第117話 謝罪

講義が終わり、千鶴は寝ていた(?)大和祐樹を叩き起こし、1年の女子の元へと強制連行した。

殆どが1年ばかりの教室だが、全員が全員を覚えてるわけでもなく2年生二人が入って来ても目立つことはないのだが。

中には単位を落としてる2年生や3年生も僅かばかり存在する。

それでも千鶴と大和は注目を浴びた。


【まあ、俺はエースだからな、仕方ない。】


口には出さないが、自身が注目されるのはいつもの事なので、しょうがないと思っていた。


「何あれ?小学生?」


「凄く可愛くない?」


「一緒に居る人はお兄さんかな?」


そんな声が聞こえてきて、大和はズルッとこけそうになった。

もちろん笑ったりはしない。

千鶴は、平常の表情をしていたが。


【これ、怒ってるな・・・。】


大和は、そう感じ取っていた。


「こんにちは。」


そんな中、千鶴は眼鏡の1年生の女子に話しかけた。

既にサークル連から、話は通してあり、相手も用件はわかっていた。

そして、彼女を見た大和は、押し倒したという意味をはっきりと理解した。


「先日は、失礼なことをしてしまい申し訳ない。わざわざ応援にきてくれていたのに。」


そう言って、腰が90度に曲がるほど頭を下げた。


「あれ?いつもの土下座じゃないんですか?」


【裏番は、1年が一杯いる、この中で土下座しろと申される・・・。】


「いえ、そんな。今ので十分ですんで。」


1年の眼鏡女子が恐縮して言った。


「そうですか?大和君なら、慣れっこなんで大丈夫ですよ。」


【俺のイメージが・・・。】


「本当に大丈夫です。私も怪我してませんし、大和先輩に直接謝って頂いたので、十分です。」


大和は、土下座をしなくてよくなった。


「どうしたの?何この子可愛い~。」


そう言って、他の1年の女子が千鶴の頭を撫で始めた。

この年になっても、祖母や父親、その他大勢から、頭を撫でられてるので、恥ずかしがることはないが。


「大和先輩の妹さんですか?」


大和の顔は真っ青になった。


「ち、ちがっ。俺の同級生だから。」


「えっ・・・。」


「す、すみません。友人が失礼なことを。」


1年の眼鏡女子が謝った。


「気にしてませんから、大丈夫です。それじゃあ大和君、私達は帰りましょうか。」


「は、はい。」


大和は千鶴の表情が怖くて顔を見る事が出来なかった。



2年生の二人が去った後、一人の女子が、頭を撫でた女子に忠告した。


「あんた、知らないの?さっきのがK大の裏番こと、井伊先輩よ。」


「えっ・・・鬼より怖いっていう?」


「次から気を付けた方がいいわよ・・・。」


「そ、そうする・・・。」



一年の教室を後にした千鶴は、帰りながら大和に話しかけた。


「何か、おかしなことでもありましたか?」


「ま、まあ1年も悪気があった訳じゃないし、井伊も気にするな。」


「何がですか?」


無かった事にしようとする千鶴。


「い、いえ、何もありませんでした。」


「ならいいですが。」


これ以上は、身の危険を感じたので、大和も無かった事にした。



次の講義の教室に戻った千鶴たちは、ミスコンについて話をした。


「刈茅さん、2連覇無理らしいね。」


香林が言った。


「もし、応援する特定の人居なかったら、未菜に投票お願いします。」


千鶴は、香林と柘植に頼んだ。


「俺は言われなくても、未菜に投票するけどな。」


「大和君には頼んでません。」


「・・・。」


「大和君と刈茅さんって幼馴染なんですよね?」


柘植が聞いた。


「ああ。小さい頃はパーティーなんかで、よく会ってたから。」


「ああ嫌だ。セレブ発言は・・・。そういや大和と千鶴は?」


「赤の他人です。」


「・・・。」


「刈茅さんと千鶴は幼馴染なのに?」


「私は、小中と未菜と一緒ですから。」


「なるほど。大和ってさ子供の時から刈茅さんの事が好きなの?」


「悪いか?」


「き、きもっ!」


「めぐみ、キモイは酷いと思うよ?せめて気持ち悪いって言おうよ?」


「ごめん、柘植・・・。一緒の意味だから・・・。」


ショックを受ける大和だった。


「でもさ、子供のころから百合姫なんて好きになるわけ?」


香林がズバッと聞いた。


「小さい頃から、百合姫だったわけじゃねえよ。」


「小学2年の担任の女性教師が初恋のはずですよ?」


「・・・。」


「ねえ、大和。あんた女見る目ないんじゃないの?」


「昔は、人見知りして、何も話せず、俺の後を付いてきてたんだよ。」


「誰が?」


「未菜が。」


「想像つかないんだけど・・・。」


「昔の未菜は、そうでしたよ?私にとっては妹みたいな存在です。今もですけど。」


誰も突っ込まなかった。

いや突っ込めなかった。

どうみても、今は、あんたの方が妹だよとは・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る