第35話 ニューロッド

カーボンとは炭素繊維の事である。

鉄と比べると比重が1/4、比強度で10倍、比弾性率が7倍ある。

釣りのロッドに使われているカーボンには、30tカーボンや40tカーボンという表示がある。

これは、カーボンがある程度の変化させるのに必要な力を表している。

簡単に言うと重ければ重いほど高弾性ということになる。

が、トン数が上がれば上がるほど折れやすくなるという特徴もある。


VFGXの開発スタッフは釣りの素人達である。

もちろんロッドの作り方など知りはしない。

カーボンシートなんてものもゲーム内には存在しない。

ロッドメーカーが、このゲームで初めてロッドを制作してみて思った事は、勝手がまったく違うという事だった。

本職がゲーム内でロッド制作に戸惑う位だから、素人には難しいかというと、むしろ、余計な知識がない分簡単なのかもしれない。

ロッド制作におけるレシピという物は、ゲーム内で設定されている。

そのレシピを探すゲームではあるのだが、それを探すのは、かなりの苦労が必要になる。

ロッドメーカーも、今回のニューロッドを作成するために、全てのライトカーボンメタルを使い果たしてしまった。

何せ、作ってみない事には正解かどうかがわからないのだ。

失敗作は、歪なや、出来そこないという文字が最初に着くからすぐわかる。


「申し訳ない、頂いたライトカーボンメタルは全部使ってしまいました。」

平日の昼下がり、最初の川でロッドメーカーは、タイマーと会っていた。


「全然大丈夫です。物さえできれば、万々歳です。」


嬉々としてタイマーは答えた。

ロッドメーカーから、ニューロッドが出来たとメールを貰い、今日待ち合わせていたからだ。


「これが新作ロッドです。」

ロッドメーカーは、2本のロッドをトレードで渡した。




ブラッククリスタルロッド


堅松樹で作られたロッドのフラッグシップモデル。

最高の感度と高弾性で、あなたの釣りライフを至極の物へと導きます。




受け取ったロッドの説明文をみて、タイマーは感動した。

「これで、いけそうですね。名前が変ですけど・・・。」


「ですね。ゲームのアイテムみたいな名前になってますよね。まあ、ゲームなんですけど。」


「2本ありますが?」


「2本作ることが出来ましたんで、お渡しします。このロッドは、タイマーさんくらいしか、欲しがる人は居ないと思いますんで。」


「じゃあ、ローラにあげてもいいですかね?」


「いいですよ。彼女なら使いこなせそうですね。」


「こんちわ。あんたが、タイマーさんか?」

タイマーを訪ねて、見た目がごっついおっさんキャラが話しかけてきた。


「もしかして、ゲンさんですか?」


「ああ、カラットから、聞いてるか?」


「ええ、ライトカーボンメタルありがとうございました。」

タイマーは丁寧に礼を述べた。


「あなたが、炭鉱夫のゲンさんですか、私はロッドメーカーといいます。お噂はかねがね聞いております。」


ロッドメーカーも挨拶をした。


「ああ、あなたがロッドメーカーさんですか。初めまして。」

ゲンも挨拶した。


「お互い組合に所属してますが、会うのは初めてですね。」


「ああ、俺は所属してるけど、あんまり顔出さないんで。」


「私も他に同業者が居ないんで、そんなには顔出さないんですよ。」


「ゲンさん、ロッド触ってみてください。」

タイマーはロッドを手渡した。


トレードと違い、手渡しは、所有権は変わらずアイテムを見せることが出来る。

釣り道具の場合、手渡された方は、使う事も可能である。

そのままにしていると30分で、持ち主のアイテムボックスに戻っていく。


ヒュン、ヒュン。

ゲンは、ロッドを軽く振ってみた。


「俺は釣りは、よくわからんのだが、こりゃあいいものだな。」

出来栄えに満足して、タイマーにロッドを戻した。


「堅松樹とライトカーボンメタルを使ってますからね。私が作った物ではありますが、異常ですよね。」


「ちげえねえ。」

ロッドメーカーとゲンは、呆れて笑ってしまった。


「いやいやいや、釣りの世界って最先端の技術が昔から使われてますよ。」

タイマーが言った。


「確かに、鮎竿なんて最高峰ですけどね。リアルの話ですが・・・。」

ロッドメーカーが補足した。


「これがあれば、5層いけそうな気がします。」


「タイマーさん、今回はソリッドティップにしてますので。」


「え?チューブラとかソリッドってあるんですか?」


「ええ、私もロッドを作りだしてビックリしたんですが。基本的なことは滅茶苦茶なんですが、所々中途半端な知識が盛り込まれてます。」


「このゲームって、おかしな所で凝ってる所があるからなあ。」

ゲンが言った。


「さっそく釣ってみます。」


そう言って、タイマーは釣りを始めた。

しかし、10分経っても何も釣れる気配が無かった。


「お、おい、大丈夫なのか?」

ゲンが心配そうに聞いた。


「今は当たりをスルーしてるんで。」


「そ、そうなのか。」


「川の中に層があるんですが、4層と5層はいつもあるわけじゃあないんですよ。」

タイマーがゲンに説明した。


「本当に、よくわからん所で凝ってるよな・・・。」

ゲンが呆れて言った。


「本当に。」

ロッドメーカーも同じ意見だった。


川の流れが微妙に変わり、4層が現れる予兆をタイマーは感じ取った。

いつものように、ロッドを下に向け、ラインを送り込む。

かすかな感覚で4層をとらえることができた。

更に送り込む。

微妙な層の違いを感じ取った。


【5層だっ!】


タイマーは5層をとらえ、ロッドを30度くらいにして、層を固定した。

あとは、ボタンを押して、層の中に流し込んでいくだけ。

そうしてると。


ピクっ


という僅かな当たりがあった。

タイマーがそれを逃すわけもなく、神速的な速さで合わせを入れる。


見事にヒット!


そこから5分のやり取りをし、そうやく魚があがってきた。


まずまずのキンメダイが釣れた。


「おめでとうございます。」

ロッドメーカーは5層の魚が釣れたことに対して祝辞を述べた。


「すげえな。川で本当に海の魚が釣れるんだな。いいもん見せてもらったよ。」

ゲンは、素直に感動した。


「ありがとうございます。これもお二人の力添えのお蔭です。」

タイマーは、満面の笑みで二人に礼を言った。

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