第4話◆数日後の勇者達◇


 召喚され、俺が無能という事が分かってから一週間が経った。その間、武術系のスキルを持つ人は王国騎士団長と訓練をして、魔法系のスキルを持つ人は王宮魔法師と魔法についての勉強を王国魔法兵団長としていた。

 皆がそんな感じで訓練している中、俺は城内にある書物倉庫にこもったり、城を出てすぐにある城の倉庫に行ったりと黙々と勉強していた。そしていろいろ知ったことがある。

 まずは俺のステータスを調べる為にステータスを開いて色々とやった。

 どうやらこのステータスは触れるらしく、文字の欄を触ると説明が出てきた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


・全耐性Lv.MAX……状態異常に掛かる事や弱点魔法属性が無くなる。(状態異常は限りなく掛からないだけであって、掛かることもある)

・ステータス偽装Lv.-……ステータスを偽装出来る。

・鑑定Lv.3……人や物を鑑定できる。(レベルが上がるにつれて見れる情報が増える)

・絶対転移……自身の魔力を全て使い、魔法陣に触れている対象の物、生物全てを必ず転移させる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 『絶対転移』か……。中々癖が強い固有魔法だ。

 調べても前例がないようで、全く見つからなかった。ただ、魔力が尽きると気絶する。という事が分かり、「使いたくねぇ!」とつい叫んでしまった。

 仲間がいればまだ使えるかもしれないが、一人だと気絶したままだ。

 例えば森で使った場合。気絶したままで、魔物の餌食になるのだ。餌になんてなりたくない。

 次は、魔法の欄にあった光属性、闇属性、虚無属性だが、どうやら古代の属性らしい。古代属性は、闇、光、虚無、時空の四つ。

 光は、一部の聖職者しか持てない。これは一応勇者見習いと言うことで持っているんだな。

 虚無と時空はとても確率は低いが産まれつきでしか持つことが出来ないようだ。

 恐らく、俺達を呼び出した第二王女は時空魔法の使い手だろう。時空魔法は時間を操ったり、転移させるのが得意で、中々厄介なようだ。もちろん転移の性能は固有魔法よりは劣るが、使えるだけで戦闘では有利なのは確かだな。

 最後に、闇なのだが約三百年前に魂族こんぞくと言う種族がいた。魂族は物理攻撃が効かずに闇魔法が使えたことにより、かなり強かった様だ。だが、魂族以外の種族全てにより、全て殺されてしまって絶滅したようだ。俺の他にも闇魔法は持ってる人間が居る事も調べるうちに分かった。

 魔族は必ず闇を持っているようで、そのせいか人族にとっては闇属性は魔の象徴であり、いい扱いはされていなかった。あの王が裏切らないことを願うしかないな……。

 次に調べたのは、この世界の地図や魔法の種類だ。

 この世界は龍人が住んでいる『ドラゴ島』

 その下に獣人が住む『獣大陸』

 その右にあるのが、人や亜人、魔族などいろんな種族が住んでいる『人大陸じんたいりく』俺がいるのもここだ。

 その右にあるのが主に魔族が住んでいる『魔大陸』

 その下にあるのがハーム島だ。魂族はここにいたらしい。他にも小さい島とかあるが、きっと行かないだろう。行く前に帰りたいしな。

 さて、魔法だ。この世界は主に火、水、土、風の四種類の魔法で戦う。これらの魔法を極めると、火は獄炎、水は氷、土は岩石、風は雷、といった具合に上位魔法に手を出せる。そこまで行くのはほとんどいない。

二属性以上の適正を持っている人は、魔法を混ぜる使い方をしているのが多かった。『混合魔法』と言う様だ。

 そう言えば、王様と初めて会った時に《蒼の賢者》だとか言っていたが、四大賢者の一人らしい。……あのおっさん実は凄い人だったんだな。


 あおの賢者マーリン。みどりの賢者ソルフ。

 あかの賢者スフィリア。黄の賢者ノフ。


 この四人は、それぞれ国をやっていたり学校で魔法を教えてたりする。

 因みに学校をしているのは紅の賢者だ。

 そこまで調べた所で、この書物庫に兵士が入って来た。何の用だろうか?


「カマエ様ですね? 勇者様方全員が集まりますので、一緒に来てくださいますか?」

「分かりました」


 どうやら全員に集合がかかった様だ。練習の関係もあって皆に会うのは、一週間ぶりだ。皆はしっかりと強くなっているだろうか?

 だが、ナツとは夜に少しの時間だが毎日会っている。と言うか会いに来るのだ。会う度に青葉が突っかかってきたのは、本当に面倒くさかったな。

そんな、ほのぼのしたことを考えながら兵士について行った。



 前に来た食事をする所に入るともう既に、全員揃っていた。遅れてない……よな?

 そう思いながらも足早に座る。

 ……舌打ちが聞こえたような気がしたが無視しておこう。


「揃ったか……では、これからの事を少し話したいと思う。いいかね?」

『はい!』

「うむ、お主らには明日。この国の近くにある迷宮に入ってもらおうと思う」

「迷宮ですか?」

「あぁそうだ。あまり知らないと思うが、そんなに心配せんでもいいぞ? 何せこの辺りで一番簡単な迷宮だからな」

「あら、あなた? 簡単でも危険は危険なのよ?」


 そう言って王妃様が睨んでた。あ、王様何か興奮してるし。この一週間でこの王についてわかった事は超ドMだってことだ。賢者なのにイメージ崩すなよ……。


「す、すまぬ……。そう思って護衛に兵士を数人と騎士団長を付けようと思っておるわ」

「そう? なら良いのですけど」


 そう言うと王妃は何処か行ってしまった。

賢者。残念そうにするな。顔に出てるぞ?

 

「今聞いた通りだ。なにか質問はあるか?」

「あの〜いいですか?」

「ん? 何だ? サクライ殿」

「十五人という事は、うーちゃ……カマエ君も行くんですか?」


 あ、そっか。俺も入ってるのか。でも何でだ? 戦えないぞ?

 普通の人間。迷宮の事を調べて話すか、荷物持ちしかやることないぞ?

 身体強化も使えないで荷物持ちとか苦行だろ。


「そうだ、カマエ殿も連れていくぞ?」

「どうしてですかっ! 戦えないんですよ!?」


 よし、ナツよく言った! メリットがよく分からないことなど出来ればしたくない俺にとっては、迷宮には行きたくない。

 それにしても珍しいな。ナツは基本ほんわかしていて怒鳴ることは中々ないからレアだ。


「カマエ殿に呪いがあるのは知っておるな?」

「だから反対してるんです」

「まあ、心配するなという方が無理かと思うが、呪いもレベルが上がる事によって克服する事がある」

「そ、そうなんですか?」


 マジか。そんな事は何処にも書いていなかったけど、何か研究でもしているのか? それなら行く価値もあるな。荷物持ちだけはやめてくれよ?


「勿論、本人が行きたくないと言えば無理強いすることも無い。他の皆もそうだ。カマエ殿よ、どうする?」

「少しでも治る可能性があるのなら、行きます」

「そっか、うーちゃんが決めるなら私はいいけど……。無理しないでね?」

「そうだな、情けないけど逃げることを頑張るよ」

「では決定だな。明日の昼前から迷宮に出発だ。今日はゆっくり休むように!」


 まぁ、当たり前だけど俺は休まない。調べる事しか役に立てないからな。

 会議が終わった後、いつもの四人で、ご飯を食べて練習で何をしたとか、翔海は盾役の脳筋タンクになったとか、涼叶は可憐かれんな魔法剣士だとかを話した。

 可憐じゃないだろ。と思ったのは秘密だ。

 その後は、一人で黙々と迷宮について調べた。

 途中でまた兵士が来た。今度は何だろうか?


「王様からの伝言です。「先程の会議で伝え忘れたが、迷宮攻略が終わった後、私の知り合いの紅の賢者のやっている学校に行く事となった。そこで、色々学んで来なさい」との事です。何か質問はありますか?」

「そうですね……。いえ、今は特にないですね。ありがとうございました」

「それでは、失礼します!」


 風の噂で聞いたが、あの賢者。……いやおっさんでいいや。おっさんは王妃さんにお仕置きをされたらしい……。何か喜びそうだな。

 明日は迷宮か。何も無いように願っていよう。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 僕はあいつの事が嫌いだ。

 何故か? それは、努力もしないで普通に生きているだけの凡人だからだ。なのにあの人はあいつと幼馴染みで仲もいいらしい、何故だ? 幼馴染みと言うだけだろう? 僕の方が頑張っているし、自分で言うのも何だが顔もそれなりに良い。それなのに、いつもあいつの周りにいる。違うはずだ。君の居場所はそこじゃない僕の所だ。

 会議の後。そんな事ばかり考えてしまう。

 憎い。とにかく、鎌江という男が憎い。

 その時、全く知らない声が聞こえた。


「ククク……。良いですね……」

「だ、誰だッ!?」


 僕は、王様から貰った聖剣を抜いて戦闘姿勢になった。そうだ、今の僕にはこの力もある。あいつは何も無いらしい。きっと元の世界で、頑張らなかったからだ。きっとそうだ。おっと……今は目の前の黒フードの奴に集中しなくては!


「おー怖い怖い、そんなにピリピリしないでくださいよ〜。ククク……」


 気づかないうちに側に来て、剣の柄を押さえられている。

 何なんだこいつは……。


「明らかにおかしいだろ! 何故ここにいる!」

「あなたを探してたんですよ〜?」

「僕を……? どういう事だ」

「ククク……あなたは想い人が自分元にこないのでしょう? アイツのせいで」


 不気味なやつだ。でもコイツは僕の話をわかってくれるかも知れない。


「あ、あぁそうだ。あいつさえいなければ彼女は僕の物なんだ!」

「ククク……素直ですねぇ~じゃあ、彼を消してはどうです?」

「無理だ。殺人になってしまうだろう」

「此処はあなたがいた世界と一緒じゃないんですよ??なんの枷があると言うのですか」

「だ、だが……」

「ふむ……では、良いものをあげましょう」


 そう言うとそいつはローブの中から何かを出し俺に渡した。

 受け取ってみると、小さな指輪だった。


「それは召喚の指輪、魔物を呼び出せるんですよ〜。ククク……いいでしょう?」

「これを、どうするんだ……?」

「その指輪の中には、貴方が今ギリギリ勝てる位の魔物が入ってるんですよ〜。それに彼を殺させるんですよぉ〜。……ククク」

「だけど確かアイツには転移魔法があったぞ……?」

「なら、彼もその魔法陣に触れさせればいいんですよ〜。魔力切れの所に魔法を少し弱めに出して当てるんですよ。……そうすれば……クククッ」

「な、なるほどこれなら僕は……悪くないんだ……」


 僕は悪くない悪くない悪くない……。


「ククク……そうですよ〜? 全て彼が悪いんです。あなたは悪くない」

「そうだな、ハハッ……やってやるアイツを絶対に」


 悪いのは僕じゃなくて……あいつだ。もっと差をつけたい……鍛錬しに行くか。

 迷宮が待ち遠しいな。


「おい、僕はもう行くからな」

「あ、もう少し話を……。行ってしまいましたか~。もう少し闇の魔素を吸わせれば完成なのですが、まぁいいでしょう。掻き乱すくらいはしてくださいねぇ? ククク。楽しみですねぇ。あなた達はあの方の糧となってもらいますよ」


 そう言いながらその黒フードはその場から消えていった。


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