第111話 ダンスダンスざんす

未菜は以前の約束通りに、千勢の道場へと足を踏み入れた。

入口で、千勢は出迎えてくれ、久々の再会に喜んだ。


「未菜ちゃんたら、こんなに綺麗になって。」


そういって、頭を撫で撫でする千勢。

最後に会ったのは、中学の時だった。


「あ、あの、先生、私もう二十歳なんですけど。」


未菜にしては珍しく、顔を赤らめ、照れていた。


「私にとっては、いつまでたっても孫みたいなものよ。」


そう言って、撫で撫でしながら千勢は笑った。


【これは、本当に恥ずかしい・・・。今ならベル様の気持ちが・・・。】


未菜がそう思った時。


チロリ~ン♪


写メを撮った音がした。


「ちょ、ちょ・・・、何してるんですかっ!」


写メを撮った人間の方を睨む未菜。


「いやあ、未菜ちゃんの意外な一面が見れて、俺は嬉しいよ。」


「というか、何でここにいるんですかっ!」


「どうも、特別講師の時野です。」


そう言って、片膝を折り、未菜の手を取る時野。


「せ、先生、時野さんが講師なんですか?」


「ピッタリな講師でしょ?幸い時野さんには無限の時間があるらしいから。」


「先生、こいつは、単なる無職ですっ!」


「酷いなあ未菜ちゃん・・・。」


「時野さん、今撮った写メ見せて頂ける?」


千勢に言われ、写メを見せた。


「本当、未菜ちゃん、可愛いわ。後で私にメールくださいね。」


「わかりました。」


「ちょっ、無断で撮った写メを勝手に送らないでください。」


人の事を言えた義理ではないが・・・。


「まあまあ、可愛いから、いいじゃない。」


「あのねえ・・・。」


「さあ、そんな事より、中へ入ってダンスの練習をしましょう。」


千勢に言われ、うやむやになった。


台本の最後のシーンを千勢と時野は、さらっと読んだ。


「面白そうだね。是非、見に行くよ。」


「来なくていいです。」


「私は、なぎなた部の子たちに誘われてるから、見に行くから安心してね。」


「・・・。」


何を安心するんだろうと思う未菜。


「私がお姫様をやりますんで、時野さん王子役をお願いね。」


何故かノリノリな千勢。


「わかりました。千勢さんは、人形のように座ってください。後は俺が、リードしますんで。」


「宜しくね。ダンスなんて何年ぶりかしら。」


凄く嬉しそうだ。


人形のように座る千勢。

そして時野の伝家の宝刀、片膝付きの甲にキス。

普段からやりなれてる為、まったくの違和感がない。

普通、日本人がやれば、違和感ありありで、見てる方もむずがゆくなるものだが、時野には、それがまったくない。

完全なナチュラル。


そして、ゆっくり、ゆっくりと千勢をリードし、ダンスを始める。

スロー、スロー、スロー。

徐々に徐々に、テンポを速めていき、完全に表情を取り戻した千勢とダンスを踊りきった。

音楽もないのに。

見ていた未菜の耳には音楽が鳴っていたように感じた。


「どう?未菜ちゃん。」


時野が聞いた。


「す、素晴らしかったです。」


「よし、今度は未菜ちゃんがやってみようか。」


「できるかーーーーっ!」


思いっきり突っ込む未菜。


「未菜ちゃんなら、出来るよ。」


「何の根拠が・・・。」


「ほら、よく俺の娘みたいって言われるじゃん?」


一部常連客から言われてるが、それは女ったらし同士という意味合いで。


「それとこれとは違うと思いますが・・・。」


「あら、未菜ちゃんは時野さんの娘さんだったの?」


「全然違いますっ!てか先生は、うちの両親知ってるでしょ。」


「そうでしたね。」


ふふふと笑う千勢。


「まあ、何事も練習だよ。」


そうして、時野による、エスコート講座が始まった。

やはり、長年積み重ねてきた、片膝づきは、直ぐに身につくものではなく。

簡単にはいかなかった。

ダンスの方は、元より女性側が踊れるために、そんなに苦にすることは、無かった。


「よし、今日だけじゃあ無理なんで、時間がある時に練習だね。」


「えーーーっ。」


「未菜ちゃんが、また来てくれると思うと、私も嬉しいわ。」


とても、断れそうにない雰囲気の為、定期的に時野のエスコート講座が続くことになってしまった。

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