第108話 ラストショットは突然に

【あわわわわ・・・、ついにアレを超えてしまったかも。】


カルディナは、内心でそう思った。

カルディナにSSを教えた聖騎士団の女性団員が、以前、カルディナにこう言った。


「いいですか?プロっていうのはね、いついかなる時にチャンスが来てもいいように、SSは常に常駐させとくものですよ。」


と。

って、何のプロだよ・・・。


パーティー解散後、興奮冷めやらぬカルディナは、自分のギルドへは帰らず、ヨルムンガンドに直行した。


「あらカルディナさん、こんな夜遅くにどうしたの?」


カルディナは、ターヤが居てビックリした。

むしろ、主婦がこんな夜に居る方が問題あるんじゃと思ったが、口には出さなかった。


「あのう、ミズたんは?」


「あの子は、お寝むの時間だからって、もう寝たわよ?」


【こ、子供かっ!】


カルディナは心の中で突っ込んだ。


「ちょっと、ターヤ、勝手な事言わないで!これからが私の時間なのよ。主婦は、さっさと旦那の相手でもしてくれば?」


「はあ?」


物凄い形相で睨まれ、ビビりまくるミズガルド。


「カ、カ、カルディナは、何の用なの?」


震える声でミズガルドが聞いてきた。


「いや、まあ、ついに究極の一枚を撮ったんで見せに。」


「・・・。」


「・・・。」


沈黙するミズガルドとターヤ。

そして30秒後、ようやくミズガルドが口を開いた。


「あんた、まだやってたの・・・。」


「まあいいでしょう。落ちようと思ってましたが、カルディナさんの一枚を見てからに。」


そう言って、腰を下ろすターヤ。


「しょうがないわね、見てあげるわよ。」


座ったまま、言うミズガルド。


「聞き捨てなりませんわね。私のギルドのアレを超えると?」


そう言って、ターヤの隣に腰を下ろすルビア。


「「「!!!」」」


驚くカルディナ、ミズガルド、ターヤ。


「ルビアさん、いつの間に?」


ターヤが聞いた。


「少し前に来て、瑠璃コガネを見てました。」


「そ、そうなのね。」


「カルディナさん、究極の一枚見せて頂きましょうか?」


ルビアが言う。


【あ、あっれー、なんかハードルが凄く上がったような・・・】


撮った時点では、自信があったのだが、3人の圧力を受けて、段々と自信が無くなってきた。


怖いお姉さんが二人居て、手間取ると怒られそうなので、諦めて、SSを表示させた。



カルディナの究極の一枚。


頭を撫でられたベルラインが、頬を染めて、照れ笑いしているシーン。

顔がアップで撮られており、撫でてる手しか写っていない。



「うごごごごっ・・・。」


ミズガルドが唸る。

ターヤとルビアは、言葉を失った。


「そ、そそそそそ即、送りなさい。」


どもるミズガルド。


「ミ、ミミミミミ、ミズガルド、直ぐにチーム一斉送信を。」


「タ、タタタタタ、ターヤさん、私にも送ってください。」


ヨルムンガンドのギルドルームが慌ただしくなってきた。



「すみませんが、今日は失礼します。カルディナさんSSありがとうね。」


そう言って、ルビアは足早に去って行った。

ヨルムンガンドのギルドルームでは、騒ぎが大きくなっている。


「誰、この手?」


「も、もしかして総受け?」


「でも女性っぽくない?」


「これ誰撮ったの?」


「カルディナさんみたいよ。」


そうして、ギルドルーム内に居た全員の視線がカルディナに集中する。

魔女たちの視線を浴びて、ご満悦のカルディナ。


「「「カ、カルディナさんっ!この手は誰の手?」」」


全員の質問がハモった。


「えーと、うちの新人のグランマさんです。」


カルディナが答える。


「女性ですよね?」


「え、ええ。」


一同が安心する。


「てか、ベル様も照れ笑いするのね。」


「ベル様だって女性だもの。」


「でも見た事ないわ。」


「ベル様、かわえええ。」


「ある意味、アレを超えましたが、ある意味じゃあ超えてませんね。」


ターヤが恍惚の表情でSSを見ながら答えた。


「ある意味ですか?」


カルディナが聞いた。


「ええ、ベルファンにとっては、これが究極と言っても間違いないでしょう。」


「ああ、なるほど。」


カルディナは、納得した。

ベルサラにとっては、二人が写ってこその究極といえる。


「カルディナ。」


ミズガルドが名前を呼んだ。


「何?」


カルディナは、ミズガルドの方を向いた。


「グッジョブ!」


そう言って、ミズガルドは、親指を立てた。

それに対して、カルディナは満面の笑みで返した。

この時のカルディナは、今が幸福の頂上という事は知らず、ましてや、これが大惨事の引き金になるとは、思いもしていなかった。

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