第19話 リアルコンパ

「初めまして、時野正41歳、無職です」


「やだ、時野さん、マジ受ける~」

時野の斜め前に座った看護士が笑いながら言った。


今日は4対4のコンパの日。

4人テーブルで2つに別れて座っていた。

時野の隣には、常盤亮一が。


「先輩は、逆玉狙ってるんで、注意してくださいね。」

常盤が女性に忠告した。


「マジぃ?なら先生は、尚更気を付けないと。」

そう言って看護士は、時野の正面に座ってる女性に声をかけた。

髪を若干染めていて、軽くウェーブもかかっており、

とても先生には見えない風貌だった。


「えっ、病院の先生なんですか?」

常盤が驚いて、聞いた。


「え、ええまあ、今日は人数合わせで連れてこられました。」


「奇遇ですね。自分もなんですよ。先生、自己紹介お願いします。」

すかさず時野が自己紹介を勧める。


「えっと、佐柄鏡子です。いちおう医師をやってます。」


「キョウコさんですか、いい名前ですね。」

そう言って、時野はいつの間にか手を握り相手の瞳を見つめる。


「ちょっと時野さん。」

隣の看護士が注意する。


「常盤君、時野さんってこういう人なの?」


「ええ、そういう人です。」


「じゃあ、しょうがないかっ。先生気を付けてくださいね。次、手を握られたら、叫んじゃってください。」


「だ、大丈夫よ。慣れっこだから。」


「さすがっ。先生は、美人でモテるから。」


「そ、そうでもないと思うんだけど。」


「時に、キョウコさん、キョウコさんのキョウの字は、鏡ですか?」

時野が聞いた。


「すっごい、中々でなくないですか?」

看護士が驚いて言った。


「そ、そうよね。キョウの字とか多いから。」


「鏡で、ミラー。それでミラちゃんなんですね。」

ガタっ。

突然、佐柄鏡子は立ち上がった。


「え、ミラさんなんですか?」

常盤が聞いた。


「ゆ、裕子ちゃん、ごめんなさい急用がっ。」

鏡子は、別のテーブルにいる幹事に声を掛けた。


「えっ、鏡子先生、4対4なんで抜けられると・・・。」


「だ、大丈夫、この人も連れていくから。」


「「「えっ」」」

時野のテーブルの3人が驚いた。


「えっ、先生?」

幹事が驚いてると、鏡子は時野の腕を引っ張り、店を出て行った。


「先輩がお持ち帰りされちゃった・・・。」


「「「先生がお持ち帰りした???」」」



「鏡子さん何処まで?」

店を出て、しばらくしてから、時野は声を掛けた。


「じゃあ、ここで解散で・・・。」


「えっ・・・。」


「時野さんも数合わせなんですよね?それとも、本気で逆玉を?」


「いえ、それはいいんですが、何も食べてないんですが・・・。」

最初の自己紹介で、引っ張り出されてしまい、空腹の時野。


「私は、お腹すいてませんので、これで。」

そう言って帰ろうとしたとき、


くぅ~


可愛らしいお腹の音が鳴った。


「減ってるんじゃないですか?」


「減ってません。」


「何処か、飯でも?」


「行きません!」


「警戒してます?」


「はい!」


「・・・。パルコさんですか?」


「ええ、時野さんのような男性には気を付けてとよく聞かされてますんで。」


「飯くらいよくないです?」


「良くないです!」


「・・・。」


「・・・」


「じゃあ、屋台なんかどうですか?」


「屋台?」


「ええ、行ったことありませんか?」


「ないですけど・・・。」


「屋台で軽くラーメン食って解散はどうでしょう?」


「うーん・・・、屋台ならいいかなあ・・・。」

屋台というものに、ムード的なものを感じない為、やむなく鏡子は了承した。


「よくこういう所来るんですか?」

屋台でラーメンを食べながら鏡子は聞いた。


「前は、たまに。無職になってからは、初めてかな。」


「就職活動せずに、コンパってどうかと思いますよ?」


「夜に就活はしないでしょ?」


「まあ、そうですけど。」


「鏡子さんなら、モテそうですし、コンパなんて行かなくても?」


「私は、数合わせです。どうしても他に空いてる看護士が居なかったんで。」


「幹事に連れてこられたんですか?」


「はい。それより、どうして私が、ミラだってわかったんですか?」


「大概、わかりますよ?」


「普通はわからないと思うんですけど。」


「だって俺の事わかったでしょ?」


「時野さんは、ゲームで名前名乗ったじゃないですか。」


「ああ、なるほどw」


「カラットさんなんでしょ、常盤君が。」


「わかります?」


「そりゃあ、口調は、そのままだし、見た目も似てるし、先輩って、呼んでたら誰だってわかるかと。」


「まあ、あいつは、まったく気にしない人間なんで、マンマなんですよ。ゲームだと自分の中にキャラ作って、口調とかも変える人がいるでしょ?」


「ええ。」


「でもね、VR機って仕草というか雰囲気というか、実際の人と同じように、人それぞれ違うんですよ。その人特有の癖や仕草なんてついついでちゃうでしょ?」


「そうなんでしょうか?」


「脳波を拾ってるんで、体を介してませんからね、余計ダイレクトに出るんじゃないかなあと。」


「パルちゃんや、ヴォルグさんも直ぐわかりましたよね?」


「パルコさんは自滅したようなもんですけどね。」


「リアルネームなんか言うからですよ。」


「確かに。そうだ、今度オフ会やりませんか?」


「オフ会ですか?」


「ええ、昨日は、常盤をみんなに紹介して、ちょっとしたプチオフ会をしたんですよ。」


「パルちゃんが参加するなら行ってもいいですけど。」


「あれ、まだ警戒してます?」


「もちろんw」


二人は連絡先を交換して、色っぽいことも何事もなく帰宅した。

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