第73話 淡水の王者

最近のタイマーは、鯉釣りにはまっていた。

何せ淡水の王者だけあって、引きは半端ない。

層なんて、関係なしに釣れるので、いつでも釣れる。

が、だからこそ奥が深い。

川で普通に釣りをしたら、鮒か鯉が直ぐ釣れる。

際限なく釣ってたら、餌が無くなり、金がいくらあっても足りない。

現在、タイマーが目指してるのは、鯉の最長ランクの更新である。

全ての魚には、最長記録のサイズと釣った人の名前が表示されている。

鮒、鯉、鯛、シマアジなど、かなりの種類がタイマーの名前になっている。

カツオ、シイラ、ブリと言ったブリ祭りで釣れるような魚は、タイマー以外の人間の名前が多い。

川の4層や、5層で釣れる魚については、海では3層で釣れるため、記録保持者は、海で釣ってる人間となっている。


タイマーはせわしく手元にあるボタンを押している。

これは瞬時に鮒の当たりを感知し、釣れない様にしている。

鯉の当たりがあって、ヒットしても、ボタンを長押しして外している。

ブラッククリスタルロッドの感度をもってすれば、掛けてすぐ大体のサイズがわかるのだ。

餌、節約の為、わざとばらしている。

掛けてからある程度、時間が経って、ばらした場合は餌もロストするのだがタイマーのように、即、バラせば、餌も無くならない。


一方、タイマーからかなり距離を取った場所で、鮒を釣ってる人間が居た。

タイマーが、最長記録を作る前の記録保持者だ。


「仙人は、どうやら鯉に夢中らしい。今のうちに、俺が返り咲いてやる。」

こっちは、どんどん餌を購入し、物量作戦でやってるので、効率は悪い。


タイマーはその後、メーター級の鯉を釣り上げたが、記録更新にはならなかった。


「何故に鯉を?」

後ろからクレインが、タイマーに声を掛けた。


「あれ?クレインちゃん。授業は?」


今の所、ゲームの世界で、クレインちゃんと呼ぶのは、タイマーとベルラインの二人だった。


「今日は、休講です。それより、それが例の?」

そう言って、クレインは、ジーーーっとダイマーのロッドを凝視した。


「あ、これ?持ってみる?」

そうして、クレインに手渡した。トレードではなく手渡しただけである。


「お、おおおおーーーっ。こ、これが噂の超無駄竿ですねっ。」

クレインの手が震えた。


「無駄竿って・・・。」


「これがあのライトカーボンメタルの錬鋼を使用した・・・。」


「もしかして、グランマさんの武器見ちゃったの?」


「見ました。何ですかあれは・・・。」


「まあ、レベル1の人に渡す武器じゃあないと俺も思ったけどね。」


「お蔭でおばあ様から、レベル上げの催促を受けてます。」


「手元にあれば、使いたくなるよね。」


「いいなあ・・・。」

羨ましそうに、じっとブラッククリスタルロッドを見つめる。


「もしかして、ライトカーボンメタル欲しいの?」


「ライトカーボンメタルは欲しいですが、カンピオーネの手が掛かったのは、要りませんっ!」


「それは、また難しい事を・・・。」


「全部、カンピオーネが護衛してるんですか?」


「大会終わってからは、結構護衛出てるみたいだよ?」


「一人で?」


「一人みたいだね。」


「あの陰鬱な森を・・・。」


「このロッドのせいで、市場にもライトカーボンメタル出さないと、煩く言う人もいるらしいから、組合ってのから少量を販売してるみたいだけど。」


「本当に一部の人しか買えないみたいです。そもそも買っても制作する人が居ないと意味ないですから。」


「俺も、グランマさんも、その点は運がよかったかなと。」


「むう・・・。」


「坑夫、知り合い居ないの?」


「ライトカーボンメタルを掘れる坑夫は、居ません。」


「カラットの奴が護衛した物じゃいやなの?」


「カンピオーネは敵ですっ!」


「じゃあ、諦めるしかないかなあ。」


「うううう・・・。」


クレインは、物欲しそうにブラッククリスタルロッドを見つめたまま、タイマーへと返した。


「今日の夜って、礼儀作法やってるかな?」


「今日は、やってると思います。OLさん達に人気みたいですから。」


「躾なんて出来る親が居ない時代だからねえ。」


「仙人は、姿勢もいいですよね?」


「俺も、ばあちゃん仕込みだから。」


「そうなんですね。」


「今日、夜に顔を出すって、グランマさんに伝えといてくれる?」


「了解です。」

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