第22話 リアル過去編「退院」
「退院おめでとう、沙羅ちゃん。」
そういって、外科医は、花束を沙羅に渡した。
よく、テレビドラマで見る光景だが、実際にこんな事は、稀である。
入院したことがある人なら、わかると思うが、
花束どころから、おめでとうとさえ言われない。
担当の看護士が淡々と説明して、お大事にと言われるぐらいだ。
が、橘沙羅の場合は1年以上も入院していた為、通常の短期入院とは、違ったものになる。
「いやあ、本当に元気になってよかったよ。」
気弱そうな心療内科の先生が言った。
「先生には本当に感謝してます。VR機も頂いて。」
「いえ、医療用に使えないかってメーカーから無料で貰ってたものなんで、構いません。」
「しかし、他の患者さんとかに?」
「うちの病院に何台もあるんですが、殆どの先生は使わないので、大丈夫ですよ。」
「もしかして、鏡子先生も持ってます?」
沙羅は、外科の先生に聞いた。
「うん。持ってるわよ。」
「ゲームなんて、やってます?」
沙羅は、ある期待をもって聞いてみた。
あの人が、鏡子先生だったらと、ずっと思っていた。
ただ、ON時間の関係から、違うという事もなんとなくわかっていたが。
「貰ったんだけど、埃被ってて。」
「そうですか。」
やっぱり・・・。
「ゲームとか面白いの?」
「ええ、もう一つの世界があるみたいな感じです。」
「へー。」
「もし、ゲームを始められるんでしたら、私が教えてあげますよ。」
「そうね。時間があったらやってみるかも。それよりも、沙羅ちゃん。勉強の方もしっかりね。」
「はいっ。」
沙羅は、休学してるため、学年は同級生たちより2つ下の学年になる。
いざ、自分が死なないとなると、今度は生きていく為の悩みが出てきた。
クラスに馴染めないのではと。
入院中に直直、顔を出してきた佐柄鏡子に、沙羅は相談してみた。
「クラスに馴染めないかが心配なの?」
「ええ、今、見舞いに来てくれてる友人も私が退院する頃には、3年生になってると思うんです。」
「そうねえ。沙羅ちゃんは、将来なりたいものとかあるの?」
「はい、あります。鏡子先生のように医者になりたいです。」
「そっかあ、医者かあ。だったら、悩む必要はないわ。」
「え?」
「医者になるには、ひたすら勉強あるのみよ!」
「・・・。」
「私の高校の時なんて、進学クラスだったから。友達とか作ってる暇は、なかったのよ。」
「お医者さんって、みんなそうなんですか?」
「どうかな?うちは、裕福ってわけでもなかったから、大学は国立じゃないと駄目ってのもあったんだけどね。」
「うちは・・・。病気で、迷惑かけちゃってるから・・・。」
「じゃあ、入院してるうちに勉強しましょうか?」
「そ、そうですね・・・。」
「今の時代、飛び級なんて普通なんだから。退院して友達に追いつくこともできるかもよ。」
「それだと今度は大学受験が大変そうで・・・。」
「そうね。国立目指すなら、飛び級せずにじっくり勉強するのがいいかもね。」
「はい。あのう・・・、ゲームとかはやらない方がいいんですかね?」
「あのVR機?」
「はい・・・。」
鏡子は、少し考えた。手術前の落ち込み様を立ち直らせた要因にゲームの存在は小さくは、なかった。
「そうね、節度をもってやればいいかな?」
「はいっ。」
沙羅は、嬉しそうに返事をした。
「それから、リハビリは、ちゃんとやる事。」
「は・・・、はい・・・・。」
そんな、悩みもあった沙羅も、ようやく退院することができた。
こうして、沙羅の高校生活が、今、始まる。
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