第34話 ビショップとクレリックの違い
回復系の職業の事をRPGでは、僧侶と呼んだりクレと呼んだりする。
VFGXでは、僧侶の職業ランクは、3段階に分けられている。
クレリック見習い→クレリック→ビショップと。
現状では、ビショップが最上位職となっている。
サービス開始から1年半経った今、ビショップは、おそらく1名しか居ない。
クレリックとビショップの違いは、覚えれるスキルと装備品の違いにある。
ビショップは完全回復特化で、補助魔法が覚えれない。
装備は煌びやかな物が装備でき、めちゃくちゃ目立つ。
教会の面々は、補助魔法が覚えれなくなる為、みなクレリックで止めていた。
回復魔法での違いは、ビショップは全体回復を使える。
が、6人PTのこのゲームでは、範囲回復で十分であり、全体回復の意味がない。
新マップでは、レイドPTを組む事が出来るらしく、そこでは、全体回復が使えるのかもしれない。
が、呪文詠唱時間が長いため、実践で使えるのかも怪しい。
ビショップも何度か使用したが、とても使えるものではなかった。
そもそも3か月前に実装された、その新マップに現状では行けない為、レイドPTが何人で組めるのか等の情報もまったくなかった。
「ランクアップしても、やり直しの書を購入すれば元に戻れますの。」
ランクアップした当初、サーラントは心配して、ビショップに言った。
「元々、補助魔法を使ってなかったからね。暫く頑張ってみるよ。」
「そうですか、やり直しの書が必要になったら、いつでも言ってください。ギルドで購入しますから。」
「ありがとう。」
クレインとの冒険がメインのビショップは、補助魔法を掛ける暇がない。
何せ、特攻武者だから、直ぐにでも回復しないと間に合わない。
当初のクレインは、リアルで足を怪我しており、鬱憤を晴らすためにVFGXを始めたようなものだった。
二人で冒険していたら、回復で手一杯だった。
薬草と呼ばれる所以でもあるが。
カルディナと3人で、冒険してるときは、カルディナが盾として、敵を引き付けるので、補助魔法があればいいなあと思うときもあったが、ビショップと名付けたからには、しょうがないと諦めていた。
クレリック時代に、補助魔法を覚えていた時期もあったことはあったが、補助魔法に回復と、目が回るような忙しさに、速攻で諦めていた。
眠れぬ教会でも、回復と補助魔法を完璧に使い分ける人間は、十人も居ない。
唯一、ビショップが愉悦に浸れる点は、装備だった。
どこかの教会の大僧正のような衣装は、とにかく目立った。
そもそも他にビショップを見たことが無いため、すれ違う人殆どが、振り返っていた。
ビショップは知らなかった、殆どの人が、
「おい、あれ武者たんの薬草だろ?」
と言いながら振り返ってることを・・・。
通常、RPGの回復魔法は大きく分けて2つのタイプがある。
いつでも使えるタイプと戦闘中しか使えないタイプ。
VFGXは、後者のタイプで、僧侶が使えないと言われる所以の1つとなっていた。
「今日は、無理をいってすまないな。」
ギルバルトが、ビショップに言った。
この日は、ギルバルト、シンゲン、ビショップの3人だけだった。
「気にしないでくれ、俺を指名するのはクレインくらいなんで。」
「いつもクレインが迷惑かけて申し訳ない。」
シンゲンが謝った。
「いや、俺は一応リアル知り合いだから。もしなんか問題があったら、俺に言ってくれ。」
「助かる。」
「本当は、他人のスキルを詮索するのは、マナー違反なんだが。」
ギルバルトが言った。
「構わない。俺は特にデュエルに出るわけでもないし。」
「そう言ってくれると助かるよ。」
「しかし全体回復なんて使う日が来るのかね?」
ビショップが聞いた。
「3ヶ月後のVU(バージョンアップ)では、レイドPTが組めるらしい。」
ギルバルトが答えた。
「問題は全体の範囲だよな?自PTだけなのか、レイド全体なのか。」
ビショップが一番気になってることを言った。
「全体回復ってのは、ターゲッティングは無いのか?」
ギルバルトが聞いた。
「無いな。範囲回復の場合は、ターゲットを決めてその範囲を回復するんだが、全体回復には、それがない。」
「なるほどな。問題は発動時間か。」
ギルバルトが気になってたのは発動時間だった。
この日は、発動時間を計測するために3人が集まっていた。
「それじゃあ、俺が盾をするから、シンゲンは待機しておいてくれ。万一ビショップに敵が流れたら、よろしく頼む。」
「わかった。」
そうして、人目がない場所で、全体回復の計測を行った。
「18秒ってとこか。ビショップの装備には呪文詠唱速度アップの効果もついてるんだよな?」
ギルバルトが聞いた。
「もちろん。精一杯頑張って18秒だ。今の6人Ptじゃあ使う事もない。」
「ふむ。」
「レイドPT次第では、クレリックに戻るのか?」
シンゲンが聞いた。
「ここまで、来たからなあ。ビショップで頑張ってみるよ。」
ギルバルトは18秒の時間を頭に叩き込み、何も話さず考え込んでいた。
「ギルバルトはどうかしたのか?」
ビショップがシンゲンンに聞いた。
「頭の中でシミュレートしてる。」
「ほう。」
「前のゲームでは、カペルマイスターと呼ばれていた。」
シンゲンが言う。
前のゲームは、VRではなかったが、レイドPTを組む事が出来た上に、陣営同士の戦争もあった。
「根っからのゲーマーだよな。ギルバルトは。」
ビショップが言った。
【まあ、女性陣には評価されてないみたいだが・・・】
そう、ビショップは思った。
しかし、ギルバルトが評価されてないのではなく、評価されてないのは、
男性陣全般に言えた事だった。
女は強し。
「全体回復は、スキルスロットの圧迫にならないか?」
シミュレートが終わったのか、ギルバルトがビショップに聞いた。
「全然、ならない。そもそも補助系がまったく覚えられないからな。全体入れなかったら、スキルスロットが余ってしまう。」
「そうか、もし変更する事があったら、教えてくれ。」
「ああ。」
「それとクレリックに戻りたい場合は、気軽に言ってくれ、やり直しの書なら俺がなんとかするので。」
「前にサーラントにも言われたよ。まあ教会に迷惑は掛けたくないんで、その時は、ギルバルトに頼むよ。」
どのネットゲームもそうだが、同性同士というのは仲良くなる速度も速い。
その分喧嘩する速度も速いのだが・・・。
この3人に至っては、ゲーム内で女性で苦労してるという共通点があり、まさに同志という感じであった。
まあ、ビショップに至っては、リアルでも苦労しているのだが・・・。
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