を初めて展開させた。

魔力が操れないから発動しないかと思ったが、固有魔法は別なようだ。


「うっ……」


 魔力がどんどん吸われているのがわかる。

 今はしゃがんでいるので魔法は当たらない筈だ……当たらないよな? ゴーレムが足下一杯に広がる魔法陣を消そうとするが、残念だな。絶対転移だ! 魔法陣が青白い輝きを増した。


「いっけぇぇぇぇ!!!」


 その後は倒れるだけだった。その筈だった。誰かの風魔法が俺を吹き飛ばして一緒に転移するまでは……。


「え……? やばっーー」


 体が動かない、魔力が尽きたのだ。誰がやったのかすぐに分かった。何故か? そいつだけが少し笑っていたからだ。俺が最後に聞いたのは、ナツの空気を切り裂く様な悲鳴だった。

 迷宮の空間が光で満たされた後に残るのは、すすり泣く音と十四人の勇者と五人の騎士の存在だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



此処は何処だろう……? 召喚される前の白い部屋に似ている。あの時と同じようにPCが置いてある。……まさか……な?


【やぁ、久しぶりだね~】

「出たな! 技神ぎしん!!」

【あ、呪い付いてたから怒ってる? ソレって私のせいじゃないんだよね〜】

「じゃあ、闘神出せやコラ」

【彼なら私が殺したよ。女神と共闘してね】

「そうか、ころ……は? じゃあなんで呪われるんだよ」

「そうなるように闘神が設定したからだよ~」


その声は後ろから聞こえた。


「うわぁ! は? 誰……?」


 声は静かに心に響く感じで、顔は整っていて綺麗だった。街をあるったら男だけでなく、女も振り返ってしまうような美貌の持ち主だ。


「酷いなぁ~。話してたじゃないか」

「お前……。もしかして技神か? 出てこれるなら早く出てこいや」


 一瞬ありかもしれないと思ったが惚れるわけがない。全く……。黙っていれば可愛いを体現しやがって。


「この部屋に来るの疲れるんだよ〜?」

「で、この部屋は何なんだ?」

「スルーですかい? うぅ……お姉さん悲しいよ……この部屋は君達がいた元の世界とさっきいた異世界の中間地点だよ。そして、素質的に一番強い人が吸い込まれるように私が作ったんだ〜。君が一番あの中で強いんだよ?」

「何言ってんだ。逆だろ? 俺が弱いんだろ?」

「あの時はそうだっただけだよ〜。あんな普通な人間と同じじゃないよ〜」


 所々口悪いな。

 もしかしてこの空間に来たからステータスが変わってたりするのか? そんな馬鹿な話は流石に無いか。


「ねぇ、それでなんだけどさ。ダブル女神の力でその呪い解いてあげるから、頼まれごと受けてくれない?」

「内容によるな」

「慎重だねー。内容は簡単に言うと隠された六大迷宮を攻略して欲しいんだ」

「そりゃまた何で?」

「ちょっと難しい話なんだけど、闘神はあの世界のシステムを管理していたんだ。それで飽きたのか五百年位しっかりやっていたのに遊び始めたんだ。あいつは、加護という物をを作って地上にバラ撒いたんだよ。それくらいなら私達も許せた。でも、人を操作して遊び始めたんだ。それが、魂族の破滅に繋がった。だから私と女神は上の言う通りに二人で闘神を殺したんだ。だけど、あいつはまだ、遊ぼうとしていたんだ」

「武器化の魔物とかか?」

「そう、それですぐに設定を、変えようとしたら出来なくてさ! だから……君に強くなってもらって、ぶっ壊してもらおうと思って!」

「……」

「なんで無言!?」

「そりゃ無言になるだろ。設定やらなんやらよくわからないこと言ってたのに、最後の最後でぶっ壊してほしいとか……」

「だって、いっそ壊した方がいいでしょ? 世界をいじるなんて間違ってる」


 急に真面目な顔になり、こちらをまっすぐ見た。


「はぁ、分かったよ、とりあえず迷宮を攻略すればいいんだな?」

「そう! ありがと! 次会ったら結婚してもいいよ! 私好みの顔にしたし!」

「するかよ! 馬鹿神がっ! ってか何してくれてんだっ!」

「つまんないの〜、じゃあ、私の力も少しあげるねんっ」


 そう言ってキスしにかかってきた。


「ちょっ! 待て! 来んな!」

「あ、コラっ! 逃げるなっ! 『神速しんそく』!」


 そう言った瞬間、技神が目の前に現れた。

 そうして、ファーストキスが奪われた。あぁ汚れてしまったわ! もうお婿に行けないっ! と、最初は思っていたが、そんな事はどうでもいいと言うくらい力が開放されていく。……あ……いや、どうでもよくないんだけどね?

 おお、凄い。……漫画でよく力がみなぎると言うのがあるけど、こんな感じなんだな。

 

「はい、ごちそうさまでした。とても美味でした。やっぱ結婚しない?」

「黙れっ! しないわ!」

「そっか、まあ、赤くなってる可愛いダーリン見れたしいいや〜。じゃ頑張ってね〜。あっち行ったら六大迷宮の一つにいるみたいだから!」

「迷宮!? それに、ダーリンってな……」

「ファイトー!」

「だから人の話をきけぇぇぇぇぇ!」


 また話を聞かずに転移されてしまった……。今度あったら絶対に張っ倒してやる!



 静かな白い部屋に残った技神は一人呟いた。


「さぁ、闘神……勝負よ。貴方の企みは全て潰してあげる。あ、ダーリンに私の名前教え忘れたー! ま、多分もう少し待てばきっと会えるしいっかー!」


 そう独り言を言うと技神も消えていった。

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