第5話 釣りデートは誰の手に

「あなたがローラさんですか?」


いつものようにローラとタイマーが仲良く釣りしてると、後ろから女性の声がした。

二人が後ろを振り向くと、そこには鎧武者がいた。


「えっと、どなた?」

ローラが、性別不詳の鎧武者に問い返した。


「堅松樹を売りに来ました。」


「あ、ああ、じゃあトレードするね。」

トレードウィンドウを開きローラは確認した。


「えっ、ちょっと・・・。」

ローラは堅松樹のあまりの多さに困惑した。


「さすがに今は、お支払い出来る持ち合わせがないわ。ギルドの方も無理ね。木工職人の方と相談した後、後日、取引お願いできるかしら?」


「それでしたら、代金は後日で結構です。その代わりと言っては何ですが、今後こういった事は、辞めて下さい。」


「それは、デートの事?」


「ええ。」


「何、デートって?」

タイマーが聞いた。


「堅松樹は、前線組しか持ってないでしょ?だから、一番多く売ってくれた人に、釣りデートしてあげる事にしたの。」


「なるほど。」


「納得しないで下さい。あなた彼氏さんですよね?」

フルフルと二人が首を振った。


「仲良く寄り添って釣りしてましたよ?」


「「釣り仲間です」」

二人が、声をあわせて答えた。


「???」


「お互いリアルも知らないし、恋人っていうなら、ゲーム内だけ?変でしょ、そういうの。」


「た、確かに・・・。」


「それに前線組の人って釣りは、しない人多いでしょ?釣りデートして、少しでも釣りの楽しみをわかって貰えたらなあと。」


「そういうのは、何か嫌ですっ!だから今後は辞めて下さい。」


「でもね、何処も回してくれなかった堅松樹が、今ではかなりの数が集まってるんだけど?」


「今後は、私に相談して下さい。」


「確かにねえ。これだけ集めるなんて凄い人脈よね?」


「私のギルド「野武士」と同盟ギルド「聖騎士団」の2つのギルドから、かき集めました。私が一番って事ですよね?」


「そうね。断トツよ。名刺交換いいかしら?」


「どうぞ。」

二人は名刺交換をした。


「なるほどね。あなたが野武士のクレインさんね。刀使いで右に出る者が居ないとか。」


「日本刀なら、誰にも負けません。」


「実力に裏付けされた自信のようね。こちらも釣りデートって条件付けてるから公表はさせて貰うけど?」


「構いません。」


「それと、ギルドの方で釣りデートしたいって人居たら、ここに来て貰ったら、私が釣りを教えてあげるんだけど?」


「必要ありません。他の前線組はどうか知りませんが、2つのギルドに、その様な輩は1人もおりません。」


「へえ、そう? ふふふ。」


クレインの堅松樹集めには、一悶着あった。

野武士に関しては、誰1人逆らえず、泣く泣く堅松樹をクレインに差し出したが、

同盟関係にある聖騎士団は、ただ一人真っ向からクレインに対立した。


「このような取引は、間違っています。大人しく堅松樹を渡して下さい。」


「断るっ!俺はローラたんの為なら、命を張れるっ!」

野武士の面々と聖騎士団の面々は、心の中で反抗してる奴を応援した。


「そうですか、じゃあデュエルで決着を。」


「の、望む所だ。」


このゲームのPvPは、闘技場でしかする事が出来ない。

闘技場で双方が登録して、初めてPvPがとりおこなわれる。


「いつでもどうぞ。」

水の構えで剣先を相手に向け、クレインは威圧した。


「くっ、ええいっ!」


片手剣の相手は、盾を尽きだし、ショルダーアタックをかました。

クレインは160センチもない小柄なキャラだが、このゲームに人間同士の

体重差は存在しない。


クレインは攻撃を受けず、あっさりとかわした。

そうして無防備になった相手に、自慢の日本刀を振り下ろす。

防具で固めてる相手を、お構いなしに一刀両断した。

あっという間に勝負はついた。


「まだやりますか?」


「うううう、うわーーーーん。」

ついに泣き出してしまった。


「「「お前そこまでローラたんの事を。」」」

周りで見てた、隠れローラファンの仲間が心の中で同情した。


クレインは、ゆっくりと泣いてる彼に近づき、肩をポンポンと叩いた。


「「「おおおー 見逃して貰えるのか?」」」


「いいから、さっさと出しなさい!」

問答無用で、言葉で斬りつけた。


「うわーーーん。」

大泣きしながらも、トレードに応じ堅松樹を差し出した。


「「「だよねー・・・。」」」



「もしかして、あなたが釣り仙人さんですか?」

クレインは、タイマーの方を向いて聞いた。


「うむ、わしが釣り仙人じゃ。若いおなごはええのう」


「えっ・・・。」

いつのまにか、手を持ち頬でその手にスリスリをかましていた。


「タイマーって、そんなキャラだったんだ。ふーん。」

ローラが、ガチで白い目をしてたので、


「申し訳ありません。お嬢さん。少し悪ふざけをしてしまいました。」

今度は、ちゃんと膝をおり、丁寧な挨拶をした。


「・・・。」

クレインは更に戸惑った。


「気にしないでね。そういう人よ。」

ローラがクレインに忠告した。


「あなた「鋼の翼」の人ですよね?」


「何それ?」


「ギルドの名前よ。タイマーは後輩君と同じギルドなんでしょ?」

ローラがタイマーに聞いた。


「どうやって確認するの?」


「しょうがないなあ。」

そういって、ローラはタイマーの横に密着して、ステータス画面の出し方を説明した。


「「「爆ぜろっ!」」」

ローラ親衛隊の方々は心の中で念じた。


「密着しすぎです!何か嫌です。」


「あら?子供には刺激が強すぎたかしら?」


「私は子供じゃありません。」

女と女の火花が散るっ。


「なんかそのギルドに入ってるみたいだ。」


「では、お伝え頂けますか?カンピオーネに」


「誰それ・・・。」


「・・・」


「いや、鋼の翼だっけ、居ないよ?本当に。」


「名前、忘れました。」

クレインは、ボソっと言った。


「・・・」

今度は、タイマーが無言になった。


「カンピオーネのカラットさんでしょ。」

変わって、ローラが答えた。


「あいつ、そんな名前だったっけ?」


「通り名ってのがあるのよ。あなたの釣り仙人みたいにね。」


「ああ、なるほど。」


「ちなみに目の前のクレインさんは、武者子ね。」


「その通り名は、何か嫌ですっ!」


「じゃあ、武者たんってのもあったわよね?」


「それも嫌ですっ!」


「通り名ってさ、本人の希望は通らないもんだよ。」

タイマーが諭すように言う。


「その上から発言も、何か嫌ですっ!とにかくカンピオーネに伝えて下さい。首を洗って待ってろと。」


「ごめん。意味わからないんだけど・・・。」

タイマーは真顔で聞いた。


「・・・」


「あっ、私がタイマーに説明しといてあげるから。」


「お、お願いします。」

そう言って、武者たん、もといクレインは去っていった。


「何なのアレ?」


「宣戦布告でしょ。デュエル大会の。」


「カラットに?」


「無敗のチャンピオンこと、カンピーネよ。」


「あいつゲーム内でも強いのか・・・。」


「このVR機は、脳波を拾ってるでしょ。だからイメージが強い方がより効果的ね。」


「リアルで強ければ、イメージもしやすいって事か。」


「一概には言えないけど。後輩君はそうなんじゃない?」


「とりあえず、「武者たんがお前を狙ってる」って言えばいいのかな?」


「そうね。それで十分伝わると思うわ。」


「で、デュエル大会っていつあるの?」


「再来週よ。夜9時からだから、何とか時間作ろうかなあ?タイマーが招待してくれるならだけど?」


「招待って何?」


「「鋼の翼」は、デュエルの最高位のギルドよ。大会中はギルドの特等席が用意されるわ。」


「え、俺ってそんなギルドに入ってるの?てか他の奴も出てるのか・・・」


「いえ、ギルドというよりカンピオーネのギルドって事ね。他のギルドメンバーの名前がデュエル大会で出た事はないわ。」


「で、その招待って俺みたいな下っ端でも出来るの?」


「ギルドメンバーなら誰でも出来るわ。」


「了解。招待のやり方、聞いとくよ。」


「嬉しいわ。ドレスアップして行くから期待してて。」


「期待しておくよ。」

そういって膝をつき、手の甲に口づけした。


「「「ちっ」」」



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