第105話 学祭準備

テスト休み中であっても、運動系サークルは、練習がある。

千鶴は、午後から大学へ行ったのだが、何故か未菜と遭遇した。


「あれ?テスト休み中ですよね?」


千鶴が未菜に聞いた。


「学祭の演劇の打ち合わせがあんのよ。」


「ああ、なるほど。」


千鶴たちの通う大学にも、ミスコンが、もちろんある。

ミスコンは、学祭の最後に開催され、1年~3年生の中から選ばれる。

4年生は、就活がある為、除外される。

ミスに選ばれると1年間、色々な行事に参加しないといけない為、4年生には、そもそも無理なわけで。

ミス大学の最後の仕事は、翌年の学祭の演劇となっている。


「未菜にお願いがあるんですが?」


「何、何何?」


千鶴からお願いなんて、殆どされることがないので、喜ぶ未菜。


「おばあ様の弱点と言うか、薙刀の弱点を教えてください。」


「・・・。」


「未菜なら中学まで、おばあ様に習ってましたよね?」


「き、基本をね。先生がレベル20を超えて一度も勝ってないの?」


「ええ。」


「まあ、考えてみるわ。」


「お願いします。」


お互い時間が無かったため、直ぐに別れた。



「こんにちわ。」


未菜は、演劇部が練習中のホールへ入り、挨拶をした。


「刈茅さん、いらっしゃい。」


4年の部長が招き入れてくれた。


「皆さん、知ってると思いますが、ミスK大の刈茅さんよ。百合な人なんで、一年生は、特に気を付ける事。」


殆ど女子ばかりの部員に、ヘラ顔の未菜。


「ちなみに彼女も演劇部員だからね。」


「「「ええええっ。」」」


一同が驚く。

同じ2年生ですら。


「未菜、いつ、うちに入ってたのよ?」


同級生が話しかけてきた。


「いや、わりと直ぐよ?」


女性が多いという理由で即入部した未菜。

が、例のベロチュー事件で、直ぐに出禁に。


「和美先輩が、本当に怒ってたからね。殆どの部が出禁状態よ。」


部長が説明した。


「でもね、私、初めてあなたを見た時から、こういう脚本書いてみたかったのよねえ。」


目がギラギラしている部長。

ミスK大の最後の仕事は、学祭の演劇だが、ある程度の要望は聞いてもらえる。

未菜が要望したのは、王子様役。


「今回は、眠れる森の美女をオマージュして私が作った力作よ。」


「眠れる森の美女・・・じゅるり。」


キスシーンを想像して、涎を垂らす未菜。



「すいません、遅れました。」


男性部員が遅れて入ってきた。


「剣持君こっちこっち。」


部長が手招きする。


「よー、未菜も居たのか?」


「てめっ、名前呼びすんじゃねえ。」


かなりのイケメンだが、未菜は容赦なかった。


「つれないなあ未菜は、これから一緒に劇をやるってのに。」


剣持と未菜はクラスメイトだった。


「先輩、屑はほっといて、お姫様役は誰ですか?」


男は無視して、ワクテカの本題に入った。


「剣持君よ。」


「・・・。」


フリーズする未菜。


「ということだ、未菜。宜しくな。」


「お前・・・お姫様役やるのか?」


「ああ。」


「断れよ・・・。」


「俺、俳優志望で、外部の劇団に通ってるだろ?そこの先生がな、やってみろっていうんで。」


剣持が先生と呼ぶ相手は、劇団の主催者で俳優の大御所だった。


「俳優目指してる奴が、お姫様役なんてやるかーーーっ。」


未菜は絶叫した。


「一応キスシーンは無いんだけど、どうする?剣持君は入れても構わないっていうんだけど?」


「全力でお断りしますっ!台本見せて貰っていいですか?」


「どうぞ。」


未菜は、さらっと台本を読んだ。

眠れぬ森の美女と違って、オーロラ姫は眠っては居なかった。

感情を失い、人形のように座っているオーロラ姫に、フィリップ王子が手の甲に口づけし、エスコートしてダンスをするというクライマックスが書かれていた。

ダンスをするうちに、感情を取り戻していく。

姫役も難しそうな内容だった。


「お前、出来るのか、これ?」


「まあ、出来ると思うよ?」


未菜の質問に簡単に答える剣持。

未菜は、ガックリした。

未菜が要望したのは、王子役。

まさか、お姫様役を男がやるなんて思いもしなかった。

ただでさえ、演劇部の男は少ないのに。


「これが成功したら、2年連続のミスK大も間違いないわっ。」


部長が未菜に言った。


「そもそも、私、ミスコンに興味がないんですが・・・。」


大学のミスコンと言えば、数十年前には、水着審査だの、芸能界への登竜門だので、華やかであったが、その分暗躍する者も多かった。

しかし、最近では、ミス大学には教養が求められる。

昔と違いミス大学は、大学の顔となり1年間、様々な行事が義務付けられる。

エントリー制ではなく、完全な学生の投票で行われる。

不正が発覚すれば即退学となるので、近年では、お金だ枕だといったものは皆無となっている。

K大のように大きい大学になると、学祭参加者は、3割も居ればいい方で、殆どの人間が、興味なかったりする。

その為、ミスコンの投票率も例年2割程度なのだが、昨年は違った。

新入生に、百合姫がいるとの噂は、速攻で広まり、ミスコンの投票率は、過去最高の4割まで達した。

面白そうだからと選ばれたのが、刈茅未菜だった。

何年かに一度、こういったノリで、ミスコンが選ばれるのだが、2年連続でとった試しはない。


1年間の行事活動は、他大学との行事や地域の行事も含まれている。

ノリで選ばれた者は、必ずと言っていいほど失敗し、K大の面汚しとなってしまう。

もちろん選んだのは自分たちであるから、何も言えた義理じゃない。

そうして、反省し、暫くは、まともな女性を選ぶのだが、5年も経てば、失敗を経験した生徒は居なくなるので、また同じ過ちを繰り返す。

若いうちは、よくあることである。


しかし、悪しき前例は覆されるためにあるとは、よく言ったもので。

未菜の評判は、すこぶるいい。

何せ外面はいいし、礼儀作法は、やればできるので、


「さすがミスK大。」


とまで、言われる始末。



「先輩、これは喜劇ですか?」


未菜が聞いた。


「いえ、真剣にやるわよ?」


「こいつのお姫様役じゃあ、笑われるんでは?」


「そう?剣持君、着替えて来てくれる。その間に刈茅さんとは、色々打ち合わせしておくから。」


「わかりました。」


1時間後、どっからどうみても、お姫様にしか見えない美女が現れた。


「「「おーーーっ」」」


部員たちから感嘆の息が漏れる。


「気持ちわるっ!」


未菜は、鳥肌が立った。


「お前に言われたかないわっ!」


剣持が言い返した。


「声はどうするんです?」


未菜は部長にきいた。


「私の事、舐めてます?」


剣持が女声を発した。


「う、うわっ、き、気持ちわるっ!!!」


更に鳥肌が立った。


「未菜の方こそ、ちゃんとエスコートできるの?」


女声で言う剣持。


「先輩、こいつ殴っていいですか?」


心底、腹が立った未菜。


「まあまあ、刈茅さんはダンスは大丈夫よね?」


「そこそこには。」


「あら、男性役なんて出来るのかしら?」


お姫様が挑発したように上から目線で言う。


「てめえ・・・。そっちこそ女役でダンス出来るのかよ?」


「出来るわよ。役者たるものどっちでも出来なくちゃ話にならないでしょ?」


完璧な女声の剣持に、殴りかかりそうになった未菜は、部長に止められ、何とか事なきを得た。


「未菜ってば、乱暴さんなんだから。」


「コレの手の甲にキスしろと?」


「つける振りで構わないから。」


「はあ・・・。」


最後の最後に、とんでもない仕事が待っていた。

朝のルンルン気分は何処へやら。

まあ、日頃の行いが・・・(以下ry

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