第138話 第3シード

無制限デュエル大会の本選は、予選と違いネタ装備や、おしゃれ装備の人間が淘汰される。

それ故に、観客の質も違ってくる。

が、今回は、観客たちの話題をさらったのは、カラットでも、マルスでも無かった。


「薙刀ってあったのか?」


「初めて見た。」


「俺は、陰鬱な森で見たぞ。」


「それ本人だろ・・・。」


「何処まで勝つんだ・・・。」


グランマは、あっさりと2勝し、ベスト8へと駒を進めた。

次の相手は、第3シード、つまり前回大会のベスト4の人間だ。


「相手がどんな武器でも苦にしてないわね。」


パルコが観客席で、言った。


「おばあ様が、やってるのは、スポーツじゃあない薙刀なんで。」


スポーツがルールに則り、同じ土俵で戦うものであるなら、武術は、何でもありの戦いだった。


「グランマさん、生き生きしてるね・・・。」


タイマーがボソッと言った。


「自分だけ、物凄く楽しんでます。」


クレインが、ズルいと言わんばかりに答えた。


「本当の戦いは、次からでしょうね。ここ最近の無制限は、ベスト4がずっと入れ替わってないし。」


ローラが言った通り、無制限のベスト4メンバーは、ここ最近ずっと同じだった。


「俺はこんな所で負ける事は許されない。」


第3シードの男は、ダークホース的存在のグランマを睨み呟いた。

しかし、名前も出ず、何の武器かすら説明がない時点で、ご察し下さい。


為す術がない。


戦術において、機先を制する事は、よくあることだが。

これまでの戦いでは、グランマはずっと後手に回っていた。

相手の攻撃を裁いて、反撃やカウンターを繰り出すのがパターンだった。

第3シードも、今までのグランマの戦いは、チェックしており、自分が、先手を打つ戦術を組み立てていた。


が、開始と同時にグランマが攻撃をしかけた。

慌てた相手は、何もする事が出来ずに、あっさりと撃沈した。


「弱いですね・・・第3シード・・・。」


クレインがポツリと呟いた。


「いきなりの波状攻撃で、為す術もなかったみたいね。」


パルコが言った。


「ついにカンピオーネ陥落かしら?」


ローラが言った。


「面白い戦いにはなりそうだが、あいつが負ける事は無いな。」


ゲンが自信たっぷりに言った。

他の面々も、どうにもカラットが負けるイメージは思い浮かばなかった。

言った本人のローラですらも。


「その前に準決勝で、グランマさんは、マルスと当たるわね。」


パルコがトーナメント表を確認しながら言った。


「強いんですか?」


クレインが聞いた。


「強いってイメージより、上手いってイメージね。」


「試合巧者って事ですか?」


「うん。メーカーの人間だからゲームも知り尽くしてるしね。」


VFGXをβ時代からやってる人間は、マルスがメーカーの人間であることは、皆知っていた。

β時代ゲームマスターの一人として参加していながら、カラットに負けた為、同じ名前でずっと参加していれば、誰でもわかってしまうのは、しょうがない。

だから、多くの人間は、メーカーの人間=ゲームを知り尽くしてると思っている。

パルコもその一人だ。

しかし、マルスは、第3事業部の人間で、VFGXは、第2事業部管轄である。

タウントカンパニーは、医療機器メーカーであり、その中にあって第2事業部だけは、異質なものだった。

つまり、マルスはゲームの内容は一切知らない。

一般ユーザーと、何の変りもなかった。

元々のゲーム好きで、ゲームマスターを社内公募してたので、それで選ばれただけだった。


「カンピオーネと、どっちが強いですか?」


「マルスは、一度もカラット君に勝ってないから、無冠の帝王って呼ばれてるわ。」


パルコの答えにクレインは安心した。


「じゃあ、問題ありません。おばあ様が勝ちます。」


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