第100話 戦いの挽歌

「おばあ様すみません。今まで色々付き合えなくて。」


やっとテスト期間が終わり、クレインは自由になった。


「いえ、気にしなくていいのよ。それより剣道の方はいいの?」


「学生選手権も全日本も終わりましたから、特には。」


「そう?同世代に敵は居なくとも、あなたはまだ全日本をとってませんよね?」


「それは・・・。」


「千夏は、あなたの年には、2回は取ってるわよ。」


「・・・。」


「まあ、いいわ。ゲームにうつつを抜かすのも今日までにして、明日からは、剣道に集中しなさい。」


「いえ、私はカンピオーネに勝つという目標が・・・。おばあ様? そう言えば見ないうちに装備も変わったようですね。」


「ええ。それより約束覚えてる?」


「はい。おばあ様に負ける様なら、デュエル大会には出ないと。」


「そう、本気で来なさい。今までの様にはいきませんよ。」


グランマから放たれる気は、今までのものとは違った。



いつもの朝練が、いつもの闘技場のシークレットルーム行われた。

しかし、漂う空気は、いつもと違って、張りつめていた。


クレインは、いつもの如く間合いを詰め、突きを放つ。

薙刀の柄の部分で、難なく裁くグランマ。

細かい突きを連続で放つも、それすら裁かれた。


【読まれている。】


クレインは、そう感じ取った。

突きの狙いを散らし、構えをみだそうとするクレイン。

それすら、読み切り、あっさりと裁く。

ゲーム内の動きに躊躇があった頃と違い、グランマは動きに慣れていた。


そして・・・。


斜め下から薙刀を振り上げた。

間合いが近いため、柄は短めに持って。


日本刀で、防げば、弾かれる危険性があった為、クレインはバックステップで、攻撃を避けた。

その時、クレインの目にはっきりと映った。

笑っているグランマの顔が。


それは蔑んだ笑いでなく。

いうなれば、狂気の笑い。

クレインは、生まれて初めて、祖母に恐怖を感じた。


クレインがバックステップでかわした場所、それは薙刀の間合い。

すかさず、グランマの鬼のような突きが放たれる。

相手が孫でも関係なしに。


初撃は、致命傷にはならなかったが、ダメージで動きが数秒制限された。

そこに、2撃目が入り、グランマの勝利が確定した。


この日、クレインは、3連敗をきっしてしまった。


「ううう・・・。」


悔しさのあまり、下を向くクレイン。


「安心しなさいクレイン。あなたの仇は私がとります。」


「は?頼んでませんが?おばあ様、デュエル大会に出る気ですか?」


「クレインの負けは、井伊家の名折れです。」


「クレインは、ゲーム内の名前で、井伊家とはまったく関係ありません。」


「ま、孫の仇を私がとります。」


「頼んでません。」


クレインは、ジーっとグランマの瞳を見つめた。

目を反らすグランマ。


「ひとに剣道に集中しろと言いながら、自分は、大会に出るおつもりですか?」


「えーっと・・・。ほら、ボケ防止よ。ゲームってそういうのに効くんでしょ?」


「おばあ様が出るなら、私も出ます。」


「それは、駄目よ。」


「どうしてですか?」


「武士に二言はない でしょ?」


「うっ・・・。」


「あなたに剣道に集中してほしいのは、祖母としての本心ですよ。」


「孫に平気で切りかかったのに・・・。」


「いっ・・・。だってゲームでしょこれ?ねえ?」


「おばあ様の鬼神の笑いを始めてみました。」


「・・・。」


小さい頃、千鶴は祖父に聞いたことがある。

剣道が強かった祖父に怖い物があるのかと。

祖父は即座に答えた。

祖母の鬼神の笑いが一番怖いと。


「おじい様が言ってました。あれを見たら生きてる心地がしないと。」


「む、昔の話です。」


「出てましたよ?」


「・・・。」


グランマは、まったく自覚が無かった。


「本当に大会にでるおつもりですか?」


「ええ。」


「では、大会までの朝練で私が勝つようなら、私が出ます。」


「だから、あなたは剣道に集中しなさいと。」


「もちろん剣道も頑張ります。」


真剣な瞳で、グランマを見つめるクレイン。


「まったく強情ですね。誰に似たんだが。」


「間違いなく、おばあ様です。」


「・・・。」


「おばあ様が言うように、リアルもちゃんとしますから、おばあ様の冒険の方は、手伝えないかもしれません。」


「ええ、それは私もギルドに入ってるから大丈夫よ。」


「では、明日からも朝練の方は、いつも通りで。」


「ええ、リアルの朝練も忘れずにね。」


「はい。」


千鶴は、毎朝、家から道場に通い、汗を流していた。

そして、家に帰り、シャワーを浴びた後、ゲームでグランマと対戦し、大学へ登校するのが、毎日の日課だった。

テスト期間中は、ゲームをせずに、勉強の復習時間にあてていた。


グランマとの対戦が終わり、千鶴は、大学へ行った。

テストが終わった後は、大学にはテスト休みがある。

しかし、運動系サークルには、関係がない。

今日は、男子の方に埼玉県警から、指導者が来てくれる日だった。


「どうしたっ、お前ら、もう終わりか?」


千鶴が通う大学は、剣道は強くない。

頭の方はそこそこいいのだが、スポーツは、スポーツ推薦で入った人だけ、活躍するという大学だった。


「斎藤さん、お願いします。」


「井伊か、よしかかってこい。」


千鶴の持ち味は、スピード。

しかし、何と言っても背が小さい。

そして、軽い。

斎藤は、容赦なく体を当てて、千鶴のスピードを殺した。

何度か、この大学に指導に来ている為、千鶴の動きは、読まれている。

負けても、負けても何度も千鶴は、立ち向かった。


「ちょ、井伊、そろそろ休憩を・・・。」


「もう一度っ!」


斎藤は、しかたなく応じた。


「お前らも少しは、井伊を見習えっ。」


何度も立ち向かってくるような男性部員は一人も居なかった。


「それから、井伊。俺が言わなくてもわかってると思うが。」


「はい。今のままじゃあ全日本は勝てません。」


「まあ、お前の問題だから、これ以上は何も言わんがな。」


「すみません。」


千鶴は、剣道で突きは使わなかった。


「はあ、しかし、ここの大学は一番疲れるな・・・。」


色々な大学に指導に行っているが、千鶴のようにしつこい学生は居なかった。

斎藤は、休憩で座り込み、剣道場の外を見ながらスポーツドリンクを口にした。


「斎藤さん、いいですか?」


そう言って、千鶴は、斎藤の隣に座った。


「どうした?」


「今日、おばあ様に負けました。」


「え・・・、千勢先生に?」


「はい。」


「VFGXか?」


「はい。」


「お前が?」


「はい。」


「・・・。」


斎藤は、昔、千鶴の祖父に剣道を習っていた。


「俺は、まだゲームで会った事ないんだが、初めてどれ位だっけ?」


「まだ、一か月経ってません。」


「お、恐ろしいな。先生は武器は何を?」


「薙刀です。」


「な、薙刀ってあったっけ?」


「あったみたいです。」


「そうか・・・。」


「是非、斎藤さんもお手合わせ願います。」


「い、いや、俺、ゲームじゃあ、井伊にも勝てないだろ?」


「斎藤さんの方が薙刀、詳しいですよね?」


「てかお前、先生の近くで育ったんだから、見て来てるだろ?」


「すみません、まったく・・・。」


「・・・。」


「斎藤さんは、奥さんがおばあ様の弟子ですよね?」


「まあな。」


「もしかしたら、斎藤さんなら、おばあ様の弱点をっ!」


「って、お前、先生に勝ちたいの?」


「はい。」


「・・・。」


こうして、斎藤ことポリースは、祖母と孫の闘いに巻き込まれる事となった。

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