第127話 斬新、残心

「ねえ、クレイン。どうしてもゲームでも強くなりたいの?」


「はい。」


クレインの揺るぎない決意にグランマは折れた。


「まったく、あなたは、昔から頑固なんだから、誰に似たのかしら。」


「頑固は、おばあ様譲りかと。」


「・・・。お、お爺さんね、きっと。あの人、頑固だったもの。」


「お父さんが、私の頑固は間違いなく、おばあ様譲りと言ってました。」


「・・・。こ、こほん。まあそれは置いといて、あなたに技を一つ授けようと思います。」


「えっ、おばあ様が私に技を?」


「ええ、但し一つ約束をしてもらいますが。」


「約束ですか?」


「簡単な事よ。禁止技をゲーム内で使わない事。」


「・・・。」


クレインは、剣道の試合で禁止されてる技をゲーム内では多用していた。

といっても、全て突き関係だが。

リアルでは、突きを使わないので、影響はまったくない。

その為、突きに限り禁止技である肩突きや胸突きを多く使用していた。


「さすがに足元への攻撃はしてないようだけど。禁止技は、よくありません。」


「しかし、おばあ様、剣道の技だけでは、対戦では勝てません。」


「誰に?武術をやってる者ならともかく、普通にゲームをやってる人なら、剣道の技で十分勝てるでしょ?」


「それは、そうですが・・・。」


「あなたが約束できないと言うなら、技の話は無かった事にするわ。」


「うっ・・・。それを覚えれば強くなるんですか?」


「格段にね。剣道では、繋ぎ技になってしまうけど、それでも十分強くなるでしょうね。」


「ゲーム内では、格段に強くなるんですか?」


「ええ。」


悩むクレイン。

正直、胸突きや、肩突きなしでは、グランマやカラットに勝てる気がしなかった。

しかし、よくよく考えたら、現状でも勝てていない。

渋々、クレインは答えた。


「や、約束します。今後、禁じ手を使わない事を。」


「いいでしょう。では、薙刀で説明しますね。」


技自体は、いたってシンプルな技だった。

言うなれば、予備動作なしで、すっと落とす小手と言ったところだ。

もちろん、剣道では、小手ありを取って貰えることはない。

グランマが言った通り、剣道では繋ぎ技にしかならない。


剣道には、小手面という技がある。

練習でよく使う二段技なのだが、試合だと、最初の小手は、完全に入っても小手自体に一本が認めらる事は無い。

小手に残心がないとして、認められないのだ。

ようするに単なる繋ぎ技となっている。


「これは、剣術の技ですか?」


「ええ、剣術と薙刀の両方の技よ。その名を小手落とし。力が入ったものじゃあないけど、真剣なら小手を落とす効果は十分あるわ。」


「剣道なら繋ぎ技というのが、よくわかりました。でも・・・。」


剣道でこの技の生きる道は、突きと見せかけて、小手落としで惑わせ、そこから再度、小手or突きor面の三択に派生させるのが、一番効果的とクレインにもすぐに分かった。

グランマが突きで行ってる禁じ手をゲーム内でも禁止する理由を合わせれば、リアルで突きを使いなさいという言葉が浮き上がってくる。

グランマにしろ、ポリースにしろ、突きが使えないのは、精神的なものというのは、判ってる。

だから誰も、面と向かって突きを使えとは言えない。


「小手落としを、どう使うかは、あなた次第よ。」


グランマは、そう言った。


「はい。」


「あとクレイン、ゲームの事で聞きたいことがあるんだけど、時間はまだ大丈夫かしら?」


「はい、大丈夫です。」


「どうもレベル上げというものを一人で黙々とやるのが辛くて・・・。何かいい敵は居ないかしら?」


「経験値が多い敵ですか?」


「そういったものは気にしないから、早くて強い敵。ああ、もちろん1人で倒せる程度の敵だけどね。」


「それなら、いい敵が居ますよ。」


グランマは、一番聞いてはいけない人間に聞いてしまった。

かつて、敵の速さに魅了され、陰鬱な森の心中カップルとまで言われたクレイン。

そんなクレインに聞いたら、答えは一つしかなかった。


「陰鬱な森という所に、蜂系のモンスターが出るんですが、物凄く速いです。」


「一人で倒せる敵なの?」


「昔は、よく死にました。回復薬(役?)にビショップさんについて来て貰ってましたが、今は一人でも大丈夫です。」


「そう、今のクレインで大丈夫なら、私も大丈夫かしら?」


「ええ、問題ないと思います。もし不安でしたら、聖騎士団の誰かに相談されたらどうでしょう?」


「そうね。今晩でも相談してみるわ。」


こうしてまた、あの陰鬱な森の犠牲者が出るのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る