第72話 レベルを上げたい
いつもの朝練で、クレインとグランマは二人、デュエルルームで対戦した。
スペースはもちろん、シークレットスペースで。
現在、クレインとグランマのレベル差は50。
まだゲームの動きに慣れてないグランマが、Lv50の差なんて無いような、いい戦いをしていた。
それでも、クレインに勝利するまでには達してはいない。
「一つお願いがあるのだけど?」
対戦が終わった後、グランマは、クレインに言った。
「何でしょう?」
「Lvを上げたいのだけど?」
「えっ!!! おばあ様が?」
「ええ、変かしら?」
「いえ、そういうわけでは。何かあったんですか?」
「実はね、武器が・・・。」
「すみません。おばあ様、やはり薙刀を作れるような人は居ないようで。」
「いえね、手に入ったので、装備するためにレベルがね。」
「えっ!!!ど、どうやって手に入れたんですか?」
ビックリするクレイン。
「タイマーさんの知り合いという方から、頂きました。」
「なっ、釣り仙人の・・・。」
「それで頂いたのはいいんだけど、レベルがね。」
「見せてもらってもいいですか?」
グランマは、備州長船静型を取り出して見せた。
「R3の武器ですか、PC物のいい物ですね。」
「出来れば装備したいと思って。」
「R3という事は、レベル20は必要ですね。」
「みたいね。」
「わかりました。最近は、ミミズ狩りっていうレベル上げがあって比較的早くレベルが上げれるようなんで、メンバー集めてみますね。」
「ミミズを狩るの?」
「ええ、経験値も戦闘とクエストで2重で貰えて、美味しいらしいです。」
「そういうものなのね。」
「一日一回しか出来ないのがネックですけど、時間的にはいいと思います。」
「お願いするわ。ちなみにクレインは、レベルいくつなの?」
「私ですか?今は、レベル51です。40超えてからはレベル上げは、あまりしてませんので。」
「そう、クレインでも51なのね・・・。」
「どうかしました?」
「い、いや、何でもないのよ?」
ジーーーっとグランマを見つめるクレイン。
「あ、あのね。出来ればレベル50になりたいと思っただけよ。」
「おばあ様、デュエルはそこまでレベル差は、出ないですよ?現に既にいい勝負してるじゃないですか?」
「そう言う事じゃなくてね。」
「何か隠してらっしゃいます?」
更にジーーーっと見つめる。
「ちなみにクレインの武器は、ランクいくつのものなの?」
「R5です。レベル40から装備できます。殆どの上の方の人はR5を使用してますよ。」
「そうなのね。」
ますます言い出しにくくなったグランマ。
「で、おばあ様、何を隠してらっしゃいますか?」
「クレインも二十歳になって、お互い隠し事できなくなっちゃったわね。」
「私も、もう大人ですからっ!」
胸を張って威張るクレイン。
グランマは諦めたように、備州長船静型”千”を取り出して見せた。
「なっ!!!」
クレインは驚いた。
まず柄の部分が漆を塗ったような光沢のある黒さ。
間違いなく堅松樹が使われている。
何せ、大量に堅松樹をローラに納品してるクレインだからこそ、間違えようがない。
そして、何より驚愕なのが、刀身部分。
黒に近い深い碧色の刀身。
間違いなくライトカーボンメタルが使われている。
「ランク6の武器を始めて見ました。」
クレインは、吸い込まれるように”千”を見つめた。
さすがにこんな武器を手に入れたら、おばあ様がレベルを上げたくなるのは、無理もないと納得した。
「釣り仙人の知り合いって、どなたなんですか?」
「ロッドメーカーさんよ。普段は釣竿を作成してるみたいだけど。」
「あのブラッククリスタルロッド作った人ですか・・・。」
「何なの、それは?」
「釣り仙人が使ってる、釣竿です。」
「ああ、なんでもこの”千”の十倍の価値の材料使ってるとかいうやつね。」
「そうです。レシピが公開されて大騒ぎになってました。」
「私もまだ自分で使えない”千”を人に見せるのは気が引けてね。」
「見せない方がいいです。R6の武器で、しかも薙刀とか言ったら、大騒ぎになりそうです。」
「そうね。まだまだ使えそうにないし、当分しまっておくわ。」
そう言って”千”を仕舞おうとしたが。
「す、すみません。おばあ様、もう少し見させてください。」
そうして、クレインは、ランク6の武器を目で堪能した。
初めて手にした時、手が震えたグランマは、クレインの気持ちがよく判っていた。
「本当、血は争えないわね。」
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