★15 ひとりきり

 紅恋くれん……

黒衣こくい!?」

 紅恋は飛び起きた。

 期待を込めて辺りを見回すが、誰も居ない。そして自分が眠ってしまっていたことに気がついた。先ほどの声は夢の見せた幻だったのだ。

 そうと分かると、彼女は落胆に肩を落とした。

「こくい」

 切なげに呟くが、彼は現れない。

 紅恋は龍巳が来た時から、そのままずっと広間に居た。

 彼が帰ってきたら、洸たちに会った事をすぐに相談しようと思っていたからだ。

 しかし、彼の帰ってくることを知らせる兆しは未だ全く無い。もうじきに夜が明ける時間だ。今までこんなことはなかった。紅恋を、黒衣が一人にすることなど。

「すぐに帰るって、言っていたのに……」

(もしも、このまま帰ってこなかったら?)

 そんな考えがふと頭を掠め、紅恋は慌てて頭から追い払った。そんな事起こる訳がない。

「だって、指切りしたもの」

 だから、大丈夫――――

 自分に言い聞かせるようにして、彼女はソファに座り直した。そして扉を見つめる。さっきまでしていたのと、同じように、早く開かないかと期待をして。

 重苦しい静けさが一人の少女を押し潰そうと、じわじわと華奢な体躯にのしかかっていった。

 ひやりとした沈黙が、足元から這い上がってくる。

 冷たい。

 見えない手で胸をぎゅっとつかまれたようで、苦しかった。

 早く帰ってきて。

 あたしは待ってるから。

 ねぇ、お願い。

 不安なの。


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