第36話 レシピ

「実はレシピを公開しようか迷ってまして。」


ロッドメーカーは、ゲンに言った。

タイマーは、完全に釣りモードに入っていた。


「ふむ。ちなみにレシピを聞いてもいいか?」


「ええ、ゲンさんになら。ライトカーボンメタル錬鋼5本に、堅松樹5本です。」


「はあああっ! れ、錬鋼5本っ!!」


採掘で採れる鉱石は、鉱石と名前が付く。

ライトカーボンメタルなら、ライトカーボンメタル鉱石という風に。

錬鋼とは、それを圧縮したもので、延べ棒のような物。

鉱石10個が1本の錬鋼となる。

つまり、ライトカーボンメタル鉱石を50個使ってることになる。


「堅松樹も5本使ってる上に、錬鋼かよっ・・・。」

ゲンは、呆れて何も言えなくなった。


「私も馬鹿な物を作ってしまったなあと思ってるんですが、こんなロッドを用意してた、運営も運営ですよね。」


VFGXは、プログラム上に存在しないものは作れない。

つまり、用意されていた物という事になる。


「堅松樹どころじゃ、なくなるな。」

ゲンは、恐ろしくなった。


「ただまあ、ここまでのロッドが必要かって事ですけど、タイマーさん以外は不要な物だと思います。」


「そうなのか?」


「川の5層っていうのは、海の3層になりますんで、海に行けば、今までのロッドで十分なんですよ。堅松樹だけで作ったロッドすら不要ですね。」


「まったく、道楽を極めようとするととんでもないってのは、この事だよな。」


「そうですね。私としては道楽で生活させて貰ってるんで、あれこれ言う立場ではないんですが・・・。」


「確かにな。」


「発表したらどうなりますかね?」


「大騒ぎになるだろうな。前線組も何か言ってくるかもだな。」


「しかし、秘密にもできないでしょ?」


「そうだな。アイツは目立つんだろ?」

ゲンは、釣りに没頭してるタイマーを指さした。


「滅茶苦茶目立ってますね。今回2本だけ作れたんですが、もう一本はローラさんに行く予定です。」


「そりゃあ、これ以上ないってくらい目立つだろ。1周年記念人気投票NO.1が使ってるロッドなら皆気になるだろうな。」


「ですね。」


「隠してても騒ぎになりそうだし、困ったことになったなあ。」


「そうなんですよ。ただ今回のロッドは、タイマーさんくらいしか必要とはしない物なんですがねえ。」


「釣り仙人が使ってるとあっちゃあ、使いたくなる奴も出てくるんじゃないのか?」


「困りましたね。」


「ぶっちゃけレシピ公開して、作成できる奴がいるのか?」

ゲンは聞いた。

VFGXでは、レシピが判ってもスキルが上がってなければ、素材を扱う事が出来ない。

更に、よりリアルを追及してる為、生産すらプレイヤースキルが必須となっている。


「ちなみに私が成功させるのも50%なんですが・・・。」


もちろん失敗作品は、使用することも出来ず、NPCに屑値で売るしかない。


「とんでもないもん、作っちまったな・・・。」


「お恥ずかしい・・・。作る前は、どんなものが出来るかワクワクしてたんですが。」


「その気持ちは、生産職やってないと、わからないだろうな。どっちにしろ騒ぎになるなら、注意書きつけて公開したらどうだ?」


「ですかね。下手に隠してると方々に迷惑が掛かりそうですしね。」


「それにロッドメーカーさんで、成功率50%と書いておけば、おいそれと作ってもらおうって思う奴も居ないだろ。」


「そうですね。あとは海に行けば不要なロッドとも付け足しとけば。」


「それがいい。」


「一応、組合にも話通しときますね。」


「一応な。今回のロッドに関係ありそうなのは、俺たちとヨサクくらいだし組合も特になんも言わないだろ。驚くとは思うが・・・。」


二人が、レシピの扱いを相談中も、タイマーは黙々と釣りを続けていた。


嬉々として、釣りを続けていたタイマーだが突然ロッドが消失し、あせった。


「お、俺のブラッククリスタルロッドがっ!」


「ど、どうした!」

ゲンが声をかける。


「ロ、ロッドが・・・。」


「タイマーさん、40時間到達したんでは?」

ロッドメーカーが冷静に言った。


「あっ・・・。」

タイマーは茫然としてしまった。


「何がどうなったんだ?」

ゲンがロッドメーカーに聞いた。


「タイマーさんがあまりに釣りに時間を掛けるんで、運営が時間制限をつけたんですよ。釣りに。」


「そりゃあ、また。えらいとこに目つけられたもんだな。」


「制限っていっても、週に40時間なんですけどね。」


「ちょっ・・・、釣りすぎだろ・・・。さすが釣り仙人だな。」

ゲンは呆れて言った。

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