第3話 いつもの居酒屋で
「先輩って運営に目をつけられてます?」
いつもの居酒屋で、常磐が言った。
「いやあ、そんな事はないと思うが・・・。大将、ビールとコーラおかわりね。」
時野は自分のビールと常磐のコーラを注文した。
「珍しいですよね?先輩が僕の奢りを受け入れるなんて?」
「そうだっけ?」
「そうですよ。今まで一回も僕が払った事はないですよ?」
「前は、上司だったけど、今は無職だからなあ。」
「最後の方って僕の方が給料よくなかったです?」
「まあなあ。役職は、給料50%カットとかザラだったからなあ。」
「周りが潰れて行く中、結構頑張ってましたよね?」
「急成長で、一応一部上場したからなあ。」
「仕事も凄く減ったって感じも無かったですよ?」
「まあ、あれだ。3代目が暴走しちゃったからなあ。」
「そういや先輩、3代目には嫌われてましたよね。」
「そうかあ?それなりに旨くやれてたとは思うんだが。」
「先輩が3代目の愛人候補を辞めらすからですよ。」
「へ?」
「先輩のせいで辞めた女性の中に3代目が狙ってた娘が居たの知らないんですか?」
「なにそれ?初耳なんだが・・・。」
「僕が入る前だと思うんで、噂で聞いただけですけど。」
「そもそも、俺のせいで辞めた女性は一人も居ないぞ?」
「へー・・・。」
白々しい目で常磐は、時野を見た。
「なんだ、その目は・・・。」
未だかつて時野は女性を口説いた事がない。
結婚した時でさえ、理由は子供が出来たからだ。
基本的というかポリシーというか、時野は女性に嘘はつかない。
新人を時野が教えると8割の新人女性が時野に惚れるという。
速攻で、新人担当を外される目にもあっている。
男女問わず、部下には優しい&頼れる上司を実践しており、
リアル耕作とも言われていた。
3代目に狙われた女性の辞めた真相はこうだ。
あまりにも3代目の執拗な誘いに困り果てた女性は、時野に相談した。
時野は、即座に3代目に釘を刺した。
当時、専務だった3代目に、
「これ以上、彼女につきまとうなら、社長に報告します。」
と。
先代の元で、会社の為に尽くしてきた時野は、それなりに発言力があった。
3代目は、渋々、彼女を諦めた。
ここまでなら、ただの美談で終わっていたし、3代目も時野をそこまで、
嫌う事はなかっただろう。
問題は、その後だった。
男女関係の摂理なのか、定石なのか、当然、彼女は時野に惚れてしまった。
当時、時野には妻子が居た。
彼女は、何とか時野と結ばれたいと願ったが、成就する事は無かった。
それでも時野は、優しい&頼れる上司であった為、これ以上会社に居る事が苦痛となってしまった。
彼女は、退職願を会社に提出し、最後に時野にお願いした。
「私の最後のお願いです。一晩だけ、私と付き合って下さい。」
泣きながら懇願する彼女の願いを、時野はあっさり受け入れた。
時野は、まったく浮気をしないというタイプではない。
自分に妻子があるのは、最初に相手には伝える。
その上で、後腐れがないような女性の願いは、受けいるという
半外道の行為を平然としていた。
(但し、本人には全く悪気がない。)
で、運悪く彼女とホテルから出て行く所を、やけ酒で朝帰りしてる3代目に
目撃されてしまった。
当時、課長補佐だった時野は、見事、主任への降格を果たしたのであった。
「大将、ビールおかわり。」
常磐のコーラは、半分残っており、時野は自分のだけを注文した。
「先輩、酔わない癖にビールなんか飲んで美味しいんですか?」
「俺だって酔うフリというか、酔った感じで愚痴は言うだろ。」
「フリだったんですか・・・。まあ散々愚痴垂れて、飲み屋を出たら、平然としてますよね。」
「女性の話を聞く時に酔ってたら失礼だろ?」
「意味がわかりません。」
「そういやあ聞いてなかったけど、何の会社で働いてるんだ?」
「ゲーム会社ですよ。」
「えっ・・・。なんでまた?お前なら、色んな会社がほっとかないと思うんだが。」
「ゲームは趣味だけと思ってたんですけどね。たまたま募集あって、興味本位で受けてみたら、あっさり受かっちゃったんで。」
「くっ・・・。うらやましくないっ」
「なんで、泣きそうなんですか・・・。」
「何のゲーム作ってるんだ?」
「ガンフィールドっていうゲームなんですけどね。先輩は知らないかと。」
「うーん、どっかで聞いたような・・・。」
「それより、先輩。コンパの件、考えてくれました?」
「マジで言ってたのか?アレ?」
「冗談でコンパなんて誘いませんよ。」
「4対3でいいんじゃね?」
常磐は、友人が主催するコンパに誘われていた。
4対4でやるはずが、1名の欠員が出てしまった。
幹事である友人は色々手を尽くしたが、その日は誰も捕まらなかった。
常磐の先輩が、無職でいつも暇してるというのを聞いた友人が、常磐に頼んだのだった。
「こういうのは、4人揃えるのが常識なんです。女性側が1名減るのは許されますけどね。」
「後で、文句言うなよ?何故か昔から俺がコンパ行くと後から苦情が絶えないんだ。」
「そのうち、誘われなくなるんでしょ?」
「くっ・・・。」
「41歳無職のおっさんに、女性が興味持つとも思えませんしね。たまにはネタ要員ってのもいいんじゃないですか?」
「まあいいだろう。」
「それに職業は、適当に嘘をついてもいいですよ?」
「俺は、女性に嘘はつかないっ!」
「・・・。じゃあネタ要員お願いします。相手は看護士さんなんで、旨く行けば、ヒモ生活も夢じゃないかもですね。」
「看護士っ!」
「テンションあがりました?」
「少しだけな。」
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