第21話 生産職とは

VR機の生産職は、辛い。

何せ、バーチャルリアリティだけあって、放置というものが存在しない。

木こりであれば、木を伐採し、坑夫であれば、掘らなければならない。

いい加減にやれば、歪な木材や歪な鉱石になってしまい、

武器や防具に使うことができない。安物素材としてNPC売りするしかないのだ。

リアルで林業や鉱業に従事してる人からすれば、なんでゲームまで、そんな事しなきゃならんのよと人気は低い。


バーチャルリアリティのゲームで、メーカーもユーザーも頭を悩ますのが第一次産業だ。

多くのゲームでは、NPCから購入する方法をとっているが、バーチャルファンタジーGXでは、よりリアルに追及してしまった。

釣りからして、無意味なところに懲りすぎた感がある。


そんな、不評の生産職でも、木こりはまだ居る方だ。

古の昔に木こりのゲームが大ブームになった時代の名残なのだろうか?

(本来は、木を伐採するゲームなのだが、いつしか猪を狩るゲームと化してしまったゲームである。)


炭鉱夫に至っては、壊滅的だ。

暗い洞窟で、黙々と作業するのは、耐えれないと辞めていくものも多い。

古の昔、炭鉱夫のゲームがあり、人々の遺伝子に嫌な記憶を残してる影響があるのかもしれない。

(本来はモンスターを狩るゲームなのだが、炭鉱夫をしている時間の方が長いという伝説のゲームが、その昔、存在していた。)


「よう、カンピオーネこっちだ。」


「ヨサクさん、僕の名前は、カラットです。」

陰鬱な森の前で、ヨサクとカラットは待ち合わせをしていた。


「こいつがゲンだ。坑夫の中じゃあNO.1だな。」


「勝手にお前が言ってるだけだろ。俺はゲン、あんたがチャンピオンの中のチャンピオン、カラットさんだな。噂はかねがね聞いているぜ。」


「カラットでいいですよ、ゲンさん。今日は無理言ってすみません。」


「気にするな。ヨサクの友人の頼みなら、おやすいもんさ。」


「じゃあいいか、二人とも各自ソロで、陰鬱な森を抜ける。で、速い奴はカンピオーネが始末するって事でいいな。」


「任してください。」


このバーチャルファンタジーGXは、6人PTのゲームである。

戦闘はシンボルエンカウント制になっている。

シンボルと接触すると、バトルフィールドの範囲が設定される。

円状の範囲になっており、線外に出ると逃げが成功となる。

一度逃げたシンボルが、再び追いかけてくることはない。

ただ、蜂系の素早い敵は、逃げる時に一撃食らってしまう。

で、無防備で攻撃を受けた場合は、高確率で痺れが発生する。

その為、蜂系が多い陰鬱な森は、多くの死者を量産している。

カラットたちが、各自ソロで、抜けようとしてるのは、

シンボルエンカウントの敵の数が関係している。


ソロでエンカウントした場合は、敵の数が1~3匹。

二人だと、2~4匹

三人だと、3~5匹

となってるからだ。

いくら、カラットが強いといっても5匹が全て蜂だった場合は、

誰かが死亡する可能性が高い。


このバーチャルファンタジーGXは、戦闘中に支援が出来る。

それもほぼ無制限に。

ただし、支援には何の旨みもない。

金やアイテムドロップも最初にエンカウントしたPTにしか出ない。

つまり、支援者は善意の第三者ということになる。


途中、カラットが何回か、蜂系を退治し、3人は無事に陰鬱な森を

抜けることに成功した。


「さて無事についたし、ヨサク達はどうする?」


「採掘見ててもいいですか?」


「ああ、構わんが、面白みもなんもないぜ?」


「話とかすると、邪魔になります?」


「いや、全然大丈夫だ。」


「じゃあ見学させてください。」


「わかった、ヨサクは、堅松樹でも伐採するのか?」


「いや・・・、当分いいわ。俺も見学しとく。」


三人は、閉ざされた門の近くにある坑道へ移動した。

入口付近には、モンスターは居らず絶好の採掘場所だ。

が、もちろん、誰も居ない。

そもそも、ここで採掘するには、採掘スキルLvが30以上は、必須になる。

採掘スキルがLv30を超えている人間は数えるくらいしかいない。

生産組合に所属しているヨサクが知っているのは、ゲンくらいだ。


生産組合は、ギルドではない。

数少ない生産者同士、頑張っていこうという事でギルドの枠を超えた組織となっている。

ソロ行動が多いヨサクとゲンも組合に所属していた。


「そういや、特に聞いてなかったんだが、ライトカーボンメタルは、今度のデュエル大会で、使用するのか?」


カン、カンっ。

ツルハシを振り下ろしながら、ゲンは聞いた。


「いえ、今度の大会は限定戦になってまして、防具にも使えないんですよ。」


「ああ、ランク2以下の防具だったな、そういや。」


「僕は、魔拳士なんで、武器もありませんし。」


「じゃあ、知り合いが?」


「ええ、リアルの先輩がやってるんですが、その人が使いたいと。」


「ほー。」


「カンピオーネの先輩というと、攻略組か?」


ヨサクが聞いた。


「いえ、冒険は、まったくしてないかと。」


「そいつは、また凄いな。俺やヨサクでさえ、合間に冒険してるのにな。」


「まあな、空いたスキルに戦闘系を入れてなけりゃあ、いくら逃げでも、陰鬱な森なんて、抜けれないからな。」


「だな。」


「ふむ、まったく冒険してないっていうとアレかっ!仙人だな。」

ゲンが言った。


「ああ、速攻でクールタイム食らった、釣り馬鹿か?」


「ええ。」


「すげえな、ライトカーボンメタルを使おうってのか。」


「何でも実際の釣り具屋のメーカーの方と知り合いになったらしく。」


「ああ、ロッドメーカーさんだろ。アップライスだな。」


「ヨサク知ってんのか?」


「ああ、釣竿の老舗メーカーで、VFGXのロッドのレシピをサイトに載せてる。」


「ほう。レシピって中々公開しないもんだがな。」


「向こうは、宣伝兼ねてるからな。ロッドメーカーさんも組合に所属してて、レシピ公開の前には、組合の許可をとってたぞ。」


「まあ、組合で釣竿作ってる奴なんて、あんまり聞いたことねえからな。」


「やっぱり、競合する人が居たら、問題になるんですかね?」


「まあな、下手にレシピ公開してしまうと、物が売れなくなるからなあ。」

ヨサクが言った。


「爆発的に素材が枯渇してしまう原因にもなるからな。」

ゲンがとある事件の事を突っ込んだ。


「うっ・・・。」


「誰かさんみたいに、女に全部貢ぐとかなw」


「アホぬかせっ!ローラたんは、そんな女じゃねえ。ちゃんと相場通りに買ってくれてたわっ!」


「うーん・・・。」


「どうした、カラット?」


「ローラさんの時も、元は先輩が原因なんですが、カーボンライトメタルも・・・」


「な、何っ!?」


「そりゃいいこと聞いた。俺がデートしてやろうかな。」

ゲンがからかい口調で言った。


「ふ、ふざけるなっ!!」


「さすがにカーボンライトメタルは、攻略組でも在庫はあまりないだろう。」


「くっ・・・。ゲ、ゲン・・・在庫全部売ってくれ・・・。」


「売るか、ボケッ。安心しろ、ローラとかいうのにも売らないから。」


「ほ、本当だな!」

ヨサクは念を押して聞いた。


「組合でも問題になったし、攻略ギルドから苦情も出たらしいから。あんなことはもうねえよ。」


「ううう・・・。」


「ヨサクさん、釣りデートなら、先輩に頼んでみましょうか?」


「!!!」


「ゲンさんを紹介して貰ったし、それ位なら先輩にさせますよ?」


「た、頼みますっ!カンピオーネさんっ。」


「まったく、こいつのは病気だな・・・。俺はロッドが完成したら、仙人の釣りが見てみてえ。」


「それも言っときますね。」


「ああ、頼むよ。」


VFGXは、他のVR機同様に連続ログイン時間は2時間となっている。

ログアウトすれば、登録地点に戻される。

その為、採掘出来る時間は、2時間から到達までの時間を引いた時間となる。


この日、採掘したカーボンライトメタルは、半分をカラットに無償で手渡した。

カラットは、相場の金を払うと言ったが、ゲンは受け取らなかった。

お互い名刺交換し、三人は、リミットの5分前にログアウトした。

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