第61話 【ゲーム過去編】殴ってクレ、それが私の進む道
王道とは、正攻法、定番、定石の意味に用いられる言葉。
VFGXにおける僧侶の王道とは何だろう?
回復、補助魔法に徹した完全な後衛型を意味している。
では、腐女子における王道とは?
やはり、BLが王道になるのだと思われる。
VFGX内でギルドが実装され、ゲームが全体的に落ち着いた頃、ミルミルは、VFGXを始めた。
職業は、VR機でないゲームで経験のあった僧侶を選んだ。
彼女が最初に思ったのは。
「何これ、僧侶って半端なく難しいんだけど・・・。」
ここがVFGX内での僧侶の分岐点となる所で、多くの者は、ジョブチェンジをするのだが。
彼女は、僧侶であり続けることに決めた。
僧侶が装備する武器は、スティックが一般的だった。
殆どの僧侶が、小型シールドとスティックを装備していた。
しかし、彼女が選んだ武器はメイスだった。
リアルだったら、片手では持てそうにない武器も、ゲーム内であればなんなく装備でき、振り回すことができた。
「ミルミルさん、前に出ないで、後方で回復に専念してくれ。」
野良PTのリーダーに注意された。
渋々、ミルミルは回復に徹した。
約束の30分が終わり、普段であれば、おつかれーで即解散となるが、今回のPTの連中は、残って、話をしだした。
6人PTで、初心者っぽいのは、ミルミルともう一人だけで、後の4人は、中級者以上だった。
「ミルミルさんは、何処かギルドに所属してるの?」
開始間際のVFGXでは、僧侶はボロクソ言われてたものだが、今では、ギルドの争奪戦のようなものがアチコチで起きていた。
「いえ。特には。」
「じゃあ、一度教会に行ってみるといい。」
PTリーダーが言った。
「教会ですか?」
「眠れぬ教会って言ってね、僧侶だけのギルドがあるんだよ。」
「はあ、てっきりギルドに誘われるのかと思いました。」
「俺?俺のとこはさ、メンバー募集してないから・・・。」
「もしかして、連合の方ですか?」
他のメンバーが聞いてきた。
「そうだよ。」
「初心者支援のために、野良ってるってのは本当だったんだ。」
別の一人が言った。
「持ち回りでやってるよ。オンラインゲームってさ初心者が定期的に増えてくれないと終わっちゃうからね。」
「さすが連合・・・。」
連合とは他ゲームで、実績のあった6つのギルドが統合されてできたギルドで、VFGX内では、メンバーは一切募集してなかった。
「うちにも僧侶いるけどさ、皆、苦労してるよ。たまに教会に勉強しに行ったりしてるけどね。」
「あの、その教会の僧侶さん達って、武器とか何を使ってるんでしょうか?」
「俺が見たことあるのは、スティックだけだね。ちなみに連合の僧侶も皆スティックだよ。」
「だよなあ。俺もスティックしか見たことないや。」
「そうですか・・・。」
「ミルミルさんは、メイスが使いたいの?」
「ええ、せっかく僧侶でも装備できる武器なんで。」
「メイス使いかあ。うちにも何人か居るけど、やっぱNo1は、頑強かなあ。」
「でしょうね。メイスと言ったら彼女が思い浮かびます。」
PT内の女性が言った。
「頑強ですか?」
ミルミルが聞いた。
「聖騎士団は知らない仲じゃないんで、紹介しようか?No1に会ってみる?」
「はい、是非お願いします。」
ミルミルは、PTリーダーにお願いした。
「実は連合の紹介で、僧侶が体験入団する事になった。」
ギルバルトが聖騎士団のギルドルームで団員たちに発表した。
「僧侶が、うちにか?」
ベルラインが言った。
「そうだ。」
「どうでもいいです。そんな事より僧侶って事は女性なの?」
カルディナがせっつくように聞いてきた。
「そ、それこそ、どうでもいいだろう。」
「この屑がっ!一番重要でしょっ!」
「くっ・・・。残念ながら女性だ・・・。」
「いやっほーーーーい!」
「言っとくがカルディナ、お前は関わるなよっ!」
「はあ?何言ってんの?」
「連合からの紹介だし、どうやらお目当てはベルのようだからな。」
「なっ!!! 新人の癖にベル様を狙うとは・・・。どうやら体に教えてやらないといけないようね。」
「この腐った奴はほっといて、ベル、僧侶なんだが、武器はメイスを使用してるとの事だ。」
「ほう、それで私を指名という事か。」
「ああ、頼めるか?」
「問題ない。」
「よろしく頼む。」
「大船に乗った気で任しといてっ!」
カルディナが言った。
「だから、お前は関わるな・・・。」
ギルバルトが頭を抱えた。
次の日、約束の時間より早くベルラインは、ギルドルームで待機していた。
「何故、貴様が居るっ!カルディナっ。」
「だって、ベル様を狙ってるんですよ?私、心配で。」
「いつそういう話になったんだ・・・。」
「あのう、すいません。」
既にゲストキーを渡されていた、ミルミルは、初めてのギルドルームにドキドキしながら、入室した。
「ミルミルさんだな。話は聞いている。私が副団長のベルラインだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
頭を下げるミルミル。
その後、当たりを見回して、カルディナと目が会う。
暫く見つめ合う二人。
それぞれが何かを感じ取ったように。
そして・・・。
「パスっ。私とは、合いそうにないですね。」
カルディナが言った。
まさかの言葉にベルラインが絶句する。
【なっ・・・女性キャラには全て甘いカルディナが・・・。】
「失礼ですが、あなたは、ガチの方ですか?それとも二次元?」
「ガチだけど?」
「き、きもっ!」
「なっ!腐女子にキモイって言われたくないわっ!」
「私たちは、あくまで2次元の話です。頭の中で想像して終わりです。」
「想像だけして何が楽しいの?アホじゃね?」
「あなたの方がおかしいでしょ?日本じゃ認められてませんよ。」
「BLだって認められてねえだろっ!」
「想像するのは、私たちの勝手です。てかガチ百合なんて、ありえません。」
【なんで、こいつら見つめ合っただけで趣味趣向がわかるんだ・・・。】
心の中で呆れるベルライン。
「すまない。遅くなってしまって。」
ギルバルトが入室してきた。
「君がミルミルか?俺が団長のギルバルトだ。」
「そ、そ、そ、総受けきたあああああああああああっ!」
物凄いテンションで叫ぶミルミル。
「なっ・・・。」
トラウマが蘇り、その場にひれ伏すギルバルト。
「だ、大丈夫かギルバルト?」
ベルラインが声を掛けるが、返事はない。
「団長、こいつ腐ってますよ?体験ですし断りましょうよ?」
ギルバルトの耳元で悪魔のように囁くカルディナ。
突如、思考停止していたギルバルトの脳が働き出す。
【こ、こいつが俺を団長と呼びやがった。しかも女性キャラを追い出すだと。何がどうなってやがる・・・。】
「カルディナ、ミルミルさんは、連合からの紹介だ。無下には出来ん。」
ベルラインが言った。
「なっ、ベル様はどっちの味方なんですかっ。」
「正直に言うが、BLは私には実害はないからな。」
「「・・・。」」
真っ正直な意見に、ギルバルトとカルディナは絶句した。
「体験入団と言っても、私は、メイスの使い方を見せてもらいに来ただけです。」
「そうそう、あなた僧侶なんだから、素直に教会に行ったら?」
「あなたこそ、女だらけの教会に行ったらどうなんです?」
「私だって行きたいわよっ!!でも、今は心に決めた人が居るから。」
そう言って、熱い視線をベルラインに飛ばす。
ベルラインは、目を反らし合わない様にしている。
「とりあえず、ミルミルの言いたいことは理解した。ベル、PTを組んで技を見せてやってくれ。」
ギルバルトが言った。
「では、ミルミルさん、二人でも構わないか?」
「はい。」
「どうぞ、いってらっしゃい。二度と帰ってこないでね。」
カルディナが温かく見送った。
二人が出かけた後、ギルドルームにはカルディナとギルバルトの二人だけになった。
「珍しいな。お前が女性キャラを避けるなんて。」
「BL系の女はメンドクサイのよね。何かと私たちを目の敵にするし。」
「そういうものなのか・・・。」
「そういうものよ。でも、団長いいの?あの子居たら気が休まらないんじゃない?」
【それはお前もだ・・・】と内心で思った。
「あの様子だと、シンゲンさんが来たら、物凄い事になったりしてw」
他人事のように言う、カルディナ。
「連合からの手前、こちらから断ることは出来ん。お前に頼めるか?カルディナ。」
「OKボスっ!」
初めて意見があった二人だった。
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