★18 さよなら

 ああ、わかる。

 紅恋くれんはぼんやりと煙る自分の目を閉じた。

 もうすぐ終わりがやってくる。

 あたしの、終わりが。


 もう、十分だもの。

 いままで、辛いこともあったけど、楽しかったよ。

 優しい笑顔、困った顔、怒ったときの顔、悲しそうな顔、楽しそうな顔、そう、あなたの顔。

 鮮やかに思い出せる。

 あたしが生きてこれたのは、あなたが居たから。

 世界の誰よりも、貴方が大好き。

 あたしの名前を呼ぶ優しい声。

「紅恋」と、そうやってあたしを呼ぶ声。


 それがたとえみんな嘘でも、

 あたしを上手く使うための嘘だったとしても、

 でも、大好きだったの。


 ありがとう。何度言っても足りない。

 ありがとう。

 何度でも言うよ。

 ほんとにほんとにありがとう。


 あたしは、ここで終わり。

 おしまい。じゃあね。

 本当に、大好きだったよ。


 さよなら。

 さようなら。


 扉が、重い音を立てて開いた。

 紅恋にはその扉を開けた人物が黒衣こくいではないことが分かっていた。


 さようなら。


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