第109話 この手誰の手、気になる、気になる

クレインは鋼の翼のギルドルームで唸っていた。

パルコのR6の武器を手に取りながら。

欲しい、でもカンピオーネの手が掛かったものは嫌。

そう何度も何度も葛藤していた。

両サイドには、パルコとミラが挟むように座り、二人で、クレインの頭を撫で撫でしていた。

頭の装備は、今は外している。

特に感覚がある訳ではないので、クレインはR6の武器に集中していた。


そんな風景のギルドルームに、サーラントが入ってきた。

氷のオーラを纏って。


「まだベルは来てませんの?」


トゲトゲしいトーンで聞いてきた。


「ベルちゃんが来るの?」


βの時から、慣れっこのパルコは、気にした風もなく聞いた。


「ええ、こちらで会うようにしてますの。」


「サーラちゃんって、聖騎士団には行かないよね?」


「どうしても話がある時は、ここをお借りしてます。」


「まあ、うちの男性陣は、使わないからね。それより氷のオーラ出てるわよ?何かあったの?」


「いえ、別に・・・。」


「またSS絡みとか?まあそんな事はないか。」


そう言って、パルコは冗談を言って笑った。

あくまで、冗談のつもりで。


「・・・。」


「えっ・・・。またSSなの?」


心の中で、面倒くさいと思ったパルコ。


「見て頂けます?」


「まあ、見るのは構わないけど?」


サーラントは、いつもの場所に座り、中央に拡大してSSを表示した。


「うおっ・・・。」


驚くパルコ。

口に手を当て、言葉が出ないミラ。

ずっとR6の武器を見続けてるクレイン。


「この手の人に心当たりはありませんか?」


「うーん、女性の手に見えるけど?」


「そう思いますか?」


サーラントが、そう言うと、武器に夢中になっていたクレインが顔を上げた。


「ふむ、恐らく、おばあ様の手かと。」


「おばあ様?」


サーラントが聞いた。


「はい、私のおばあ様、つまり祖母です。」


「ク、クレインさんの祖母??」


「はい。」


「ど、どうして?」


「祖母は、よく人の頭を撫でますので。」


「そうねえ、おばあちゃんとかって、頭撫でる人多いよね。」


パルコが言った。


「どうして、クレインさんの祖母が、ベルの頭を?」


「さあ?一緒に冒険してたんじゃないでしょうか?」


「どうして?」


「ベルさんのギルドに入りましたから。」


「クレインさんのお祖母さんが?」


「はい、今のおばあ様は、力を欲してる鬼ですので!身内である私が、止めないとっ!」


「???」


サッパリ意味がわからないサーラント。


「元は、私の対戦の練習相手になって欲しくて、私が勧めたんですが、今は、自らのレベル上げの為に、暴走してます。」


「は、はあ・・・。」


「元気なお祖母さんで、いい事じゃない?」


パルコが言う。


「そのせいで、私がデュエル大会出れないんじゃあ、本末転倒です。」


「クレインちゃん出れないの?」


「はい、おばあ様に勝てないと出れません。」


「えっ、クレインさんが負けるんですの?」


サーラントが聞いた。

サーラントが聞いてる限りでは、クレインは、聖騎士団と野武士の中で、一番強いという話だった。

あくまでデュエル限定だが。


「ゲームの動きにも慣れたようで、今は一度すら勝てません・・・。」


「それはまた・・・。」


そんなに強いのかとパルコが感心した。


「こんばんわ。」


ベルラインが入室してきた。


「サーラ、いきなり呼び出してきて何の用だ?あまり時間は無いのだが。」


「お時間は取らせませんわ。」


サーラの言葉を聞いた後、円形の椅子の中央に表示されたSSが目に入った。


「なっ・・・。」


耳まで真っ赤になるベルライン。


「先日、手に入りましたの。」


真っ赤になってフリーズしてるベルラインの反応はない。


「この手は、クレインさんのお祖母さんで間違いないですか?」


ロボットのように、コクコクと頷くベルライン。


「そうですの。じゃあ私の用はそれだけです。今度、紹介してくださいね。」


そう言って、サーラントはSSを仕舞おうとした。


「サーラちゃん、それメール貰える?」


「はい。」


そう言って、さくっとメールするサーラント。


「おい・・・。」


フリーズが終わったベルライン。


「なんですの?」


「何で、メールした。」


「欲しいって言われましたので?」


以前にもあったような、やり取りが繰り返される。


「サーラ、私にそれをメールをしてくれ?」


「ベルのギルドの人が撮ったんじゃないんですの?」


「恐らく、私のギルドの者だろうなあ。」


完全に撮った人間の目星はついていた。


「でも要りますの?」


「ああ、今からギルドに戻って、糾弾するのに必要だからな。」


「はい。」


あっさりとメールするサーラント。


「パルちゃん、ミラちゃん、それにクレインちゃん。着たばかりで申し訳ないが、私は急用が出来たので失礼する。」


「え、ええ・・・。」


パルコは思った、聖騎士団は、今から凄い事になりそうだと・・・。

そんな中、周りも気にせず、クレインだけは武器を眺めていた。

そうして、ふと顔を上げ。


「あっ、すみませんパルコさん。私にもSS下さい。」


と、一人マイペースだった。

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