第2話 人との壁は見えないふりで

 歩いて30分のところに高校がある。自転車で行けば、13分。バスで行けば、8分。一番効率的なのは自転車。チャリ通は高校ぽいっし。でも僕は歩く。

 なぜか。歩くのが好きだから。こうやって、歩いているときに色々考えられるし。五感も刺激される。それに、歩くのは世界に直接干渉している気分になれる。

 ほら、いま自転車で通り過ぎたサラリーマン。ベテランの入り口ぐらいの年齢だ。健康を気にしかけて来て、でも歩くのは嫌で、最終的に自転車にしよう。という感じだろう。僕の横を前から素早く通り過ぎたのは20代の女性。何をしているかは不明だが、人生を謳歌しているのだろう。でも今は、朝6:30だ。

『爆笑★インコ』なんていうTシャツを着てヘッドフォンで外国風のパンクを聞いて僕にも聞こえる大きな音で聞きながら歩くのには早い気がする。

 なぜ、こんなに早いかって。僕が歩きなのと、学校が早いこと。所謂0時限目があるからだ。朝7:30から。だからその前についておく必要がある。そんな理由だ。

 そういえば僕が歩きなのはもう一つ大きな理由がある。少しさっき言った世界への直接的な干渉に通ずる部分がある。

 例えば、僕がこの信号待ちでいきなり

「ねぇ、『正解』って何。自分の常識は誰かの非常識じゃないの。それともこんなことに疑問を持たないのが正解なの。」なんて大声で叫んだとしよう。なぜ、こんな口調かは知らないけれど。周りの人はざわつくだろう。そのままスルーするかもしれない。うるさいと思うだけかもしれない。すこし、内容について考えるかもしれない。もしかしたら、万が一、十万が一、三十代の世帯もちのサラリーマンが、奥さんにもしかしたら、

「なんか今日、交差点で叫びだした高校生ぐらいの男の子がいたんだよね。」

「なんて言ってたの。」

「ああ、確かな、、、。」みたいな感じで、話が広まるかもしれない。奥さんがフォロワー何十万人ぐらいのSNS使いで、ちょっといい話だったから、呟くわ、なんて言って、全世界に広まるかもしれない。

 おそらく、僕はこんなわずかな可能性を味わって、その可能性を持っている自分に酔いしれるために、歩いているのかもしれない。

 時計の針は、予定の30度前ぐらいに存在している。これも予定通りだ。

 あっ、あんなところで猫背でうろうろしているのは彼だろう。たしか高校はこの辺だったかしら。そう、彼のペンネームは

 烏目鳥目。

 うん、本名、塔堂 雫。

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