第110話 蜂蜜入れすぎカフェオーレ

自分のギルドルームに戻ったベルラインは、カルディナを見つけると直ぐに声を掛けた。


「少し話がある。」


いつもと違う雰囲気のベルラインに、怖さを感じるカルディナ。


「これは、貴様が撮影したSSだな?」


そう言って、ベルラインは、カルディナ至高の作を表示させた。


「あっ・・・。」


「あの場面で撮影できるのは、貴様とミルミルだけだからな。ミルミルは、無断でSSを撮影する人間ではないし、後は貴様しか考えられない。」


怒ってるわけではなく、冷静に淡々としゃべるベルライン。


「は、はい。私が撮りました。」


「そうか。」


ベルラインは信頼していたものに裏切られたような溜息をついた。


「SSを撮るなとは、言わない。しかし、同じギルメンであれば、一言あっていいのではないか?聖騎士団の女性団員では、貴様が一番付き合いが長い。それなりに信用していたんだがな。どうやら、私の勝手な思い込みだったようだ。」


完全に諦めた、そんな表情でベルラインは言った。


「あ、あの・・・。」


何を言っても、無駄、そんな空気が二人の間に流れた。


「貴様には心底あきれた。悪いが、私との冒険についてだが・・・。」


「すみません。すみません。それだけは許してください。」


何度も謝るカルディナ。

しかし、ベルラインに許す気は無かった。


「いいか、カルディナ。現在の2周に一回の貴様の参加だが、今後は3周に一回にする。これは決定事項だっ!」


強い言葉で、断言したベルライン。

超甘くね?


「そ、そんなあ・・・。」


この世の終わりのような顔をするカルディナ。

そんなサイクルになってしまったら、ベルニウムが完全に枯渇してしまう。

カルディナにとっては、死活問題だった。

ガクっと、うなだれるカルディナ。

いつもであれば、ベルラインは、反省してるならと甘々な態度をとるのだが、今回は違った。

うなだれたカルディナを無視して、その場を離れていった。


【本気で、ベル様を怒らせてしまった・・・。】


心底後悔するカルディナ。

うなだれ、真っ白な灰のようになっているカルディナに話しかけるものは、居なかった。

頼みの綱のグランマも、この日はONしていなかった。


が、そんな灰と化したカルディナに声を掛ける甘々な奴が存在した。


「どうしたカルディナ、何があった?」


聖騎士団、甘々NO1のギルバルトが声を掛けた。


「だ、団長・・・。私、ベル様を怒らせてしまって・・・。」


カルディナは、一連の出来事をギルバルトに説明し、問題となったSSを見せた。


「しかし、カルディナ、お前いつからSSなんて撮りだしたんだ?SSなんて興味なかったはずじゃあ?」


「わ、わりと最近に・・・。」


「ベルがSSを無断で撮られるのを好きじゃないのは知っていたろ?」


コクリと頷くカルディナ。


「怒ったり、笑ったりするのだって、団員や親しい者の前だけだ。それも知ってるだろ?」


コクリと頷くカルディナ。


「まあ、リストから外されないだけマシと諦めるんだな。」


「そ、そんなあ。」


「それか、今後、無断でSSを撮らないというなら、何とかしてやってもいいが?」


さすが、ギルド1甘々なギルバルト。


「ほ、本当ですか?それなら私、今後SSなんて撮りません。」


「本当だな。次、こんな事になったら、本当にリストから外されるぞ?」


「はい、骨身にしみました。」


「わかった。」


ギルバルトは、後ろにカルディナを従えてベルラインに話しかけた。


「ベル、ちょっといいか?」


ベルラインは、後ろのカルディナの方を見た。

ギルバルトの背中に隠れるカルディナ。


「貴様の一番の欠点は、その甘ちゃんの所だ。ギルバルト。」


「まあ、そういうな。カルディナも反省しているし。」


「馬鹿か貴様は。」


心底、甘々な団長に呆れるベルライン。


「今後、SSは撮らないそうだ。」


「SSを撮らないのか?カルディナ、その覚悟があるのか?」


ベルラインは、ギルバルトの後ろに隠れているカルディナに聞いた。


「は、はい。二度とSSは撮りません。」


「その言葉、しかと聞いたぞ。約束を違えた時はわかっているな。」


「はい。」


カルディナは、ベルニウム補給し隊のリストから外れる事を覚悟した。


「わかった。その覚悟があるなら、今回は、ギルバルトの顔に免じて元に戻してやろう。」


「ほ、本当ですかっ。ありがとうございます。」


心底喜ぶカルディナ。


「だが、覚悟しておけよ。次はないからな。」


「はい。」


「約束を違えた時は、4周に一回だからな。しかと覚えておけっ!」


ベルラインも十二分に甘々だった。


【俺が蜂蜜なら、お前は砂糖だぞっ・・・。】


心の中で突っ込むギルバルト。

もちろん、決して口に出すことはない。


落ち込んでいたカルディナは、元気を取り戻し、颯爽とヨルムンガンドへと向かっていった。


「こんばんわ。」


挨拶をして、ヨルムンガンドのギルドルームに入ると、ミズガルドとターヤが居た。


「ミズたん、私、引退するわ・・・。」


「ちょっ、あんた何言ってんのよ?」


「何があったんですか?」


ターヤも心配になって聞いた。


「実は・・・。」


カルディナは、一連の騒動を説明した。


「ごめん、ターヤ、私、胸やけがしてきた・・・。」


「ギルバルトさんは、そんな感じと思ってましたが、ベルさんも甘々だったんですね・・・。」


「そりゃあ、今までカルディナを隠してたくらいだし。」


「そうですね。いうなれば、カフェオレに蜂蜜と砂糖を大量にぶち込んだようなギルドですね。」


「・・・。」


自分では、厳しいとは思わないが、甘いとも思ってないカルディナは、返す言葉が見つからなかった。


「まあいいわ。SSを引退するって事ね。」


「そうよ。」


「最初に煽ったのは私だし、何か責任取らされるなら私から助言してもよかったんだけどね。」


「えっ!じゃ、じゃあ私の2周に1回を何とか皆と同じように・・・。」


「それってSSが関係あるの?」


「いや・・・ないけど・・・。」


「じゃあ私の出る幕じゃないでしょ?そんな事言う位なら、私も補給し隊に入れて欲しい位だわ。」


「・・・。」


「何事もなくてよかったですね。カルディナさん。」


ターヤが言った。


「は、はい。」


こうしてカルディナの短いSS人生は、幕を閉じたのだった。

めでたし、めでたし?

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