第115話 学祭実行委員

今から150年以上前までは、学祭実行委員と言えば、利権の宝庫だった。

学祭実行委員長ともなれば、一夜にして車が買えるほどの。

それが、今では、完全な名誉職。

本来は、それがあるべき姿ではあるが。

メリットと言えば、面接で学生時代は何をやってました?と聞かれた時くらいだろう。

つまり、好きじゃないとやってられない役職である。


「いいか、不正だけは絶対見逃すなよ。」


「「「はいっ!」」」


実行委員長の織田は、学祭を一か月前に控えた委員会で、全員に言った。


「我がK大のミスコンで、不正があったとなれば、委員会の名折れ。細かい動きも見逃すなっ!」


「「「はいっ!」」」


現在の大学は、全てIDカードと生体認証で管理されている。

たかが、ミスコンではあるが、投票にはIDカードと生体認証が必要になってくる。

その為、他人のカードを使っての投票は不可能になっている。

金銭の授受が発覚した場合は、即退学と重い処分が下される。

たかが、大学のミスコンで、誰も退学にはなりたくはない。


「但し、チーたんに関する不正は見逃して構わん!」


「「「・・・。」」」


全員が、呆れて無視した。


「今年こそ、ミスK大は、チーたんが相応しい。そう思わないか諸君!」


「委員長、不正を見逃したら、即、監督教授に言いますからね。」


他の委員が、委員長に注意した。


「ふっ、今年の学祭の監督教授は、福山准教授にお願いしている。」


「なっ。」


「あのロリコンに?」


「委員長と監督教授がロりって、問題にならないか?」


「最悪だな、今年の学祭は。」


ヒソヒソ話を始める委員たち。


「静まりたまえっ!」


委員長が一括する。


「何がロりだっ!ふざけた事を言うんじゃないっ!チーたんは、二十歳になったんだぞ。二十歳の女性にロリとか言うのは、失礼だろっ!」


「あれですよね?合法ロリってやつですか?」


「うむ。い、いや、ち、ちがっ。」


動揺する委員長。


「まあ、どうでもいいですが。いい皆、不正がなく楽しい学祭にする為に私達が頑張りましょうっ!」


「「「はいっ。」」」


副委員長の締めの言葉で、委員会は綺麗に終了した。



委員会後、織田は一人、担当教授へ報告に向かった。


「学祭実行委員長、織田、入ります。」


そう言って、薄暗い物理の研究室に足を踏み入れた。


「織田か、例の件はどうなった?」


「申し訳ありません。潰されました。」


「な、なんだとっ!!」


「他の賛同者が一人も居ませんでした。」


「くっ、どいつも、こいつも。」


福山は、織田に大学で働く職員にも投票権を持たせるよう働きかけていた。


「ミスコンは、今まで通り生徒だけで楽しむのがいいと殆どというか、聞いた職員全員が・・・。」


「戦況はどうなってる?我らが、チーたんは?」


「圏外です。」


「な、なんだと・・・。二十歳にして、あのスタイル、まさに神が作りたもうた奇跡と言えるのに・・・。」


「殆どの生徒は、チーたんに怯えてます。」


「むー、強すぎるのは罪という事か・・・。で、本命は?」


「一年の風祭敦子です。」


「あっちゃんかあ。アリだな。」


「なっ!! あっちゃんはDカップですよ?先生っ!」


「甘い、甘すぎるよ。織田君。あんなプロフィール嘘に決まってるだろう。どうみてもBだな。アレは。」


「水着写真を見たことがあります。とてもBでは無かったですよ?」


「盛ってるに決まってるだろ。」


「に、偽物だと?」


「昔は、ブラに細工なんてしてたようだがな。そんな事せずとも簡単に盛れる時代だからな。」


「継ぎ目のような物は、見えませんでしたが?」


「そんなもの加工してあるに決まってるだろ。知らなかったのか?シミやホクロなんてのも消してるんだぞ?100年以上も前からだが。」


「だ、騙されてたのか・・・。」


「まあ、しかし、私はBは範囲内だが、お前はAまでだろ?」


「その通りです!」


自信をもって答える織田。そのあまりにも愚直な姿に、福山准教授は、少し不安を覚えた。


「お、織田よ。捕まるなよ?」


「先生、私は、ロリじゃあないですよ?」


「そ、それならいいが・・・。」


「先生こそ、捕まらないでくださいね。」


福山は40前にして独身だった。


「お、俺のは、お前のとは違うっ!」


「そうなんですか?」


「俺のは、アレだ。娘を思うような気持ちで。」


「へー。」


白々しい目で見つめる織田。


「ほ、ほんとだぞっ!」


「娘を思う気持ちなら、胸の大きさなんて関係ないんじゃ?」


「ぐっ・・・。」


「いずれにしても、我らがチーたんは圏外ですし、大本命があっちゃんですから、不正もないと思われます。」


「そ、そうか。担当教授なんて貧乏くじを引かされたが、何もないのが一番だな。そういや現ミスは、どうなんだ?百合姫だっけ?」


「あれは、ノリで選ばれただけですよ。今年は圏外でしょう。」


「そうなのか。教授連中には評判いいんだがな。」


「外面がいいだけのど変態ですよ?大学の恥です。」


「随分と嫌ってるんだな?」


「当たり前でしょ?あいつはチーたんに纏わりついてる害虫ですよ?」


「酷い言われようだな。織田は去年も実行委員に居たんだし、一緒に仕事してるだろう?」


1年間のミスK大の様々な行事には実行員や、サークルから手伝いが行く事になっている。

織田も学祭実行委員として、何度か手伝っていた。


「してますが?」


「最悪だったのか?」


「見てて気持ち悪いですね。あの完璧な対応は・・・。」


「悪い奴じゃあないと思うんだがな。」


「何言ってるんですか先生、あいつはDでしょ?」


「まあ、そのくらいはあるだろうな。」


「先生も範囲外じゃないですか。」


「まあ、そういう意味で言えばそうだがな。」


「しかも、チーたんを虎視眈々と狙ってますよ?」


「そ、そうか?いつもアイアンクローされてるのを目にするんだが・・・。」


「うら・・・。いや、憎らしい。」


「お、織田、お前、今?」


「気にしないでください。」


【ロリの上に、Mっ気まで・・・。】


自分の事は棚に上げて、救いようないなと言う風な目で見る福山准教授だった。

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