第71話 刈茅の才女
刈茅の家は、代々女性で盛ってきたと言っても過言ではない。
未菜の父親も、任された会社を不況の波に飲まれて、一度赤字に転落させてしまった。
結局、東京の会社は、姉が引き継ぎ見事、立て直している。
現在は、未菜の父親は関西の会社を受け持っている。
未菜の祖母は、数十の会社を経営していたスーパーキャリアウーマンであった。
「うん、何とか黒字のようね。本当、未菜に来てもらって助かるわ。」
伯母がそう言った。
今は、従業員全員とオーナーで賄い中であった。
メニューは、イタリアンらしからぬ親子丼である。
夜の賄は、オーナー命令で和食となっている。
「伯母様、いい加減解放してくれません?」
正直、未菜はバイトなんてしたくもなかった。
関西の会社に追いやられとはいえ、社長令嬢である。
「ここは、いろんな会社の社長さんが来るのよ?今のうちに人脈は、作っておくものよ?」
「人脈って・・・。」
「あら、あなた不愛想だけど、お偉いさん連中には評判いいのよ?」
「どうでもいいです。」
「本音を言わせてもらうとね、ここまで手が回らないのよ・・・。あなたに卒業したら、何社か任すつもりだから宜しくね。」
「お断りします!」
「あのね、あなたは刈茅の娘なのよ?ちゃんと自覚しなさい。」
「おばあ様の孫なら何人もいるでしょ?」
未菜の祖母は既に亡くなっている。
キャリアウーマンだった祖母は、結婚はしてないが、子供は5人も居た。
しかも実子が。
若い男が大好きで、次から次へと恋人を変えていった為、父親は不明である。
「あの子たちは、駄目ね。才能が無いもの。」
むしろ、天才肌の未菜が別格と言えた。
「私はやりたいことがあるのっ!」
「やりたいことねえ・・・。」
未菜の夢は伯母は知っていた。
壮大な夢と言えば壮大ではあったが・・・。
「あなた、今日の賄も美味しかったわ。店じまいお願いね。」
「ああ。未菜ちゃんをよろしく頼むよ。」
伯母は、いつものように未菜を車で送って行った。
「まあ、あなたなら、国家公務員試験一種をパスするでしょうね。」
「当然です。」
「省庁にも入れるでしょう。そして刈茅の家の力を使えば政治家にもなれるわ。」
「だったら、経営者になれとか言わないでくれます?」
「でも、そこまでね。」
「は?」
「日本はね、欧米と違って性的な事には、未だに閉鎖的な国よ。」
「それこそナンセンスでしょ?国際的に遅れすぎてます。」
「日本でいえば、同性婚なんてマイノリティすぎるって言いたいのよ。」
「国際世論を味方につけます。」
「数は力よ?マイノリティで、法改正なんて、まず無理ね。」
「そうですか?私は、出来る自信があります。」
「例え同性婚が認められたとしても、一夫多妻制なんて絶対無理よ。」
「伯母様、間違えないでくださる?そんな下等な制度は死んでも作りません。一妻多妻制です。」
簡単に言うと、レズのハーレムの事である。
「はあ・・・。どうしてこんな子になっちゃったのかしら・・・。」
「失望したなら、自分で子供作るか、他の子に押し付けてください。」
「私が、産休なんてしたら、何億もの損失よ!」
「じゃあ、他の子に。」
「ハーレムを作りたいなら、勝手に作ればいいでしょ?何故法改正に拘るの?」
「子供の頃の夢ですから!」
中学にあがった頃、未菜は千鶴に夢を語った。
あまりのアホらしさに、千鶴は何も言えなかった。
「千鶴ちゃんは、私が夢かなえたら一号さんになってくれる?」
「ええと・・・、叶えれたらね。」
あまりのアホらしさに、適当に答えてしまった。
「本当に、本当だよ。」
「う、うん。」
そもそも絶対叶えれるわけねえだろと思い返事をした千鶴だった。
伯母は、未菜を女性専用マンションに送り届けた。
そんじょそこらの学生が入れるマンションではない。
完全に男子禁制で、マンションに入ってる女性でも男を連れ込む事は出来ない。
未菜としては、女性が連れ込めればいいので、そこそこ気に入っていた。
「なんとかならないかしら・・・。」
未菜がマンションに入るまで、車の中で見送った伯母は、ボソッと呟いた。
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