第118話 なんてったってアイドル

ウルトラ姉妹は、今、売れてるアイドルグループの一つ。

今年のミスK大最有力候補の風祭敦子が所属しているグループでもある。


「敦子、あんまり根を詰め過ぎると、体壊すよ?」


ウルトラ姉妹の絶対的リーダー東条優子が話しかけた。

歌番組の収録が終わり、風祭敦子は、大学の課題を控室でやっていた。

一般入試で、K大の政経に入った敦子は、一芸入試で入った者たちとは、違い本来なら講義を休むことが出来ない。

教授たちの中にも、わざわざ政経に入学した敦子を快く思ってない人も少なくない。

しかし、大学側としては、敦子のネームバリューは絶大であり、何とかならないかと苦肉の策が課題提出だった。

根っからの頑張り屋で、ウルトラ姉妹の絶対的センターの敦子は、真剣に課題に取り組んでいた。


「私と一緒にA大にしとけば、苦労せずにすんだのに。」


「いやよ。ただでさえ総選挙で、争ってるのよ?大学のミスコンでも争う訳?」


「楽しそうじゃない?」


「優子と争うのは、仕事だけで勘弁してほしいわ。」


「で、敦子は、ミスK大取れそうなの?」


「今の所はね。そっちは?」


「ほぼ当確って感じかな。」


「あれ?ミスA大って今は、女王様とか呼ばれてる人じゃあ?」


「評判がよくないから、相手じゃないわ。」


「そうなんだ。」


「そっちは、百合姫だっけ?」


「らしいね。まだ会った事もないけど。」


「うちも、そっちも変な人多いね。」


「そうね。」


敦子は、課題を終わらして、カバンからボロボロになった台本を取り出した。


「あれ?まだドラマの出番終わってなかったの?」


「次で出番は、最後かな。」


「暫く、ドラマから離れたら?」


「それ、マネージャーにも言われた。」


彼女がドラマに出始めた頃、女子高生と初々しさもあって、出るドラマが、殆ど高視聴率と調子が良かった。

しかし、段々と初々しさも視聴者に飽きが来たのか、この所、出るドラマの調子がすこぶる悪い。

ドラマの視聴率は1人の力では、どうすることも出来ないのだが、マスコミは面白可笑しく、ターゲットを定め、煽る。まさに鬼畜の所業(来世は蟲になれ)。

こういった事で、マスコミにターゲットにされるのも有名税の一つと割り切ればいいのだが、彼女はまじめな為、責任を感じていた。


「なんなら、私が演技指導してあげようか?」


優子が言った。


「あんたも、女優業は散々じゃない。」


「・・・。」


東条優子も敦子と同じ状況だった。

なので、現在は女優業を控えていた。



翌日、風祭敦子は、一応の敵情視察として、刈茅未菜に挨拶をしに行った。

K大のミスコンは、他の大学と違い、ノーエントリー制。

K大の学生なら、誰にでも投票していいという方式だった。


「刈茅先輩ですか?初めまして風祭敦子と言います。」


敦子は、丁寧に挨拶した。


「あ、あっちゃんっ!か、可愛いっ!!」


未菜は、目がハートになった。

ちなみに、未菜はテレビを見ないので、アイドルの事は知らない。

ただ敦子の事は、オタクの尾崎にPADで見せて貰っていたので知っていた。


【所詮、ミスK大って言っても一般人と同じか・・・。】


わざわざ、挨拶にくるまでもなかったなと敦子は思った。


未菜は、調子に乗って、敦子との距離を近くに縮めた。

敦子は、ニッコリと微笑んだ。


更に調子にのって、目の前まで近づいた。

敦子は、ニッコリと微笑んだ。


有頂天になった未菜は、公衆の面前にも関わらず、敦子にキスをした。

敦子は、驚いた風もなく、平然とキスを受け入れた。

同性同士のキスは、ドラマで何度も経験してるし、酔うとキス魔になる女性芸能人は、死ぬほどいた。

そもそも、同じグループ内にも1名いる訳で・・・。


受け入れられたことに、更に更に更に調子に乗った未菜は、舌を入れた。

さすがに、ひいた敦子は、未菜を押しのけた。


【こいつ、本当にガチじゃねえかっ・・・。】


「酷いです。先輩いきなり。」


そうして、泣いたふりをする。


「あう・・・。ごめんなさい。」


さすがに女性を泣かしてしまい、慌てて謝る未菜。


【勝手に自滅したか。】


敦子は、そう思った。



大学内の公衆の面前でやらかした未菜の行動は、即、大学中に広まった。


「尾崎、不味い事になったんじゃないか?」


剣持が教室で尾崎に話しかけた。


「な、何が?」


「未菜のキス事件だよ。」


「べ、別に、た、大した問題じゃない。」


「大問題だろ?そこら中で噂になってるし。」


緑川優が言った。


「い、一年には、マ、マイナスイメージだけど。も、元から1年の票は、あ、あてにしてない。」


「他の学年は?」


「か、刈茅が百合姫なのは、み、皆、し、知ってる。」


「そういや、そうだな。」


緑川は納得した。


「しかし、あっちゃんファンの結束は固まるんじゃないのか?」


剣持が心配して聞いた。

大学内にもファンクラブ会員は多く、入ってないファンも大勢いる。


「あ、あっちの切り崩しは、も、もう終わってる。」


「用意周到だな。」


「ぬ、抜かりはない。そ、それよりも。ポ、ポスターに使う、宣材が無い。」


ミスコンはノーエントリー制だが、ポスターを作製し、掲示する事が出来る。

事前に学祭実行委員に申請すれば、1枚だけ掲示する事が許可される。

学祭の一週間前から何十枚ものポスターが並ぶわけだが、K大の名物の一つだった。

もちろん1人につき1枚だが、敦子のような人気者の場合は、何人もの申請者が出てくる。

基本、自分で自分のポスターを作る人は居ないわけで。

未菜の場合も、尾崎が勝手に作ってるだけだった。

特に重複する者が居ないので、問題も起きない。


「未菜の場合、写真撮らせてって言っても、撮らせてくれねえだろうな。」


緑川が言った。


「緑川が、言えば撮らせてくれるんじゃ?」


剣持が聞いた。


「何を要求されるかわかったもんじゃない。」


「そうか・・・。」


「い、井伊さんなら、も、持ってそう。」


「ああ、幼馴染だったね。そう言えば。」


「聞いてみればいいんじゃね?」


緑川が他人事のように言ったが、尾崎と剣持は、緑川を見た。


「え?私が?無理無理無理っ! 裏番でしょ?あの子。」


「俺も少し怖いかなあ。」


「お、俺は、ぜ、絶対無理・・・。」


振出しに戻る3人。


「何の悪巧み?あれ?未菜は?」


赤松明子が優の隣に座りながら聞いてきた。


「公休よ。公休。」


優が答えた。

公休とは、ミスK大の仕事の為に講義を休むという意味で、出席扱いになる。

未菜は、現在、週末に行われる商店街の祭りの為の打ち合わせに出席していた。


「なる。で、何の悪巧み?」


「井伊さんに未菜の写真を頼みたいんだけど、誰も話せる人が居なくてね。」


剣持が答えた。


「千鶴ちゃんに?私が聞いてあげようか?」


「明子、あんた裏番と知り合いなの?」


「うちのサークルは、剣道部の手伝いによく行くから。」


「お、お願いできるかな。」


尾崎が頼んだ。


「どんな写真がいいの?」


「い、意外性のあるのがいい。」


「わかった。聞いてみとくよ。」

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