★13 ひたすらに

 紅恋くれんは、頭がついていかず、驚いたままで目の前で起こる事を見つめていた。帽子を取られて、サングラスが落ちた。自分の髪が現れるのも、目が露わになるのにも気がついた。あの子は急に叫び出し、身体から光を発して、それに包まれた。あの子の野球帽が空に舞って、あたしよりは短い、それでも長い青い髪が現れた。

 彼女は苦しそうだったが、それを堪えて、あたしを睨んできた。歪めた顔のまま、開かれた自分と同じ唇。そこから発せられた言葉は、

「人殺し!」

 叫ばれた悲痛な声が耳に突き刺さって、その言葉を耳が受け止めたとたん、足が動き出した。

 紅恋は、顔を歪ませた。 

 その言葉に言い訳はできなかった。言い逃れもできなかった。ただ、真実だったから。

 手に持ったままだった花束が邪魔になり、道路に投げ捨てる。黄色い花びらが散って、悲しげに打ち捨てられた向日葵は、リボンが解けて道路に広がった。

 涙が伝う。

 それを擦る暇も無く、紅恋は走り続けた。

 七年前の、あの日のように。

 彼女は思い出していた。あの青がどこで見た物かを。

 今でも、思い出せる、あの同じ日の優しい声。


「どうしたんだ?」

「あなた?」

「見てみろよ、この子はうちの子とそっくりだ」

「まぁ、本当。どうしたのかしら。この色……」

「なぁ君、どうしたんだ?」

「言えないんじゃないかしら。ほら、こんなに怯えてるわ」

「そうか。君、ほら、一緒においで? うちには君と同じくらいの歳の子がいるんだ」


 差し出された大きな手。

 優しい笑顔。

 青い髪に、微笑んでいるような光を湛えた青い瞳―――

 透き通るような、優しい青……


 あの子の瞳と、同じ色。

 きっと、きっとあの子は―――

 あたしが殺めてしまったあの男の人と、女の人の……

 青い目。

 顔、女の人にそっくりだった。

(あの子は、娘なんだ)

 また、一粒大きなガラス玉が伝い落ちた。

 紅恋は走り続けた。一刻も早く家に帰り着きたかった。

 黒衣こくいに、会いたい。

 こんなにも、悲しさが溢れるから。自分のやってしまった罪の重さが、限りなく近くに感じられたから。

 あの、青い瞳があたしを睨み付けるから。

 あの言葉が、木霊のように響き続けるから。


「人殺し!」


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