第7話 とある木こりの悲恋歌
俺の名前はヨサク。木こりをやっている。
いわゆる生産職ってやつだ。
でもなあ、ただの生産職じゃあねえ戦う生産職だ。
武器は斧を使ってる。
このVFGXでは、斧は戦闘も出来るし伐採も出来る。
一石二鳥の優れた相棒さ。
そうして俺は、今日も伐採にあけくれる。
最近の俺のターゲットは堅松樹。
これが非常に難しい。
何せ伐採できるのは、「陰鬱な森」を抜けた「閉ざされた門」
の周りだけ。
大手ギルドが魔術師用の杖の為に、伐採ツアーを敢行したが、
普通のギルドには、とても真似出来ねえ。
その方法はこうだ。
木こりPT6人を他の6人PT4組が囲むように守って森を抜け
伐採中も4組のPTが護衛するというものだ。
ありえねえ。
まあ何度かこういうツアーが組まれた事で、前線組の杖職には、
杖がある程度は行き渡ったみたいだが。
まあ、俺には関係無い。
といっても俺自身ツアーに参加した事もあるので、まったく
無関係というわけじゃあないがな。
で、俺が今どうしてるかっていうと。
毎日「陰鬱な森」をソロでアタックしている。
このゲームの場合、デスペナルティは15分ON出来なくなる事だけ。
しかも普通のゲームにあるような蘇生が存在しない。
死んで生き返るってのは、変な話だが、ゲームの世界じゃあ当たり前となってる。
で、蘇生が存在しないっていう話が広まって、僧侶が他のゲーム以上に少なくなってしまってる。
蘇生がなけりゃあ僧侶が要らないって訳じゃねえ。
むしろ他のゲームと一緒で、PTに1人必須なのは変わりない。
それは置いといてだ。そもそも前線組でさえ苦労してる「陰鬱な森」をソロで抜けれるかって問題があるが、可能だ。
何人かは、ソロで抜けている。
え?抜けた先に何があるかって?
村があるだけだが、ゲートもなく復帰地点の登録もできねえ。
回復するためだけの村だ。
そして、村の先に開かずの扉がそびえ立っている。
その先には、新しいマップが実装されてる。
3ヶ月も前に実装されたのに未だに扉が開かないってのは、
俺も正直、どうなんだ?それでいいのか運営って思ったりもする。
でだ、俺には扉は、今は関係無い。
俺が欲しいのは堅松樹だけだ。
沸いてるのを拾いに行く訳じゃあねえ。そんな効率が悪い事はしない。
何せ木こりだからな。伐採してやんよ!
と意気込んではみたが、来る日も来る日も森で死んでしまう。
本当にソロで抜けれるのか?と何度も色んなサイトを確認する毎日だ。
とにかく森の敵が早い。
完全に逃げるのは不可能だ。
他の奴らは、敵をみて、素早い敵だけを倒し、進んでいるらしい。
何度も何度も死んだお陰で、早い敵は全て覚えた。
まじか、これ勝てるのか?と速さに翻弄される毎日が続いた。
それでも、何度も何度も死んだお陰で、ようやく敵の動きが読める
ようになった。
斧ってのは、威力はあるが隙が他の武器より大きい。
つまり先読みして攻撃しなきゃあ当たらない武器だ。
俺が何度死んだと思ってんだ。
そうして苦労に苦労を重ね。ついに「陰鬱な森」を抜ける事が出来た。
この達成感がたまらねえ。
恐らく、木こりソロで抜けたのは、俺が初めてだろう。
で、気を引き締めて、堅松樹を伐採しに行った。
3本伐採したところで、敵の襲撃を受け死んだ。
まあ予想通りだ。
正直、5本くらい行けるんでね?と甘い考えもチラッとはあったがな。
それから、コツコツコツコツ頑張った。
「陰鬱な森」は、確実に抜けれるわけでなく死ぬ時もあった。
こんなこともあった。
1人で、走って森を抜けてると、他のソロのやつに出会った。
この日は、運が悪く素早い敵が3匹襲ってきた。
ここで他のやつに迷惑をかけるわけにはいかねえと覚悟を決めたが、
「僕がやっつけますんで、構わず行って下さい。」
こんな漢っぷりを見せられて、そのまま行ったんじゃあ漢が廃るとは、思わなかった。
「すまん、恩に着る。」
こうして、俺は1人森を抜ける事が出来た。
あいつなら、早い敵が3匹でも勝つんだろうな。
ゲーム内でいう有名人って奴だ。
俺でも知ってるような。
それから堅松樹を3本伐採した所で、襲撃を受けた。
ここの敵は、森よりは早くないが、勝てる気はしねえ。
だから、いつも死ぬのを覚悟で伐採し続けてるわけだが。
その敵が、瞬殺された。
先ほどの漢に。
「よかったら、護衛しましょうか?」
「いや、かまわねえでくれ。さっきも助けて貰って、本当に感謝してる。」
「そうですか、じゃあ@1回だけ敵を倒しちゃいますね。」
漢じゃねえか。
一時期、ネットで、我が儘だとか自分勝手だとかボロクソ文句書かれてが、こいつは真の漢だ。
この時は、9本も伐採できた。
そうして、コツコツコツコツ貯めた堅松樹。
俺は、ついに勝負にでた。
「す、すみません。けけけけ、堅松樹を売りに来たんですが・・・」
緊張のあまり、噛んでしまった。
「はい、トレード開きますね。」
にっこりと女神のような笑顔で言われた。
「すごーい。いいんですかこんなに?」
「え、ええ。」
「ありがとうございます。」
そう言って俺の両手を握ってきた。
この時、俺は確信したね。釣りデートは俺のもんだって。
「後日、上位3名の発表しますんで、期待して待っててくださいね。」
「は、はい。」
彼女の笑顔を見て、俺は思った。
ああ、俺はこの日のために、何度も何度も死んでも死んでも、
頑張ったんだろうなあと。
後日、発表を見た俺は、
・・・orz
3位にすら名前は無かった><
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